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これを観たバムラ氏は「ガントレットをはめた状態で本当に指パッチンできるのか」と学生と議論したと言います。
指パッチンに必要な摩擦や弾性エネルギーが、金属製のガントレットでは生じないのではないかと考えたそうです。
そこでバムラ氏と学生は、指パッチンを物理学的に詳しく調査することにしました。
研究チームは、指パッチンの背後にある物理的メカニズムを解き明かすべく、高速度カメラや力覚センサーを用いて、スナップの動きを分析。
その結果、指パッチンは、腕の筋肉をモーターとして、指や腕の腱に弾性エネルギー(ゴムやバネなど弾性体の変形に伴うエネルギー)を負荷し、それを素早く解放することで、スナップの驚くべき加速度を発生させていました。
親指と中指の摩擦は、中指を親指に固定して動かないようにするラッチの重要な役割を果たしています。
十分なエネルギーが蓄積されると、親指と中指は摩擦を乗り越えて、互いにスライドし、スナップ音が鳴り響きます。
このとき、指パッチンの最大角速度は7800度毎秒(deg/s)、最大角加速度は160万度毎秒毎秒(deg/s2 )に達していました。
バムラ氏は「このデータを初めて見たとき、私は椅子から飛び降りるほど驚きました」と言います。
「指パッチンはわずか7ミリ秒の間に起こっており、150ミリ秒以上かかる目のまばたきの20倍以上の速さでした」
これは、人体の中で最も速い運動になります。
また、スナップを効かせるために必要な摩擦は、少なすぎると十分なエネルギーが腱に蓄積されず、多すぎると蓄積されたエネルギーの多くが運動ではなく熱として放散されてしまうことが分かりました。
スナップする手を「ゴム手袋」や「金属製の指ぬき」などの素材で覆った状態で指パッチンを分析したところ、どちらの素材でも、指のスナップが効かなくなったのです。
ゴム手袋は摩擦が大きすぎて、スナップを熱として放出してしまい、金属製の指ぬきは摩擦が少なすぎて、指のスナップが十分に蓄積されませんでした。
さらに、金属製の覆いは、皮膚のように柔軟に圧縮できないため、スナップの接触面積が非常に小さくなっていました。
つまり、サノスは「ガントレットを装着した状態では指パッチンできなかった」という結論に至ります。
研究者の執念はおそろしいですね…
しかし本研究の成果は、単にフィクション作品の秘密を暴くだけでなく、アリの顎が高速で閉じる物理的メカニズムの理解にも応用できるとのこと。
また、ハイテク義手の設計にも役立つ可能性があるようです。
参考文献
Scientists find the fastest acceleration in the human body
https://www.livescience.com/thanos-finger-finger-snap-fastest-acceleration-human-body
Snapping your fingers is a move worthy of a professional athlete
https://www.popsci.com/science/finger-snapping-physics/
元論文
The ultrafast snap of a finger is mediated by skin friction
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsif.2021.0672
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部