医師330名に聞いた!健康寿命に関わる「フレイル」調査― 7割超が働き世代の「プレフレイル」増加を指摘!
一般社団法人日本生活習慣病予防協会(理事長 宮崎 滋)は、コロナ禍が始まって以降、生活環境の変化により生活習慣病リスクがどの程度変化したのかを探るため、さまざまな実態調査を行っています。今回は、超高齢社会を迎えているわが国の喫緊の課題であるフレイルに焦点を当て、働き世代のフレイルおよびプレフレイル(フレイル予備群)リスクについて調査を行いました。調査は、フレイルに関する患者とも接点が多い内科医、整形外科医に加え、働き世代と直接接していることが多い産業医を対象に行い、各110名、合計330名の回答を得ました。
最近では、筋力などの身体機能や活力の低下から生じるフレイルに伴う様々な健康障害や要介護などの社会保障費の増大が懸念されています。フレイルは、適正な摂取エネルギー量と栄養素を考えたバランスの良い食事、運動習慣などにより、予防あるいは改善することができます。
今回の調査では、高齢者だけでなく、若い世代でもフレイルリスクが潜んでいることがわかりました。自覚症状がないまま進展することの多い生活習慣病と違い、フレイルリスクは本人やご家族が少し気にかければ、日常生活の中で気づくことができ、フレイル対策としての食事や運動習慣の改善につなげることができます。フレイルの予防は健康寿命の延伸にも、大きく関わってきます。コロナ禍が長引き、ライフスタイルが大きく変化している今、非高齢の働き世代の人も、フレイルリスクのことを考えてみましょう。
フレイル・プレフレイルとは:フレイルとは、加齢に伴い、筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のことです。「要介護予備群」と位置づけられることもあります。フレイルのリスクが上昇していて、フレイルの一歩手前の状態が「プレフレイル」(フレイル予備群)です。
<調査結果のポイント>
●医師の8割以上がフレイルに該当する患者の増加を指摘。年齢別では、40~50代での増加も目立つ。中でも、50代男女では約36%の医師が増加を指摘
●医師の75.5%が、働き世代でプレフレイルが増加していると回答
●プレフレイル増加の要因の上位は「運動量の低下」「栄養素バランスの乱れ」「うつ傾向」「睡眠の質・量の低下」
●プレフレイルは男女ともに40代以降で急増(40代で男女ともに約4割、50代で男女ともに5割超)
●プレフレイル予防は働き世代から予防が必要であると85.5%の医師が回答
●プレフレイルの予防として勧める栄養素の第1位は「たんぱく質」
●約9割の医師がフレイル・プレフレイルともに今後増加することを懸念
※本調査での「働き世代」は20〜65歳の男女で就労している方を指します。
【調査概要】
調査対象者:内科医・産業医・整形外科医
回収サンプル数:330名(内科医110名、産業医110名、整形外科医110名)
調査委託先:マクロミル
調査方法:インターネット調査
調査時期:2023年3月27日~4月26日
【調査結果】
1. 長引くコロナ禍を経て、「筋力・筋肉量の低下」「運動頻度の低下」「活力の低下」「睡眠不足」「人付き合いの減少」「うつ症状」が各世代で共通にみられる。
医師を対象に、「ここ最近の傾向として増加したと思われる症状(状態)」を、対象の年齢層別に複数選択可で挙げてもらったところ、メタボリックシンドロームが40代の人に多い(38.5%)こと以外に、長引くコロナ禍を経た影響か、筋力・筋肉量の低下、運動頻度の低下、活力の低下、睡眠不足、人付き合いの減少、うつ症状など、フレイルリスクに関連する症状や状態が、比較的若い世代にも多くみられることがわかりました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306276635-O1-0PqRL4g6】
2. 医師の8割以上がフレイルに該当する患者の増加を指摘。年齢別では、40~50代での増加も目立つ。
中でも、50代男女では約36%の医師が増加を指摘
実際にフレイル該当者が増加していると実感している医師が8割以上(かなり増えている11.8%、増えている31.8%、やや増えているが38.2%の合計)に上りました(図2)。対象者の年齢層別にみた場合、高齢者層に多いのはもちろんのこと、50代あるいは40代の人にも「フレイルに該当する症状のある患者が増加している」との回答が少なくないことがわかりました(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306276635-O2-804l7U0y】
3. 働き世代(20~65歳)でみると、75.5%の医師がプレフレイルは増加していると回答。その原因としては、「筋肉量の低下」「運動習慣の低下」「外出機会の低下」など、運動量の低下が上位。さらに、男性、女性ともに40代以降にプレフレイル該当者が急増し、20代、30代でも微増
就労年齢にあたる働き世代(20~65歳)のプレフレイル(フレイル予備群)のリスクに着目してみます。すると、75.5%の医師が、その世代のプレフレイルが増加していると回答しました(図4)。そのように捉える理由としては、働き世代の筋肉量の低下、運動習慣の低下、外出機会の低下など、おもに運動量の低下にかかわることが上位に挙げられました(図5)。
さらに、10歳ごとに分類すると、男性、女性ともに40代以降(40歳代で男女とも約40%、50歳代で男女とも約50%)で、プレフレイル該当者が増えていると、多くの医師が考えていることがわかりました(図6)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306276635-O3-PY6nAqks】
4. プレフレイル予防は働き世代から予防が必要であると85.5%の医師が回答。その時期は、できるだけ若い時期から開始すべきと指摘
「フレイル予備群であるプレフレイルの予防をいつから始めるべきか」という質問には、「40代から始めるべき」とする回答が3割超を占め、最も多く挙げられました(図7)。さらに、「30代から」、または「20代から」との回答も少なくありませんでした。その一方で、「60代以上から」との回答は15%にとどまりました(図8)。
