俳句の世界では初冬の期間は立冬から大雪の前日までを指し、今年は、先日の11月8日から12月6日までとなります。地域にもよりますが真冬の厳しさにはまだ間があり、朝晩の冷たく引き締まった空気は、心地良くもありますね。そんな初冬の季節感たっぷりの俳句を、いくつかご紹介します。


暁紅の海が息づく冬はじめ

冬の季語は、初冬・仲冬・晩冬のそれぞれの期間にのみ使われる季語と、三冬といって冬全体の期間にわたって使われる季語があります(そのほか、歳末や新年の期間を別に加える場合もあります)。秋の暮れから初冬にかけての晴れの日は、特に嬉しさが身に沁みます。気温や彩りなど、誰もが季節の変化に敏感になるこの頃。初冬の情感を詠んだ句を並べてみます。

・初冬や訪(と)はんとおもふ人来り
〈与謝蕪村〉
・初冬のこころに保つ色や何
〈原コウ子〉
・武蔵野は十一月の欅(けやき)かな
〈松根東洋城〉
・あたたかき十一月もすみにけり
〈中村草田男〉
・暁紅の海が息づく冬はじめ
〈佐藤鬼房〉


小春日や故郷かくも美しき

「小春」「小六月(ころくがつ)」は、陰暦十月の異称。「小春日和」は、立冬を過ぎてから、春のように暖かく穏やかな晴天の日を指します。「春」の文字があるのに初冬の季語で、「小春風」「小春凪」「小春空」などとも使われます。日本語表現の美しさ、楽しさが凝縮された季語ですね。

・小春日や故郷かくも美しき
〈相馬遷子〉
・小春日や虻蜂飛べるものは飛ぶ
〈山口青邨〉
・玉の如き小春日和を授かりし
〈松本たかし〉
・富士少し見ゆ町裏の小六月
〈稲垣晩童〉
・雷門羅宇屋の湯気の小春かな
〈杉崎あや〉

言わずと知れた、浅草の雷門。羅宇(らう・らお)とは、キセルの火皿と吸い口をつなぐ竹の管のこと。羅宇屋は、その羅宇をすげかえる職人や店を指します。粋な江戸の情景と、インバウンド観光で賑わう平成・令和の浅草が、違和感なく重なります。


冬紅葉冬のひかりをあつめけり

地域によってはまだまだ紅葉真っ盛りですが、俳句の世界では、「紅葉」は秋の季語。立冬後も残っている紅葉を指す「冬紅葉」が、冬の季語になります。現在では場所や作者によって、鮮やかに残る紅葉から雪や霜に濡れる寂しげな枝の様子まで、多様に冬紅葉が詠まれることでしょう。「落葉」は三冬の季語です。

・冬紅葉冬のひかりをあつめけり
〈久保田万太郎〉
・冬紅葉伊賀の屋敷は雨のなか
〈土橋儀定〉
・ぬるき湯に長湯してをり冬紅葉
〈有働 亨〉
・月光は天へ帰らず降る落葉
〈野見山朱鳥〉
・薄日とは美しきもの帰り花
〈後藤夜半〉

「帰り花」「返り花」は返り咲きの花を意味する初冬の季語で、先にあげた小春日和の頃の、季節外れの花を指します。「忘れ花」「狂い花」「返り咲き」とも言います。やがて訪れる厳冬を前に、小春日和の光や木々の彩りを、存分に体感しておきたいものですね。


【句の引用と参考文献】
角川書店(編)『第三版 俳句歳時記〈冬の部〉』(角川書店)
山本 健吉 (著)『鑑賞俳句歳時記 冬 』(文藝春秋)
坪内 稔典(著)『季語集』(岩波書店)
飯田 龍太(著)『鑑賞歳時記 (第4巻) 冬 』(角川書店)

冬の雷門

冬の雷門