電気をたくさん使う冬に考えたい、「日本のエネルギー」問題
トレンド総研
【トレンド総研 レポート】
~電気をたくさん使う冬に考えたい、「日本のエネルギー」問題~
自然災害が多かった2018年、「大規模停電」の発生も…
九州における「再エネ出力制限」など、天候も電力供給に影響
専門家が指南、電力供給を安定させるうえで重要な「エネルギーミックス」とは
生活者の意識・実態に関する調査をおこなうトレンド総研(東京都渋谷区)は、このたび「電力の需要と供給」をテーマにレポートいたします。
電気の使用量の増加とともに、電気への関心が一年のうちで相対的に高まる冬。また、この時期は年度末が近づき、一年を振り返る話題が増えるタイミングでもあります。
特に2018年度は、北海道胆振東部地震に伴う大規模停電や、優先給電ルールに基づく九州電力による再生可能エネルギーの出力制御などが発生したことで、電気が決して当たり前のものではないという実感を持ちやすい一年でした。
このような背景をふまえて、今回トレンド総研では、「電力の需要と供給」をテーマに、20~50代の男女500名を対象にした調査を実施。また、日本のエネルギー問題に詳しい、東京大学生産技術研究所の岩船由美子氏へのインタビューもおこないました。
<レポートサマリー>
【調査結果】 「電力の需要と供給」に関する意識・実態調査
◆「冬は暮らしの中で電気の重要性を実感しやすい」9割以上が回答
◆「予期しない停電」の経験者が半数以上、うち8割は「災害による停電」を経験
◆生活者の約8割が「2018年度は災害による停電が多い年だったと思う」と回答
◆発電量と消費量のバランスが崩れると、広域停電のリスクが発生…半数近くが「知らなかった」
【専門家コメント】 岩船由美子氏に聞く、「電力の需給バランス」を保つポイントとは?
◆「ブラックアウト」が発生した「北海道胆振東部地震に伴う大規模停電」…その原因とは?
◆2018年度は太陽光導入量の増加により「九州電力による再生可能エネルギーの出力制御」も発生
◆電力供給の安定を図るうえで重要な「エネルギーミックス」とは?
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【調査結果】「電力の需要と供給」に関する意識・実態調査
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はじめに、20~50代の男女500名を対象に、「電力の需要と供給」に関する意識・実態調査をおこないました。
<調査概要>
・調査対象:20~50代男女500名(年齢・性別 均等割付)
・調査方法:インターネット調査
・調査期間:2019年1月15日~1月18日
◆「冬は暮らしの中で電気の重要性を実感しやすい」9割以上が回答
まず、「冬の電気料金の平均」について質問をしたところ、「10,000円以上」と回答した人が約4割(39%)という結果になりました。なお、「年間を通じた電気料金の平均」においては同じ回答をした人が2割台(26%)であり、冬の電力需要の高さがうかがえます。実際に、「冬は電気代が高くなりやすいと思いますか?」と聞いた質問では、実に84%が「そう思う」と回答。また、「冬は暮らしの中で電気の重要性を実感しやすいと思う」と回答した人も91%にのぼりました。
◆「予期しない停電」の経験者が半数以上、うち8割以上は「災害による停電」を経験
しかし一方で、生活者の暮らしにおいて重要な電気は「予期しない停電」によって供給がストップされることがあります。「これまでに自宅や会社で予期しない停電が起きたことはありますか?」という質問では、55%が「ある」と回答。また、そのうち8割以上(82%)は「災害(震災・台風・落雷など)による停電を経験したことがある」と答えました。生活者の多くが自然災害による予期せぬ停電を経験しているようです。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201901252561-O1-we5qbji1 】
◆生活者の約8割が「2018年度は災害による停電が多い年だったと思う」と回答
さらに、2018年度は北海道地震、関西台風被害など自然災害が目立つ年でもありました。生活者たちの実感としても「2018年度は災害が多い年だったと思う」と答えた人が94%に。くわえて、「2018年度は災害による停電のニュースが多い年だったと思う」と回答した人も79%と約8割にのぼりました。
