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しかし疑問が生じます。
素人がプロの真似をして高所から水面に飛び込んだ場合、どの程度であれば怪我をしないで済むのでしょうか?
ジョン氏も、この点で研究が不足していることを、次のように指摘しました。
「人間の生体力学では、高齢者の転倒による怪我や脳震とうなど、スポーツ外傷に関する膨大な文献があります。
しかし、飛び込みによる怪我の研究はありません」
そのため彼らの研究チームは、3Dプリントした実物大の人体モデルを用いて、着水の方法でどのように衝撃が変わるか実験しました。
また、人間の筋肉、靭帯、骨が耐えられる衝撃を計算し、鎖骨や脊髄、膝などが損傷する可能性にも着目しました。
実験の結果、訓練を受けていない人間は、次のケースで怪我をする恐れがあると分かりました。
特に注目できるのは、頭から着水した場合です。
素人が飛び込み選手の真似をすると、指先から着水できず、脊髄に大きなダメージを負ってしまう恐れがあるのです。
そのため飛び込みにチャレンジするときは、体をひねったり丸めたりしようとせず、足からそのまま落ちるのがベストでしょう。
ちなみに、安全のボーダーラインである「15m」は、4階建てビルくらいの高さになります。
仮に、それ以上の崖で敵に追い詰められることがあるなら、命を狙われているのではない限り、おとなしく捕まった方がよさそうです。
また今回の実験では、人間モデルのほかに、飛び込みを得意とする動物の身体の一部(ネズミイルカ’Phocoena phocoena’の頭部、シロカツオドリ’Morus bassanus’のくちばし、チャイロバジリスク’Basiliscus basiliscus’の足)での衝撃も計算しました。
その結果、これら動物の身体構造が、衝撃を緩和するのに役立っていると判明。
例えば、イルカは頸椎(けいつい)同士が融合していて短いため、人間のように首を曲げて振り向いたりできないと言われています。
しかしこの構造が水中を泳いだり、飛び上がって水面に着水したりするときに安定感を与えると分かりました。
イルカは、人間が頭から着水したときに損傷しやすい部位を見事に保護していたのです。
研究チームは、今回の結果を、空中と水中の境界をスムーズに越えるための、新しい工学設計に役立てられると考えています。
※この記事は2022年7月に掲載したものを再掲載しています。
参考文献
Look before you leap: Study provides safety guidelines for diving
https://news.cornell.edu/stories/2022/07/look-you-leap-study-provides-safety-guidelines-diving
元論文
Slamming dynamics of diving and its implications for diving-related injuries
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abo5888
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。