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スバルのMTシフトフィールはどのように作り込まれているか


我われが普段よく口にするシフトフィールという表現は、物理的には何を指すのか。操作時間、操作荷重の変化量、絶対的な操作荷重、伝達振動とノイズなど......いくつかの事象にわかれているのはわかるが、それらをまとめる作業とは、どんなものなのだろうか。


TEXT&PHOTO:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

 マニュアル・トランスミッション(以下MT)は通常、3本の軸で構成される。その機能は、エンジン回転をどれくらいまで落として車輪に伝えるか、である、回転数を下げるとトルクは増える。最終的な回転数に落ちつかせた「出力軸」があり、たとえばスバルBRZ/トヨタ86のような6速MTの場合は出力軸上のギヤ(歯車)とペアになる1~6速の各ギヤが2本の軸に分かれて配置されている。通常、最終減速ギヤが出力軸上に置かれ、それ以外の1本には1/3/5速、もう1本には2/4/6速のギヤが配置される。最終減速ギヤと各段のギヤの減速比の合計が車輪に伝えられるという仕組みだ。




 では、こうしたすべて機械仕掛けのMTについて「気持ちいい操作感」「いいシフトフィール」を得るには、どのような点に気を付けて設計すればよいのか。そこを富士重工業に聞いた。

長谷川 大 氏:富士重工業 スバル技術本部 シャシー設計部 シャシー設計第2課(取材当時)

「まずは、シフトレバーをどの位置に置くか、です。ドライバーとシフトレバーの位置関係です。このとき、ステアリングホイールとシフトレバーの位置関係が重要になります。それとアクセル/ブレーキ/クラッチという3つのペダルとの位置関係です」


 長谷川大さんは話し始めた。富士重工業の設計部門では、MTのシフトレバーとペダルをセットでひとつの部署が担当しているという。また、同じ部署内の別のチームがステアリングを担当しているという。つまりドライバーが操作する3つの要素は、すべて同じ部署が担当している。操作フィールに統一感を持たせるという意味で、非常に妥当な役割分担である。

「BRZの開発では、クイックシフトという目標が車両企画のほうから提示されました。スポーツカーですから、素早いシフト操作ができるようにしてほしいという要望です。そのためにはシフトストロークを短くする必要があります。ただし、シフトストロークを短くすると、いろいろな不都合が出てきます。こちらを立てるとあちらが立たずという背反の関係がたくさんあるのです。いま振り返ると、BRZのシフト機構開発は、さまざまな要件をどう整合させるかという『せめぎあい』の連続でした」




 いきなり話が核心に入った。




「シフトストロークを短くすると、どのギヤに入っているのかがわかりづらくなります。これがミスシフトの原因になります。だから、これ以上は短くしてほしくないという限界値を設計部門と実験部門がはじき出し、MT設計を担当する部署に伝えます」

富士重工業初のFR用MT。ベースはアイシン・エーアイ(当時)製のAZ6。ここ四半世紀で富士重工業がMTを新調した例は、軸間距離75mmの5速MTから、STI仕様での大トルク化を視野に入れた同85mmの6速MTに変わったときだけである。

 待てよ、たしかBRZ/86用の6速MTはアイシン・エーアイ(当時)製のAZ6だったはず。既存のMTだから諸元はすでに決まっていたのでは......。




「たしかにAZ6ですが、BRZ/86への搭載に当たっては、いろいろな条件がありました。パワートレーン設計部門にも、FRスポーツカーのMTならこういうものにしたいという願いがあったと思います。結果的に、設計思想はAZ6というだけで、中身の部品もケースもすべて新設計になりました」




 つまり、軸間70mmというMTの許容トルク量に影響する設計と、シフト=シフトレバーを前後に動かす動作、セレクト=シフトレバーを横に動かす動作の基本機構がAZ6を踏襲した、ということなのだろう。MTの設計はパワートレーン開発チームの領域であり、車両企画部門の要望に沿って開発される。シャシー設計部門はそれを受け取り、ボディにどう固定しドライバーにどう操作させるかを考える。自動車の開発は分業制なのだ。

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