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この甲虫類が世界でも最大のグループである理由は、彼らが全く水の存在しない乾燥した環境でも生きていける点にあります。
彼らは驚いたことに、空気中に含まれる僅かな水分を吸収して生きることができるのです。
またこれら甲虫は、世界の食料生産に壊滅的な影響を与える害虫の1つでもあります。
実際、穀物を食べるコクヌストモドキ(学名:Tribolium castaneum)やコクゾウムシ(学名:Sitophilus zeamais)、ジャガイモに寄生するコロハドハムシ(学名:Leptinotarsa decemlineata)などは、世界の食糧の最大25%に侵入して被害を与えていると言われています。
極度に乾燥した地域でも生存できるコクヌストモドキやコクゾウムシは、発展途上国の食料に大きな影響を与える存在です。
これらの甲虫が厄介なのは、先にも述べた水分の無い環境でも生きられる生存力の高さにあります。
彼らは「お尻から空気中の水分を効率よく吸収できる」という特性を持っているため、液体の水を一滴も飲まずに生涯を過ごせるのです。
こうした特性は1世紀以上も前から知られていましたが、今までそのメカニズムが完全に解明されたことはありませんでした。
もし、この水分吸収メカニズムを解明できるなら、その特性を弱体化させるような新しい駆除方法を発見できるかもしれません。
そこでハルバーグ氏ら研究チームは、動物行動学及び食品安全研究のモデル生物でもあるコクヌストモドキを対象に、お尻で空気中の水分を吸収するメカニズムを分析することにしました。
コクヌストモドキなどの甲虫類は直腸を開いて、湿った空気から水分を直接吸収し、体液に変換することができます。
また食物からも効率よく水分を吸収できます。
その証拠に甲虫類が排泄した糞には水分がほとんど残っていません。
水分含量1~2%の乾燥した穀物でさえ、甲虫類の体を潤すのに役立つと言われています。
研究チームが、このメカニズムを解明するため、コクヌストモドキの内臓を調査したところ、彼らはコクヌストモドキの直腸で他の部位に比べて60倍も多く発現している遺伝子「Nha1」を特定しました。
そしてこれらが「レプトフラグマタ細胞(Leptophragmata cells)」と呼ばれる独特の細胞群に局在していると判明。
レプトフラグマタ細胞は、甲虫の肝臓と循環器系(昆虫の血液)の「窓」のような存在であり、直腸から水分を効率よく吸収して体内に送っていました。
今回の調査で、遺伝子「Nha1」がコクヌストモドキの効率的な水分吸収の鍵だと分かりました。
実際チームが遺伝子「Nha1」の発現を抑制すると、コクヌストモドキの排泄水分量は劇的に増加し、乾燥した環境での生存率も低下しました。
このコクヌストモドキに関する発見は、他の甲虫類にも通じると考えられます。
つまり、「Nha1」の発現を抑制する方法を発展させれば、世界中で作物を荒らす甲虫類たちを一斉に駆除する「環境に優しい殺虫剤」の開発に繋がる可能性があるのです。
「お尻で空気中の水分を吸収する甲虫類」の「お尻」を使えなくすることで、世界中の食糧問題が大きく改善されるかもしれません。
参考文献
Researchers get to the “bottom” of how beetles use their butts to stay hydrated https://science.ku.dk/english/press/news/2023/researchers-get-to-the-bottom-of-how-beetles-use-their-butts-to-stay-hydrated/ Science behind beetle butt hydration could save world crops https://newatlas.com/biology/bottom-beetles-water-absorption/元論文
NHA1 is a cation/proton antiporter essential for the water-conserving functions of the rectal complex in Tribolium castaneum https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2217084120