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科学は長きにわたって築かれてきた人類の叡智であり、私たちの生活を豊かにし、より健康的で幸せな生活を送るよう助けてきました。
そのため、研究主任のニコラス・ライト(Nicholas Light)氏は、科学に反対する人々について次のように述べています。
「人々が優れた科学に反する行動をとると、彼らは病気になり、家やお金を失い、死んでしまうこともあります。
一部の人たちが、なぜ科学的コンセンサス(ある分野に対する学者たちの総意・共通理解)に反対するのか理解できるなら、科学者や政治家は人々を助けるための介入策をつくれるでしょう」
例えば、科学者や医者の総意に反して「ある種の薬剤投与には効果がないどころか人体に害を与える」と考えている人々がいるとします。
そうした人々の考え方を理解して変えてあげられるなら、実際に重症リスクを避けたり、病気による死者数を減らしたりできる、というわけです。
そこでライト氏ら研究チームは、科学的コンセンサスに反対する人々を理解するために、彼らの科学知識を確かめることにしました。
最初に研究チームは、アメリカ在住の成人3249名を対象に、科学知識に対する自己評価を調査しました。
参加者たちに、7つの科学テーマ(気候変動、遺伝子組み換え食品、原子力発電、ワクチン接種、進化、ビッグバン、ホメオパシー医学)のうち1つをランダムに割り当て、そのテーマに対する科学的コンセンサスを支持するか、反対するかを尋ねました。
また、そのテーマについて、「なんとなく理解している」から「完全に理解している」まで7段階で評価してもらいました。
次に、参加者たちの科学知識を評価するために、ランダムな順番で出題される34問のテストを実施。
彼らは、「地球の中心は高温である」「すべての昆虫は8本足である」「電子は原子よりも小さい」「窒素は地球の大気の大部分を構成している」「太陽系でヘリウムが採取できるのは地球だけである」などの問題に、「真」か「偽」で回答しました。
その結果、与えられたテーマに関する科学的コンセンサスに反対する人ほど、そのテーマについて「完全に理解している」と主張する傾向があると判明。
しかし、それら科学的コンセンサスに反対する人ほど、科学知識のテストでは点数が悪くなる傾向にありました。
この結果について、ライト氏は次のように述べています。
「科学者は、私たちの周りの世界を説明するために常に議論しています。
しかし時には、非常に強力な証拠があったり、一貫性があったりして、特定の論題に対して科学者のほとんどが同意することがあります。
この科学的コンセンサスを強く拒む人たちは、自分の科学知識が最高レベルにあると信じていますが、実際には最低レベルにあるという事実を発見しました」
このことから研究チームは「事実に基づく教育的介入は、科学的コンセンサスに強く反対する人に有効ではない」という結論に至りました。
例えば、ワクチンを接種するよう説得するために教育キャンペーンを実施したとしても、反ワクチンの思想を抱く個人は「自分はワクチンとウイルスについて完全に理解している」と感じているので、それらの教育に耳を傾けることはないのです。
もちろん、どんなことを信じるか、どんな知識を取り入れるか、どんな選択をするかは私たち個人に自由があります。(また反科学の人たちが強く信じている考えが実際に合っている場合もあるかもしれません。)
しかし、その結果は自身や周囲に良からぬ影響を与える可能性があるでしょう。
だからこそ、専門家たちの科学的コンセンサスとその根拠を理解しようと努め、より良い判断と決定にたどり着きたいものです。
※この記事は2022年7月に掲載したものを再編集してお送りしています。
参考文献
Science opponents believe their knowledge ranks among the highest, but it is actually among the lowest
https://www.psypost.org/2022/08/science-opponents-believe-their-knowledge-ranks-among-the-highest-but-it-is-actually-among-the-lowest-63762
元論文
Knowledge overconfidence is associated with anti-consensus views on controversial scientific issues
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abo0038
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。