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カナダ・レスブリッジ大学(University of Lethbridge)による2022年の研究で、カニクイザルは石を使って自らの性器を刺激する「自慰行為」を行っていることが判明しています。
サルたちが自慰に使った石を調べてみると、大きさや形状、表面の粗さに一定の傾向(=好み)があり、オスとメスでは使用方法にも差がありました。
食事とは関係しない快楽のための道具使用が、霊長類で進化的に保存されている(広くみられる)可能性があります。
ではサルたちはどんな石テクニックを使って「自慰」をしているのでしょうか?
※ 以下、記事中にはサルのセンシティブな画像および映像が流れます。
研究の詳細は2022年8月4日付で科学雑誌『Ethology』に掲載されています。
目次
これまでの研究により、ヒト以外にも、ウマ・シカ・パンダ・ヤマアラシ・セイウチ・コウモリ・鳥などのさまざまな種で自慰行為が確認されています。
高度な知能を有する動物たちにとって性は繁殖を行うためだけに植え付けられた本能ではなく、快楽を楽しむための手段にもなっているのです。
また2016年に行われた研究では、チンパンジーが果物のカケラを用いて自慰行為を行っている様子も確認されました。
2018年には下図のように、チンパンジーが人間の捨てたペットボトルを使って自慰行為をしている様子も確認されています。
これまでの研究によりチンパンジーには石をつかって木の実を砕いて中身を食べるなど、「食欲」のために道具を使用することが知られていましたが、「性欲」のためにも道具を使っていることが判明したのは大きな驚きでした。
そこでレスブリッジ大学の研究者たちは2022年に、インドネシアのバリ島に生息するカニクイザルたちを対象とし、道具を用いた自慰行為が他にも見られないかどうか調べることにしました。
すると驚いたことに、カニクイザルたちは石を用いた自慰を行っていることが判明したのです。
実際に観察された石での自慰行為がこちら。
オスの場合は上の動画のように、陰茎に1つまたは複数の石をリズミカルに擦りつけたり、ジャラジャラと叩きつけるようにして刺激を与えていました。
一方で、オスのように性器が外に露出していないメスでは自慰行為の仕方も違います。
では、メスの方を見てみましょう。こちらです。
メスの場合はこの動画のように、下腹部の下に石を配置して女性器を擦り付けていました。
またカニクイザルたちが自慰に使用している石を調べたところ、メスが使用する石はオスにに比べて、より表面が荒く、より角ばった石を使用することが判明します。
さらにカニクイザルたちが遊びで使う石などと比較を行ったところ、オス・メスともに自慰に使う石は、数・大きさ・表面の粗さなどの変動幅が少なく、一定の数値に収束する傾向があることがわかりました。
この結果は、カニクイザルが自慰に使う石は、遊びに使う雑多な石に比べて「厳選」が行われ、特定の(好みの)形状のものが多用されていることを示します。
しかしカニクイザルは研究対象として比較的メジャーな動物であるのに、なぜこれまで石を使った自慰が報告されていなかったのでしょうか?
なぜカニクイザルたちの石を使った自慰が知られていなかったのか?
研究者たちによると、その原因の1つは環境にあるといいます。
ここでの研究対象となったカニクイザルたちは保護区で飼育されており、人間たちによって毎日十分なエサが提供されていました。
そのため、カニクイザルたちは本来ならばエサを探す時間と労苦があるはずですが、飼育環境のおかげでその苦労から解放されたお陰で、道具を使った自慰など生存に必要ないスキルを身に着けることができたのだろう、と研究者たちは結論しました。
人類は農耕を開始したことで得られた時間的余裕を文明発展や技術開発に使用し、それはやがて娯楽の追求へと発展していきましたが、カニクイザルたちはそれが自慰スキルの開発に向かったのかもしれません。
また自慰を行う目的も純粋に快楽のためである可能性が高いとのこと。
以前の研究では「霊長類のオスの自慰は質の低い古い精子を排除するのに役立つ可能性がある」との仮説が立てられていました。
しかし今回のカニクイザルのオスに見られる「石を使った自慰行為」は射精が伴っていませんでした。
つまり単に気持ちいいからやっているだけであり、古い精子の排除という仮説は当てはまらない可能性があります。
研究者たちは、道具を使った自慰行為は自分で自分を気持ち良くする脳の自己報酬メカニズムが根底にあり、複雑な自慰は進化の過程で保存されている可能性があると述べています。
もし研究者たちの予測が正しければ「大人のオモチャ」の起源は私たちが考えているよりもずっと古いものとなるでしょう。
もしかしたら人類の先祖が最初に手に取った石も、食欲ではなく性欲のためだったのかもしれませんね。
※この記事は2022年8月に掲載したものを再編集してお送りしています。
元論文
Do monkeys use sex toys? Evidence of stone tool-assisted masturbation in free-ranging long-tailed macaques
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/eth.13324
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。