ハイブリッドの種別とそれぞれの特質については前回説明した。それらのカテゴライズに対して、考え方の異なるキーワードが最近巷をにぎわせている。「プラグインハイブリッド」と「レンジエクステンダー」だ。これらは一体何をしていて、どんな効果を狙ったシステムなのだろうか。

TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 前回では、ハイブリッドシステムの機構的な分類について解説しました。具体的には「エンジンをどのように使うか」という違いです。



 HEVではエンジンの依存度を少なくすればするほどEVに近づくことになるので、CO2排出低減という点からすればエンジンの出番が少なくなりやすく、また発電効率優先、つまり比較的低負荷・低回転で運転することのできるシリーズ式が有利です。しかし、シリーズ式はモーター依存度が高い分、モーターの効率を高めるために電圧を高くする必要があります。原理的にバッテリーが要らないシリーズ式ですが、回生のためには回生した電力を貯めるバッテリーが必要で、それもまた高電圧対応にしなければなりません。電圧を高くすると安全対策も12Vとは比較にならないほど厳重にする必要がありますし、バッテリーやインバーターも、主に発熱対策の分高価になります。高電圧対応部品は自動車メーカーではなく専門の電機メーカーが製造することがほとんどですので、調達コストの点で高価になるのです。対照的なのが48Vと言った比較的低電圧を使うマイルドハイブリッドです。つまりモーターに供給する電圧を低くするほど、エンジン依存度は高くなるけれど、EV的性格とコストは低くなるということなのです。

シェフラーの資料から。電圧ごとの回生容量について、48Vの利得を示す。NEDCにおける親和性にも言及している。

 自動車からCO2を出さない、という意味で、電動化のゴールはBEV(バッテリーEV)です。ですが、BEVはいまのところエンジン付の自動車(ICEV)を完全に代替することはできません。

 ふたつの理由があります。まず航続距離の問題ですね。ICEVなら大体500㎞以上は無給油で走れますが、EVでは今のところ良くて400k㎞。高速道路を延々走るような場合は、電力回生が期待できないので2/3以下に減ってしまいます。もうひとつは充電の問題です。例え500㎞以上走れるBEV(テスラがそうですが)があったとしても、充電ステーションで充電をするには、ガソリンスタンドでの給油のように5分やそこらというわけにはいきません。残量ゼロ近くからフル充電するには数時間かかってしまいます。また先進国の都市部や高速道路以外では充電設備も不足しがちです。途上国の僻地では言わずもがなです。純EVの一種である、水素を使って燃料電池で発電するFCEVは、航続距離は十分といってよいほど確保されていますが、やはり水素の供給インフラ整備はまだまだです。

 というわけで、ふたつの課題をクリアしつつCO2を低減するには、いまのところHEVしかないわけです。でもHEVはどうしてもエンジン依存度が高い。電動化のお題目であるCO2削減のためには、できるだけエンジン依存度を低く、逆にいえば「EV度」を高くしたい……。というわけで、間違いなくHEVであるにもかかわらずEVに見せかけた、といってもよい摩訶不思議なEVが現れました。プラグイン・ハイブリッド(PHEV)と、レンジエクステンダーEV(REX)です。

レンジエクステンダーの例。i3はBEVに加えてREXもラインアップにそろえている。(FIGURE:BMW)

 PHEVとは簡単にいえば、HEVを外部給電可能にしたものです。でもそれだけでは説明が不十分です。バッテリーの容量を大きくしてなるべくモーターだけで走れるようにしたHEV、というのが正確でしょう。

 都市部や都市周辺の郊外でクルマを使う場合、平日に通勤や買い物で走る距離はせいぜい50㎞程度ということが多いと思います。多い人でも100㎞以上走るのは希です。その程度の距離なら、現存するBEVでも用は足りますし、充電についても帰宅してから寝ている間に行えば時間的な問題はありません。でも、同じクルマで休日には遠出をすることもあるでしょう。その場合BEVでは不安ですから、エンジンを積んで長距離でも過不足なく使えるPHEVは如何?というわけです。

先代プリウスでの例。左の通常仕様に対して、右のプリウスPHVはバッテリーが大容量化されているのが見てとれる。(FIGURE:TOYOTA)