また、「災害や天候の影響で電力供給に影響が出たニュースを見たときに、あなたはどのように感じますか?」という質問では「電気は決して当たり前のものではないことを実感する」と答えた人が90%という結果に。一方で、「大型災害や天候の変動による停電は、個人での対策が難しいと感じる」という声も94%にのぼっています。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201901252561-O3-35UWnnt9 】
◆発電量と消費量のバランスが崩れると、広域停電のリスクが発生…半数近くが「知らなかった」
なお、2018年度に災害や天候の影響で電力供給に影響が出た具体的な事象としては、「北海道胆振東部地震に伴う大規模停電」や「九州電力による再生可能エネルギーの出力制御」などがあります。これらのニュースを知っていたかを生活者たちに聞いてみると、「北海道胆振東部地震に伴う大規模停電」については83%、「九州電力による再生可能エネルギーの出力制御」も36%が「知っていた」と答えました。災害や天候の影響による停電のニュースは、生活者の間でも注目度が高い話題であると言えそうです。
しかし一方で、「電気は発電する量(供給)と消費する量(需要)のバランスが崩れると、広域停電が発生する可能性があることを知っていましたか?」と聞いた質問では、「知っていた」と答えた人が5割台(54%)にとどまり、残り半数近く(46%)は「知らなかった」と回答しました。自然災害や天候の影響による停電のニュース自体は知っていても、需給バランスが停電に影響していることまでは理解できていない人が多い様子がうかがえます。
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【専門家コメント】 岩船由美子氏に聞く、「電力の需給バランス」を保つポイントとは?
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上記の調査結果をふまえて、今回は「電力の需給バランス」の実態と課題について、日本のエネルギー問題に詳しい、東京大学生産技術研究所の岩船由美子氏にお話を伺いました。
◆「ブラックアウト」が発生した「北海道胆振東部地震に伴う大規模停電」…その原因とは?
2018年度は、さまざまな自然災害が発生し、電力の供給においても大きな影響を及ぼしました。中でも大きなニュースとなったのが「北海道胆振東部地震に伴う大規模停電」です。
これは地震の発生により、その時多くの電力を発電していた苫東厚真火力発電所1、2、4号機が停止したことと、同時に主要な送電線が2線路事故を起こし、道東にあった水力発電所も停止してしまったことから、北海道全体が停電するという「ブラックアウト」が起きてしまったというものです。ちなみに、「ブラックアウト」とはエリア全域におよぶ大規模停電のことを指します。現在の10電力体制になってからは、我が国初の事象ということで、注目を集めました。
電気を安定的に供給するうえでは、使う電気(需要)と作る電気(供給)が同じになるように調整する「同時同量」の堅持が重要になります。今回の震災発生時、苫東厚真発電所は揺れを検知して緊急停止し、そのため需給バランスが崩れ、電力の周波数を一定に保つことができなくなりました。そして、周波数低下が他の発電所の出力停止につながり、それが波及して「ブラックアウト」となったのです。
当初は、地震が発生したタイミングが夜中で、需要が小さく、発電量のうち苫東厚真発電所によるものが半分近くを占めていたため、一極集中の弊害ではないか、と言われていましたが、その後の検証により、苫東厚真発電所の停止と、震源地に近い道東側の送電線事故が重なったことで水力発電所も停止し、これらが同時に起こったため「ブラックアウト」に至った、という結論となりました。基本的には、非常時の北本連系線(東北との連系線)による調整機能も自動的に機能し、ブラックアウトからの回復の手続きも妥当だった、という検証がされました。
◆2018年度は太陽光導入量の増加により「九州電力による再生可能エネルギーの出力制御」も発生
