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「ひっつき虫」とは、動物やヒトに張り付く植物の種子の俗称です。
ひっつきのメカニズムは複数存在し、棘(とげ)や鉤(かぎ)で刺したり引っかけたりするものや、粘液を出して張り付くものがあります。
自ら移動できない植物にとって、ひっつき虫による種子散布は「分布域を広める唯一の機会」だと言えます。
子供の頃、服に張り付いた「ひっつき虫」は、単なるゴミや汚れの付着ではなく、植物たちの高度な生存戦略だったのです。
では自然界において、この生存戦略はどのように機能しているのでしょうか?
これまでの研究では、家畜やシカ類などの一部の動物種に種子が付着しているか確認する程度であり、野生動物による種子の付着散布の実態は国内外でほとんど知られていませんでした。
そこで佐藤氏ら研究チームは、6種の中型哺乳類(アカギツネ、アナグマ、アライグマ、タヌキ、ニホンイタチ、ハクビシン)のはく製模型に車輪を付けて、5つの調査地点(ミュージアムパーク茨城県自然博物館の野外施設にある林の縁)の地面上を移動させました。
そして、それぞれの体表に付着する種子を回収・分析しました。
その際、動物種や季節(植物が生育している10月と枯死した12月)による付着量と付着部位の違いに注目しました。
10月と12月の付着調査の結果、植物7種、合計9033個の種子がはく製模型の体表に付着しました。
そして分析すると、「どの動物にどれだけひっつき虫が付着するのか」という疑問の答えは、植物種・動物種・季節の要素が複雑に絡み合ったものだと分かりました。
例えばチヂミザサ(ササに似た植物。赤いノギの先の粘液で付着する)に注目した場合、10月にハクビシンに付着する割合は、キツネやアライグマと同様に大きいものの、12月になると極端に小さくなりました。
これは、植物が枯死することで茎が倒れ、種子の位置(高さ)が変化したことが原因だと考えられます。
基本的に種子の付着量には動物の「体毛の長さ」と「重複幅(種子が存在する位置と動物の体が重なる幅)」が影響します。
例えばイノコヅチ(長楕円形の葉を持つ植物。棘状の小苞で付着する)では、10月には動物の背丈の位置に種子が実っているので、多くの動物と接する機会が増え、結果手に種子の付着量は全ての動物で多くなっていました。
しかし12月になるとイノコヅチが枯死して、種子の位置は地面近くまで下がってしまいます。
すると付着できる動物が制限され、結果として体毛が長い動物にだけ多く付着するようになっていました。
このように種子が付着しにくい季節でも、ひっつき虫は体毛の長い動物種になら低い位置からでも集めるてもらうことができるようです。
具体的には在来種のキツネやタヌキが冬にひっつきやすい候補となりました。
しかし、調査によると在来種よりも外来種であるアライグマやハクビシンの方が種子を多く散布していたのです。
これらの結果は、多様な構造を持つそれぞれの「ひっつき虫」が、自身の特性や季節の変化に応じて、種子を散布してくれる動物種を変化させていることを意味します。
そして基本的には環境を乱す存在と考えられる外来種が、種子散布者にとっては重要な役割を果たすこともわかりました。これは今後も検証すべき問題となるでしょう。
ひっつき虫の生存戦略は、私たちが考えていた以上に複雑だったようです。
今後、動物ごとに「付着した種子がどこに落ちるのか」研究することで、種子の散布過程をより深く理解できるでしょう。
私たちは子供のころ、体中にひっつき虫が付着するのを見て、無邪気に笑っていたかもしれません。
しかし実のところ、植物たちの複雑で狡猾な生存戦略に「幼少期のヒト」として、知らず知らずのうちに組み込まれていたようです。
参考文献
ひっつき虫は誰が運ぶ?~動物に付着する種子の量に影響する要因の解明~ https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/20230412_01.html元論文
Seed attachment by epizoochory depends on animal fur, body height, and plant phenology https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1146609X23000267