 HEVをBEVに近づけたのがPHEVとすれば、BEVをHEVに近づけたのがREXです。PHEVとの違いはエンジン使用時の航続距離、具体的には燃料タンクの容量が極端に少ないことです。BEVの「電費」は走り方によってかなり変わりますし、充電時間や方法によっても違います。ICEVのように「警告灯が点いたからあと50㎞」といった判断ができませんし、家に着くまでに充電ステーションがあるとは限りません。それならば、電池が切れても50㎞程度何とか走れるようにすればよいだろう……という発想で作られています。

 REXはエンジン使用時の航続距離だけでなく、エンジン出力もかなり制限しています。エンジンはあくまで緊急発電用であって、走行をメインには考えられていないからです。現在市販されているREXはBMW i3しかありませんが、筆者がそのi3レンジエクステンダー仕様(旧型)を運転して遭遇した事態をお話しします。

i3 REXが搭載するのはW20型直列2気筒0.65ℓエンジン。モーターサイクルに使われるエンジンを用いている。(FIGURE:BMW)

 雑誌の企画でいろいろなクルマを箱根で走らせて撮影する機会がありました。私の担当がi3でしたので前日インポーターから借用し、家の近くの充電ステーションで満充電にしました。自宅のある横浜から箱根までは100㎞弱ありますが、航続距離は200㎞弱ありますから、というインポーターの方の言葉を信用して走り出したら、高速道路走行なのでドンドン電池残量が減っていくのです。箱根の麓についた時には残量は僅か。でもエンジンがあるから大丈夫と思ってそのまま急坂を登り出しました。電気モーターならの大トルクで軽々と登っていたら、途端にスピードが落ちました。遂に電気がなくなってエンジン発電になったのです。止まるまでは行きませんが、スピードがまったく出ません。ベタ踏みでも30㎞出るか出ないか。そこから集合場所まではルームミラーを見っぱなしで、後続車に追突されるのではないかとハラハラでした。ーーーつまりこういうことです。REXはあくまでBEVであって、エンジンをあてにして遠出をしてはいけない。



 PHEVならそんな心配をしなくて済みますが、経験上エンジンを使わないEV走行ができるのは、経験上30㎞程度です。全開加速を何度かすればあっという間に電池はなくなります。ただし走行性能がREXのようにいきなり低下することがないので、普通に使うことはできますが、バッテリーの容量が大きくなった分、車両価格はベースのHEVより結構高くなります。プリウスでいえば、通常のHEVに対して同等のグレードでPHEVは70万円高くなります。どうせBEVとして使えるのが僅かなら、フツウのHEVでいいじゃんーーーと私でなくでも思う人は多いようで、プリウスPHVはトヨタが思うほどには売れていないといいます。



 PHEVはHEVの「ようなもの」。REXはBEVの「ようなもの」で、中途半端な割には高い。でもメーカーは積極的に導入をしようとしているのは、日本にいてはわからない海外の事情が絡んでくるのです。

なぜPHEVというシステムが生まれたのか

 日本はクルマのCO2排出量の多寡に関して自動車税の優遇措置と補助金交付という、ユーザー側の負担量で差別をしていますが、欧米ではメーカー負担も加わります。一定の燃費基準を規定して、自動車メーカーが販売するクルマの平均燃費(≒CO2排出量)がその基準値を超えると罰金を払わなくてなくてはならない「CAFE」規制というものです(日本でも導入予定)。北米のカリフォルニア州は世界で最もCO2と排ガスの規制が厳しい地区ですが、そこではZEV(ゼロエミッション・ヴィークル)規定というものがあって、自動車メーカーは全販売台数のうち一定量を無公害のZEVとしなければならない、ということになっています。当然ZEVオンリーのテスラのようなメーカーは規制の対象外であるばかりか、ZEVの少ないメーカー支払った罰金(クレジット)を、逆に受け取ることができるのです。



 ZEV規制がユニークなのは、実際のCO2排出量で規定するのではなく、クルマの動力方式で分別していることです。BEV、FCV、PHEV、HEV、天然ガス車や日本で言うところの燃費基準達成車であるICEV(ここには基準値がありますが)という括りです。2005年の規制導入以来、ZEVのカテゴリー区分けには変遷がありますが、2018年からは、これまでZEVとされてきたHEVや低公害ICEVが除外されることになりました。その事態に困ったのがHEV大国である日本のメーカーです。特にトヨタにとっては衝撃でした。プリウスは北米でエコの象徴としてもてはやされ、販売も成功したにもかかわらず、ZEVから外されると罰金の対象となってしまうからです。ZEVでないということになれば「エコじゃない」というイメージも醸成されかねませんから、尚更です。

