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拡大すると、このような感じです。
ただし、この儀式が文学上の作り話なのか、それとも本当にヴァイキングに伝わる慣習なのかは不明です。
専門家らの間では、何十年も「血のワシ」が伝説として退けられてきました。
これを実際にあったことと証明するのは、考古学的な遺物か、ヴァイキング自身の記述が見つからないかぎり不可能です。
そこでシカゴ大の研究チームは、別のアプローチから、つまり「血のワシは実行可能だったのか」という問いから調査しました。
そして導き出された答えは「イエス」です。
チームは、現代の解剖学と生理学の知見をもとに、「血のワシ」の儀式が生きた人間に与える影響を調査。
その結果、儀式そのものは非常に難しいが、当時の道具や技術であっても十分に実行可能であると結論されています。
まずチームは、背中をすばやく切り開く道具として、ヴァイキングの槍の穂先を使用したのではないかと考えました。
ヴァイキングが使用した槍は遺跡からいくつも出土しており、非常に鋭利だったことが分かっています。
その一方で、どれだけ背中をすばやく丁寧に切り開いたとしても、犠牲者はすぐに死んでしまうことが示されました。
原因は、心身のショックおよび出血多量です。
そのため、肺を取り出してワシの翼のように広げたりするプロセスは、すでに絶命した遺体になされたのでしょう。
肺がひらひらと動く、最後の”羽ばたき”も起きなかったと見られます。
それでも十分に残酷でありますが、研究チームは「ヴァイキングの戦士なら何のためらいもなく実行できたろう」と述べています。
ヴァイキングの遺跡からは、これまでに、人為的に処置を加えた人や動物の遺体がたくさん見つかっています。
たとえば、ビルカ(Birka、スウェーデンにあるヴァイキング時代の都市遺跡)の地で発掘された10世紀頃の貴婦人の遺体。
彼女は身なりが綺麗に整えられていましたが、生前に斬首された頭が、右脇に挟まれた状態で安置されていました。
また、斬首の際に失われたと見られる顎骨が、ブタの下顎で代用されていたのです。
これだけ遺体を扱えるヴァイキングですから、「血のワシ」を実践していたとしても何ら不思議ではありません。
参考文献
Brutal Viking Ritual Called ‘Blood Eagle’Was Anatomically Possible, Study Shows
https://www.sciencealert.com/brutal-viking-torture-method-anatomically-possible-concludes-new-research
元論文
An Anatomy of the Blood Eagle: The Practicalities of Viking Torture
https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/717332
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部