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そしてこれらソフトロボットの多くは、自然界に存在する生物を模倣して作られています。
最近、アメリカ・ノースカロライナ州立大学(NC State)の機械・航空宇宙工学科に所属するヨン・スー氏ら研究チームは、イモムシの動きから着想を得た極薄ソフトロボットを開発しました。
電気を流すことで作動し、前進と後退を使い分けながら、わずか3mmの隙間をくぐり抜けることができます。
研究の詳細は、2023年3月22日付の科学誌『Science Advances』に掲載されました。
目次
「後退できない」生物は、意外と少なくありません。
例えば、カンガルーやヘビ、サメなどは体の構造上、後退ができません。
そして後退できる生物でも、その動作を苦手とする場合がほとんどです。
私たち人間も後ろ歩きできますが、通常の歩行に比べると、はるかに遅くなりますね。
そもそも「後退」が必要な場面などほとんどないため、後退できなかったり苦手だったりしても特に問題はないでしょう。
しかし「非常に狭い道や障害物の多い環境」では、「後退」の機能が役立ちます。
例えば、「車ギリギリ1台分の幅しかない険しい山道を進むと、行き止まりだった」なんて場面では、車がバック走行できることに感謝するでしょう。
このことは災害時の救助・捜索活動にロボットを用いる場合にも当てはまります。
人間には入っていけない環境にアプローチする探索ロボットには、生物たちが苦手とする「後退」機能が必要なのです。
そこで研究チームは、シンプルな構造でありながら、前進も後退も得意とするイモムシに着目しました。
イモムシはその体を順番に曲げることで移動しますが、その動きを模倣した薄型のソフトロボットを開発することにしたのです。
研究チームが開発したソフトロボットは、まるで紙切れのように薄い体を持っています。
この体は異なるポリマーの2つの層で構成されており、加熱によって上部が膨張し、下部が収縮するようになっています。
また最上層には銀のナノワイヤーが埋め込まれています。
特定の部位のナノワイヤーに電気を流すことで、その周辺のポリマーが加熱されてカーブを作ります。
そしてチームは複数の部位に対して順番に電気を流すことで、イモムシのような柔らかい動きを生み出すことに成功しました。
イモムシは前進と後退の両方で体の後部を曲げていますが、カーブの大きさや作り方はそれぞれ異なります。
前進では曲がる部位が少なくやや小さめのカーブを作るのに対し、後退では体の半分近くを曲げて大きなカーブを作るのです。
研究チームが開発したソフトロボットでも、イモムシの前進と後退の両方のカーブを模倣し、どちらの方向にも移動できるようにしました。
前身の速度は0.5mm/s、後退の速度は0.72mm/sです。
ちなみにロボットには頭などなく、そもそも前も後ろもありません。
そのため、体の前部と後部の両方で「体を小さく使う前進」と「体を大きく使う後退」の動きが可能であり、環境に応じて効率よく使い分けることができます。
またチームによると、このソフトロボットを上手に動かすコツは、「電流のコントロールにある」ようです。
ソフトロボットは、体の各部が「加熱によるカーブ作成」と「冷却による弛緩」を繰り返すことで移動します。
そのため、移動速度を上げるためには、単に熱量を大きくすればよいわけではなく、電流をコントロールして加熱と冷却の適度なサイクルを生み出すことが大切だったのです。
加えて、ソフトロボットは3mm以下の極薄な体を持っており、高さが限られたスペースにも難なく入っていけます。
テストでは、幅14mm、長さ70mmのソフトロボットが、障害物によって生じた高さ3mm、距離30mmの隙間(トンネル)を通過することに成功しました。
この高さでは、隙間の下に入った状態で身動きすることはできませんが、このロボットは隙間の外にある部位を器用に動かして移動し続けることができました。
このソフトロボットを利用するなら、これまで人間が入れなかった場所を探索することができます。
仮に3mmの隙間しかなかったり、方向転換するスペースがなかったりしても、イモムシのように前進と後進を使い分けて進入・退出できるのです。
研究チームは、次の段階として、捜索救助用のデバイスをソフトロボットに統合する方法を探っています。
参考文献
Robot Caterpillar Demonstrates New Approach to Locomotion for Soft Robotics元論文
Caterpillar-inspired soft crawling robot with distributed programmable thermal actuation