三菱電機と東京大学は、パワーエレクトロニクス機器に搭載されるSiC(※1)パワー半導体素子において、外部からの電磁ノイズの影響を受けにくい動作原理を世界で初めて(※2)考案した。

 家電製品から産業・鉄道車両用機器などで使用されるパワーエレクトロニクス機器では、さらなる高効率・小型化・高信頼性が求められている。このニーズに応えるために、パワーエレクトロニクス機器のキーパーツであるパワー半導体モジュールの素子に従来のSi(ケイ素)パワー半導体素子に比べ抵抗が低いSiCパワー半導体素子を採用し、電力損失の低減を実現する動きが加速している。

 しかし、SiCパワー半導体素子の低抵抗化をさらに進めようとすると、スイッチング動作開始時の制御電圧が低くなり、外部からの電磁ノイズによる素子の誤動作が増加するため、電磁ノイズに対する影響が少ない素子の実現が望まれています。

 

1.硫黄元素を加え、電磁ノイズの影響を受けにくい動作原理を世界で初めて考案

 昨年、三菱電機と東京大学は、SiCパワー半導体素子において、電子の流れをゲート酸化膜とSiCとの界面下に存在する電荷から遠ざけることで電子散乱を抑制し、界面下の抵抗を低減できることを世界で初めて解明した(2017年12月5日時点、三菱電機調べ)。今回、この知見に基づき、ゲート酸化膜との界面から通電領域を離して形成するために、界面近傍に硫黄元素を加えた。

 従来から用いられている窒素やリンなどとは異なり、硫黄元素はSiC結晶内で電子を放出しにくい、すなわち、電子を捕獲しやすい性質があることに着目し、SiCパワー半導体素子へ適用。これにより、ゲート酸化膜に沿う方向に流れる電子の一部が硫黄元素に捕獲され、電気伝導に寄与しなくなることを確認した(図1)。

 本現象をもとに素子に加えた硫黄元素の分布を最適化することにより、SiCパワー半導体素子のスイッチング動作開始時の制御電圧を高くする動作原理を世界で初めて考案した。評価用素子を作製し、ゲート酸化膜とSiCとの界面近傍における電子散乱について磁場を用いた半導体評価技術による測定・検証を行い、SiCパワー半導体素子の特性と合わせて解析することで、想定した動作を確認した。



図1. SiCパワー半導体素子における硫黄元素の効果

2.SiCパワー半導体素子を作製し、高い動作開始電圧を実証

 SiCパワー半導体素子を動作させるためには、制御電圧を印加して電気伝導に必要な電子をゲート酸化膜とSiCとの界面近傍に誘起させることが必要。硫黄元素を加えることで一部の電子が捕獲されるので、電気伝導に必要な電子をより多く供給するためには、印加する制御電圧を従来よりもさらに大きくしなければならない。これは、スイッチング動作時など電気伝導が始まる動作開始電圧を増加させる効果をもたらし、外部からSiCパワー半導体素子に印加される電磁ノイズによる素子の誤動作抑制につながる(図2)。

 図3に示すように、SiCパワー半導体素子において、素子抵抗を増加させることなく、2.5Vから4.0Vとより高い動作開始電圧が得られることをそれぞれ実証した。



図2. 素子電流と動作開始電圧の関係

図3. 素子抵抗と動作開始電圧の関係

 今後、三菱電機は本成果をもとにSiC-MOSFET(※3)の設計と試作評価を実施し、よりいっそう動作開始時の制御電圧を高くすることで、パワーエレクトロニクス機器の使いやすさ向上につながるSiCパワー半導体素子の実現に向けた研究開発を推進する。



 なお、本研究成果を「IEDM2018(The International Electron Devices Meeting)」(於:アメリカ San Francisco、12月1日から開催)にて12月4日(日本時間)に発表した。

※1 Silicon carbide(炭化ケイ素)

※2 2018年12月4日現在(三菱電機調べ)

※3 Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果型トランジスター

情報提供元:MotorFan
記事名:「 三菱電機、東京大学:電磁ノイズの影響を受けにくい動作原理を世界で初めて考案