また、2018年度には「九州電力による再生可能エネルギーの出力制御」もおこなわれました。これは、夏季や冬季に比べ需要の少ない春や秋の休日かつ、天気がいい日に再生可能エネルギー(特に太陽光発電)が増加し、供給が需要を上回る水準まで達したため、再エネの出力制御が発生したというものです。
日照がよく、比較的適地が多い九州では、固定価格買取制度によって太陽光発電の導入量が飛躍的に増加しました。出力抑制は九州本土において、2018年秋以降9回実施されています(2019年1月現在)。九州電力は、連系線を活用して本州に電気を送り、火力発電所等調整できる電源の出力をぎりぎりまで抑制することで供給量を減らし、需要を増やすために、電気を使って水をダムにくみあげる揚水発電所を最大限活用しましたが、それでも余剰が出るほど、再エネが増えたのです。
電気は瞬時瞬時で需要と供給を一致させる必要があります。そのため、需要を上回る分は抑制せざるを得ないのです。原子力発電を一時的に止めればいい、という声もあります。しかし、原子力は短時間で出力を調整することができません。太陽光発電において夕方以降出力がなくなったり、急激に天候が崩れたりした場合のバックアップを確保するためには、これらの電源の発電を維持しておく必要があります。
◆電力供給の安定を図るうえで重要な「エネルギーミックス」とは?
出力が不安定な再生可能エネルギーの電力をうまく活用していくためには、電力系統の「柔軟性」を向上させることが必要です。蓄電池や揚水発電に電気を貯め、使いたいときに取り出せれば、この問題は解決しますが、揚水発電の利用には限界があり、これからさらに増やすのは難しいと言えます。そして蓄電池はまだまだ高いのが現状。系統の柔軟性を向上させる方法は、貯めることばかりではありません。10電力間の連系線の拡大、従来の火力発電所等の運転を賢くすること、需要側の資源(例えば電気自動車や電気給湯機)の活用、そして再エネ発電自身の制御性向上も、重要な対策です。常時も非常時も総力戦で、電力需給の安定化を図っていく必要があるのです。
さらに、電力需給の安定を目指すうえで重要な考え方として挙げられるのが「エネルギーミックス」です。「エネルギーミックス」とは、一つの燃料や、発電種類だけに頼るのではなく、いろいろバランスよく組み合わせていくことを指します。出力を調整しやすい一方で燃料費が比較的高いガスなどの火力や、出力は調整しづらい一方で比較的燃料費が安価な原子力や石炭、環境負荷が小さい再生可能エネルギー、これらの特徴を生かし、加えてその燃料が外国から安定調達し続けられるものかという側面も考慮して、うまく組み合わせていく必要があります。大切なのは「3E+S」の実現です。「エネルギーの安定供給」(Energy Security)、「経済効率性」(Economic Efficiency)、「環境への適合」(Environment)、「安全性」(Safety)という4つの視点でエネルギー政策を考えていく必要があります。「エネルギーミックス」は、これらの項目のバランスをとるうえで重要なキーワードです。
特に、再生可能エネルギーは、現在国が「主力電源化」を目指しており、コスト、技術、社会的な受容性など様々な問題に取り組みつつ、徐々にその存在感を増しています。再エネの出力制御は、これからも頻繁に起こるでしょうが、出力制御を許容することで、再生可能エネルギーはより導入されやすくなるともいえます。再エネを特別扱いせず、他の電源と同等に、メリットを生かしデメリットを補いつつ、「3E+S」を満たす電力システムを目指していくべきであると言えるでしょう。
<専門家プロフィール>
岩船由美子(いわふね・ゆみこ)
東京大学生産技術研究所 特任教授
1991年北海道大学工学部電気工学科卒業。1993年同大学院工学研究科修士課程修了後、株式会社三菱総合研究所勤務。2001年に東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了(工学博士)後、株式会社住環境計画研究所勤務を経て、2008年東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター講師、2010年より同センター准教授に着任。2015年より現職。
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