プラグインハイブリッドの最新例、クラリティPHEV。FCVから登場したクラリティシリーズは、PHEVとBEVの3ラインアップとしている。(FIGURE:HONDA)

 2018年ZEV規定のキモは、「HEVはダメだけれどPHEVはOK」というところです。背に腹は代えられないトヨタは、大急ぎでプリウスに外部充電機構と大容量バッテリーを搭載したPHEV(トヨタではPHV)を投入します。ホンダは日本で売っているHEVとは異なり、北米仕様はほとんどPHEVです。アコードHEVは最初からPHEV前提で性能設計されているようで、取材を行った際も「モーターの性能を十全に出すためにはPHEVが必須」と、担当技術者は答えていました。日本のメーカーにとって、北米市場はメシの種ですから、日本のユーザーに必要があろうがなかろうが、北米で商売をするためにはPHEVを作らなければならないのです。

メルセデス・ベンツS500 PLUG-IN HYBRID。欧州では規制の関係からPHEVをラインアップするケースが多い。(FIGURE:DAIMLER)

 欧州は欧州で考え方が違います。欧州メーカーはほとんどBEVやHEVをラインアップしていません。燃費対策はダウンサイジングターボとディーゼルで対処してきたからです。しかし、市街地走行だけでなく高速・高負荷走行を積極的に盛り込んだ新しい燃費測定基準、WLTPやRDEが施行されるとICEVでは対応が難しくなることが予想され、さらにVWのディーゼルゲート問題が発生すると、ディーゼルの将来が危ぶまれるようになってきました。

 そこで急遽ガソリンエンジンのHEVを投入することが求められたのですが、HEVの技術が日本より遅れている欧州では、そう簡単に従来の価格と差のないHEVを作ることはできません。特に問題となったのはドイツ車の独擅場である大排気量のプレミアムカーです。日本流のHEVの作り方ではエンジンを極力小さくすることが求められますが、まさかベンツのSクラスやBMWの7シリーズに直列4気筒というわけにもいきません。ましてやロールス・ロイスやベントレーという元来イギリス車のブランドも、いまやドイツ設計&製造です。車格に応じたイメージ保持のために最低でもV8ツインターボが要るわけです。しかし、こうした大エンジンはどうやったってガソリン大食いです。けれどもドイツメーカーにとって大排気量のクルマは、ブランド維持のためにどうしても必要……。

 そんなジレンマをどうにかするために、EUは秘策を編み出しました。「EV走行時のCO2排出量を極端に少なく算出する」というマジックです。実走行測定であるRDEではちょっと変わってきますが、通常のCO2&排ガス規制の測定は台上で行われ、その時間は限られています。6ℓV8ターボでCO2排出量が何百グラム/㎞であっても、そこにモーターを付けて、ある程度の距離を走れる分のバッテリーを積めば、試験測定の時にはエンジンがかからず、CO2もNOxも出ないーーー。つまり、PHEVにしてしまえば丸く収まる、というわけです。バッテリー容量が切れてエンジンがかかればCO2は出放題ですけれど、規定がそうなんだから後は知ったこっちゃない。

欧州における燃費測定法:ECE R101におけるPHEVのCO2削減係数の算出方法。ご覧のように、削減係数が1を下回ることは決してない。

日常のクルマの使い方からすれば、欧州だって一日あたりの走行距離は100㎞以下のことが多いですから、PHEVとすることで確実にCO2は減るというは事実でしょう。特にドイツでは都市部へのICEV乗り入れを規制する地区が増えている一方、都市間移動についてはクルマに依存しているので、一定距離をEV走行できつつ航続距離を確保できるPHEVは合理的な手段ということもできます。ただしPHEVはどうしても高価格になってしまうため、採用が高級車にシフトしがちです。ドイツメーカーが独占する高級車市場保護とリンクするのは当然ともいえるのですが、HEV技術の発達した日本からすれば、かなり強引なやり方と思わざるを得ません。

REXの行方を考える

 これまで述べてきた事情からPHEVは今後益々生産量が増えるでしょうが、REXはどうなのでしょう?