この結果から、フレイルは若年期からの長年の生活習慣の積み重ねによって老年期に現れるものであると、多くの医師が考えていることがうかがえます。
では、このような働き世代のプレフレイルまたはフレイルリスクに関して、医師は具体的にどのような将来の健康障害につながると考えているのでしょうか。プレフレイル・フレイルの将来的なリスクを複数選択可で回答してもらいました。
結果は、選択肢として挙げていたすべての項目について7~8割の危惧が示され、とくに運動機能の低下、転倒/骨折、寝たきりの三つは、危惧している医師が8割を超えました。また、生活習慣病の発症や閉じこもり、認知症、うつ病などのリスクも高めうるとの回答が得られています。これらの結果からも、プレフレイルになることで、将来の健康寿命に深く関わってくると言えるのではないでしょうか(図9)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306276635-O4-1y6P79nh】
5.プレフレイル予防は「運動/歩行」、運動による「筋肉量維持」、「十分な睡眠」 「栄養バランス」
働き世代のプレフレイル予防には、どのような対策が考えられるのでしょうか。医師の回答からは、運動を習慣化すること、それによって筋肉量を維持すること、そして十分な睡眠と栄養バランスが重要と考えられることが示唆されました(図10)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306276635-O5-0ZEuZLyj】
6. プレフレイルの予防としての栄養素では、「たんぱく質」がトップ
働き世代のプレフレイル予防のための栄養素としては、たんぱく質の重要性を挙げた医師が78.7%でトップ(複数選択)。次いでビタミンを挙げた医師が55.7%、アミノ酸54.6%、カルシウム51.8%などが続き、その他、亜鉛、食物繊維、鉄分などが主要栄養素の炭水化物や脂質より多く選択されました(図11)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306276635-O6-A7z8xJrs】
7. 約9割(フレイル88.8%、プレフレイル90.0%)の医師がフレイル・プレフレイルともに、今後さらに対象者が増加することを懸念
最後に、プレフレイルやフレイルが今後、増加するか減少するかという質問の回答をみると、いずれについてもほぼ9割の医師が「増える」と予測していることがわかりました(図12)。
日本は高齢者人口の増加と若年者人口の減少が同時に進行中です。高齢者のフレイル対策が喫緊の課題であることはもちろんのことながら、働き世代のプレフレイル予防という視点での啓発活動も早急に開始する必要があると言えそうです。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306276635-O7-TS1xKZ19】
■ プレフレイル・フレイル対策は「働き世代」から~有効な対策は“たんぱく質”を含む食事~
アンケート結果でまず注目したいことは、プレフレイル(フレイル予備群)のリスクのある年齢層として60歳以上を挙げた医師が多いことは当然ながら、「50歳代」「40歳代」の、いわゆる“ミドル世代”を挙げた医師が少なくなかったことです。この世代では、メタボリックシンドローム(メタボ)や非アルコール性脂肪性肝疾患などが懸念されるのが一般的ですが、多くの医師がそれらに加えて、プレフレイルにも高い関心をもっていることがわかりました。
その理由の一つとして、コロナ禍による身体活動量の低下が挙げられます。毎日の通勤は結構な身体活動になっていたはずで、通勤しなくなった人の中には知らず知らずのうちに筋肉量が低下してしまっている人が少なくないようです。たとえ内臓脂肪が増えていなくても、筋肉量が減少するとさまざまな代謝異常が起きてきます。コロナ禍で、“隠れメタボ&フレイル予備群”のような人が増えているのかもしれません。
さらに最近では食習慣が悪化してしまった人もいます。手っ取り早い安価な食事は炭水化物中心になりやすく、たんぱく質不足で筋肉量の減少につながり、“隠れメタボ&フレイル予備群”のリスクを高めます。
そこで、プレフレイルの対策として重要な栄養素は、アンケート結果でも明らかなようにたんぱく質の摂取です。プレフレイルの対策のために、運動とともに、肉や魚などの主菜はもちろん、だれでも手軽に摂取ができる乳たんぱく食品を主菜の調理に用いるほか、牛乳やヨーグルトなどの一品を追加してもよいでしょう。
ただ、すでにコレステロール値が高めの方は、魚や肉でも脂身の少ないもの、例えば、魚はマグロの赤身などや、脂質の多い皮をとった鶏肉、乳製品の場合でも脂肪を制限したヨーグルトの選択するなど主治医との相談などから上手に活用してください。
アンケートでもプレフレイルの将来的なリスクとして上位に挙げられた「転倒・骨折」に陥る要因である骨粗しょう症は、若いうちからの健康的な生活習慣が重要であることは最近では周知されています。プレフレイル・フレイル予防も、その主要なターゲットは「働き世代」の人たちも含まれます。運動と食事の習慣を振り返り、気になる点は今のうちに改善していきましょう。
吉田 博(東京慈恵会医科大学附属柏病院 院長・教授、一般社団法人日本生活習慣病予防協会 理事)
■一般社団法人日本生活習慣病予防協会とは
日本生活習慣病予防協会は、生活習慣病の一次予防を中心に、その成因、診断、治療、リハビリテーションに関する知識の普及啓発、生活習慣病に関する調査研究を行うことを目的に2000年に設立されました。
健康標語『一無、二少、三多(いちむにしょうさんた)』(無煙、少食、少酒、多動、多休、多接)の健康習慣を提言し、1月23日を『一無、二少、三多の日』として記念日登録し、2011年より、毎年2月を「全国生活習慣病予防月間」として、『一無、二少、三多』の普及を図っています。
▶一般社団法人日本生活習慣病予防協会
https://www.seikatsusyukanbyo.com/
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