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睡眠は心身の疲労回復、免疫機能の維持、記憶の定着など、生きていく上で欠かせない様々な生理機能の調節に関わっています。
睡眠が不足すると、うつ病や糖尿病、高血圧、がん、認知症といった多くの疾患リスクを高めることは医学的に知られているところです。
特に日本では短眠の傾向が見られ、世界の平均睡眠時間は7〜8時間が多い中、日本人は6〜7時間と短くなっています。
そして近年では、睡眠不足が「腸内フローラの破綻」を誘発することが明らかになってきました。
最初に述べたように、腸内フローラの破綻は心と体の双方に不調をきたすリスクを高めます。
しかし、睡眠不足が腸内フローラに悪影響を与えるメカニズムはまだ解明されていませんでした。
そこで研究チームは、北海道・寿都町(すっつちょう)に暮らす健康な男女35名(41〜60歳)を対象に調査を開始。
参加者の睡眠記録と採取した便をもとに、睡眠が腸内フローラの組成や細菌の代謝産物に及ぼす影響を分析しました。
その結果、睡眠不足が短い人ほど、腸内で分泌される「αディフェンシン」の分泌量が低下していることが判明したのです。
αディフェンシンとは、小腸にのみ存在するパネト細胞から分泌される物質で、腸内に侵入してきた病原体の殺し屋として働く”抗菌ペプチド”と呼ばれます。
同時に、腸内フローラの組成を適切に制御することによって腸内環境の恒常性を保つ役割も果たしています。
それゆえ、分泌量が減ったり、質に異常が生じると、腸内フローラの破綻を引き起こすと考えられるのです。
実際、今回の研究でも、αディフェンシンの分泌量が少ない人では、腸内フローラの組成が崩れ、免疫機能の維持に重要な菌代謝産物の「短鎖脂肪酸(酢酸や酪酸など)」が減少していました。
以上の結果から、睡眠不足に陥ると、小腸でのαディフェンシンの分泌量が減り、健康な腸内環境を維持できなくなることで、腸内フローラの破綻が起きると結論できます。
これまでの知見では、睡眠不足が腸内フローラの破綻を介して心と体の不調を起こし、多岐にわたる疾患リスクの上昇に関与することが分かっていました。
しかし、睡眠不足によるαディフェンシンの減少が、腸内フローラの組成変化に関わることが示されたのは世界で初めてです。
本研究の成果は、睡眠不足に伴う疾患リスクへの対処において全く新しい洞察を与えます。
たとえば、これまで不明だったαディフェンシンの重要性が明らかになったことから、今後、αディフェンシンの分泌誘導をターゲットとした睡眠障害に対する予防法や治療法の開発が期待されます。
参考文献
睡眠不足が腸内細菌叢を乱すメカニズムを初めて解明~αディフェンシンによる睡眠障害の改善に期待~ https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/04/post-1216.html元論文
Shorter sleep time relates to lower human defensin 5 secretion and compositional disturbance of the intestinal microbiota accompanied by decreased short-chain fatty acid production https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2023.2190306