2023 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での日本優勝や、MVPを獲得した大谷翔平選手の活躍が大きな話題を呼びました。

そんな大谷選手は、投手と打者の二刀流でありながら、数多くのホームランを打つ選手として注目されています。

そして彼が所属しているメジャーリーグベースボール(MLB)では、全体として過去数年間でホームランの数が劇的に増加しています。

MLB全体でホームランが増加してきた理由はいったい何でしょうか?

アメリカ・ダートマス大学(Dartmouth College)気候科学科に所属するクリストファー・W・キャラハン氏ら研究チームは、過去のメジャーリーグの10万試合を分析し、ホームラン増加の原因の1つが地球温暖化にあると発表しました。

研究の詳細は、2023年4月7日付の学術誌『Bulletin of the American Meteorological Society』にて報告されています。

目次

  • MLBではホームランが劇的に増加している
  • 年間ホームラン数の1%は地球温暖化によるものだった

MLBではホームランが劇的に増加している

Credit:Canva

外野フェンスを越える「ホームラン」は、一気に大量得点が見込める「野球最大の見せ場」と言えます。

一発逆転の可能性を秘めたホームランは、本来「貴重なもの」でした。

ところが近年、メジャーリーグベースボール(MLB)では、ホームランの数が劇的に増加しています。

下記のグラフは、MLBチームの1試合あたりの平均ホームラン数の推移を示しています。

Credit:The Conversation_MLB home run counts are rising – and global warming is playing a role(2023)

このグラフによると約60年でホームラン平均数が0.8本から1.2本にまで増加しているのが分かります。

そして2022年には、ニューヨークヤンキースのアーロン・ジャッジ氏が、記憶破りの年間62本ものホームランを打ちました。

これほどまでにMLBのホームランが増加しているのはなぜでしょうか?

1つにはスポーツ科学の発展があるでしょう。

選手や監督・トレーナーたちは、科学的な根拠に基づいてトレーニングや食事、睡眠を改善してきており、そのことが「ホームランを打ちやすい体と技術」の構築に役立ってきたのです。

しかしそれ以外の要因として近年注目されているのが、「地球温暖化がホームラン増加に関係している」という考えです。

この考えは、単なるこじつけではありません。

物理学的には空気が温かくなればなるほど、空気が膨張するため気体密度は低くなります。

その結果、空気抵抗が小さくなり、打球はより遠くへ飛びやすくなるのです。

Credit:The Conversation_MLB home run counts are rising – and global warming is playing a role(2023)

つまり「気温が高いと打球が飛びやすい」というのは物理学上の事実であり、アメリカ海洋大気庁が「6~8月のアメリカの平均気温は過去40年間で2℃以上も上昇している」と述べるように、地球の気温が年々上昇していることも事実です。

これらを考えると、地球温暖化とホームランの増加には関連性が見られるかもしれない、というわけです。

しかし先に述べた通りホームラン数の増加には選手のトレーニングの最適化、球場の設計、試合のシーズン状況、風向き、バットやボールなど道具の改善など、さまざまな要因が考えられます。

こうした要素を排除して気温上昇のみにフォーカスし関連性を証明する科学的な調査は、これまで行われていませんでした。

そこで研究チームは、気象やスタジアムなどの環境要因を考慮しつつ、過去数年間のMLBの10万以上の試合と、22万の打球を分析しました。

この分析には、2015年以降に設置された高速カメラによるデータ分析も含まれています。

例えば、同じ角度・速度の打球データを集め、気温の高い日と低い日の違いを比較しました。

年間ホームラン数の1%は地球温暖化によるものだった

分析の結果、気温が1℃上がるごとにホームランの可能性が約1%増加すると判明しました。

また平均的な試合と比べて、気温が10℃高い試合では、ホームラン数が20%近く増加していました。

Credit:The Conversation_MLB home run counts are rising – and global warming is playing a role(2023)

そして彼らの計算によると、2010年以降の500本以上のホームランは、地球温暖化による大気密度の低下が直接関係していました。

この数字は、年間ホームラン数の約1%が地球温暖化によって発生したことを意味します。

わずかではあるものの、地球温暖化は確かにホームランを増加させていたのです。

2019年のMLB史上最多記録である「年間6776本のホームラン」に当てはめると、そのうち68本に地球温暖化が関係していたことになります。

Credit:Canva

この分析結果は、ベテランのプレイヤーや監督たちの感覚とも一致しています。

フィラデルフィア・フィリーズのジェネラルマネージャーであるデーブ・ドンブロウスキー氏は、「私たちは何年も前から、常にそう感じてきました。暖かくなると、ボールはより遠くに飛ぶのです」と述べました。

今回の研究では、導き出されたモデルをもとに、今後地球温暖化が進んだ場合のホームラン数の変動も計算されています。

それによると、今後最悪のペースで地球温暖化が進んだ場合、「地球温暖化によるホームラン」が、2050年までに年間192本、2100年までに年間467本発生すると予測されています。

ホームラン自体は観客を興奮させるものですが、ホームランの過剰な増加は、野球の単純化・面白さの低減に繋がります。

地球温暖化は世界中の人々が抱える問題ですが、「野球に命を懸ける熱狂的なファン」にとっては、より深刻な問題かもしれません。

地球温暖化はすでに私たちの身近な娯楽に対しても、影響を与え始めているようです。

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参考文献

MLB home run counts are rising – and global warming is playing a role https://theconversation.com/mlb-home-run-counts-are-rising-and-global-warming-is-playing-a-role-203226 Climate change adding 50 homers a year in MLB, study says https://abcnews.go.com/US/wireStory/study-climate-change-juicing-homers-98426492

元論文

Global warming, home runs, and the future of America’s pastime https://journals.ametsoc.org/view/journals/bams/aop/BAMS-D-22-0235.1/BAMS-D-22-0235.1.xml
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 メジャーリーグのホームラン増加に地球温暖化が影響していた!?