 電動化比率を増やしつつ航続距離を確保する、という観点からすればPHEVとREXは同義といえます。けれどもその航続距離が限定され、広範囲な使用ができないという点で、REXはあくまでEVであり、ICEVを代替する方法とは言いがたい側面があります。市街地はインフラを整備しつつレンタルEVを行政も補助して普及させ、流入する車両はそれに乗り換える、というのが欧州流の考え方で、そこからするとREXはあまりに中途半端です。またi3の例を見るまでもなく、BEVとして開発されたクルマに改めてエンジンと燃料タンクを積むというのは制約が多く、航続距離以前にまともなエンジンを積めないのです。ですから、今後REXに分類されるクルマはそれほど現れないと思われますが、そもそもREX、というよりi3のレンジエクステンダーはかなり特殊な事情の基に作られたクルマだ、ということを記しましょう。



 BMW i3はBMW初の実用BEVであると同時に、CFRPボディを持った実験的なクルマです。その技術内容からして大量生産&販売を想定しているとは思えませんし、売れば売るほど大赤字でしょう。HEV以前にBMWは水素エンジンを今後の低公害車の切り札として、長い間研究を進めていました。FCEVではありません。水素をガソリンの代わりに使うICEVです。しかしその成果は現実化することはなく事実上放棄されます。かといってベンツやVWと比べてはるかに企業規模の小さいBMWがHEVをすぐに投入するのは難しい。けれどBMWにとっても最大の市場である北米にはZEVが要る。そこでとりあえず実験車両といっても過言ではないBEVのi3を投入する。でも航続距離がちょっと不安。そこでZEV規制を規定しているカリフォルニア州大気資源局(CARB)にお伺いを立てます。



 「BEVにエンジンを付けてみたんですけれど、これでZEVと認めてくれますか?」



 法規に厳格ではあるけれど、新規参入者に対しては門戸を開くアメリカの行政府は、これを新たな技術の発展と捉えて「BEVx}という新カテゴリーを創出し、規定内容についてBMWと共同で練り上げようとしました。燃料タンクの容量についてはかなりやりとりがあったようですが、BEVxはめでたくZEVの一種として認められた上に、BEVの販売量の50%をBEVxとすることができるようになりました。BEVxのエンジン作動には制限がかけられ、まずバッテリー残量が一定以上の場合は作動させないこと、そして総航続距離のうちエンジン使用時のそれは50%以下とすることが規定されています。

 そうした経緯があるだけにREX=i3であり、大量生産&販売を旨とする他メーカーにとってはいろいろと半端なものとして写ったものだと思われます。その間に電動化、電動化と叫んでみたところで、現状ではBEVにはバッテリー性能とインフラという厳然たる障害があり全面的な普及は見込めない。ならばPHEVを普及させてBEVと棲み分けを図る、というのが世界的なコンセンサスになってきました。言い換えれば、BEVにエンジンを積んだクルマではなく、HEVのEV性格を強化したものがREXということになってきたのでしょう。

 また、REXに適したエンジンが案外少なく、今後の需要を考えると専用設計のものを新規開発するのも割に合わないという理由もあると思います。実際i3REXのエンジン(直列2気筒・650㏄)は、音も振動もゲンナリする代物でして、これが動き出すととても最先端のクルマに乗っている気がしません。前記したようにリーフやテスラにエンジンと燃料タンクを積むスペースを見つけ出すのも至難の業ですし、既存のICEVの車体レイアウトを流用するには、エンジンとタンクの容量が大きすぎて無駄が出ます。本当にBEVxならではの価値を創造するならば、結局専用設計にしないと中途半端は解消されないわけで、そこまでの需要があるか?となるのです。



 電動化の流れとは、ユーザー側の要求によって生まれたわけではありません。排ガスや石油資源の先行き不安、そして何よりCO2排出量削減という、クルマから見れば外圧によって促進されているのです。だからシリーズかパラレルかといったきわめて技術的なHEVの区分がある一方で、政治行政が定めた、地域毎の規制に即した分類があるのです。それもこれも、ICEVとBEVの間にとてつもなく大きな溝があるからなのでしょう。実際に所有して運転する側からすれば、便利で安くて速ければ何でもいいのですけれど。

情報提供元:MotorFan
記事名:「 よくわからない?プラグインハイブリッド(PHEV)とレンジエクステンダー(REX)