Mimaki Research Memo(10):コロナ禍からV字回復し、再成長を目指した
1. 中長期成長戦略「Mimaki V10」
ミマキエンジニアリング<6638>は2020年12月、コロナ禍で業績が低迷するなか、中長期成長戦略「Mimaki V10」を策定した。「同社ならではの前工程~プリント・カット・コート~後工程の一貫したシステムや製品によるソリューション提供で、産業印刷のデジタル・オンデマンド化をけん引する」を基本ステートメントに、ベンチャー精神を忘れず、製品開発でイノベーションを継続するとともに、収益性を重視した成長と財務基盤の強化を図ることで、コロナ禍の低迷からV字回復を達成し、さらなる成長を目指した。目標達成のため、収益性はインクの品質改善や固定費の圧縮及び生産体制や営業体制の変革によるコスト効率の改善、成長性は既存市場での新製品によるS字カーブの積み上げと、FA事業や3Dプリンタの拡大、デジタルオンデマンド・プリントソリューションの提供、財務基盤の強化は在庫管理の強化などに取り組み、2026年3月期に営業利益率10%、経常利益率8%、売上高の年平均成長率10%の達成を目指す。
一部で環境が変化も、「Mimaki V10」は順調に進捗
2. 「Mimaki V10」の進捗
「Mimaki V10」の進捗は、営業利益率も売上高年平均成長率も計画を上回って推移しているため、結論からいうと順調ということになる。SG、IP市場向けは売上高が想定線で進捗しているため、引き続き戦略を推進する方針である。TA市場向けも順調といえるが、コロナ禍を経て様相がやや変わった。サステナビリティの観点から、地球環境への負荷が大きいというTA市場の抱える問題が注目されるようになったためである。TA市場の抱える問題とは、アナログ捺染によるスケールメリットを狙った大量生産・大量在庫・大量消費・大量廃棄、企画~生産~輸送~在庫~販売~利用~廃棄・焼却という長いサプライチェーン、世界全生産量の4分の3が廃棄・焼却処分されるなど低いリサイクル率・リユース率にあり、石油産業に次ぐ量の温室効果ガスを排出し、水を大量に消費する産業と言われている。
このため同社は、デジタル・オンデマンド印刷によって、「大量生産」から「適量生産」、「廃棄・焼却」から循環・再利用を実現する「アップサイクル」へのTA市場の転換を支援する方針である。例えば、2023年秋に発売した高速昇華転写インクジェットプリンタ「Tiger600-1800TS」は高い生産性と安定した稼働を特徴とし、デジタル・オンデマンド印刷による「適量生産」が可能なほか、洗浄廃水が無くなり環境負荷を低減することができる。2023年4月に発売した同社初のDTFプリンタは、従来のDTFプリンタが課題としていた「インク吐出不良」や「白インクの詰まり」を解消したことで安定した稼働と省人化を実現したため、ノズルに問題が発生した場合でもサービスマンの修理を待つことなくプリントが再開でき、安定した生産を継続的に進めることができる。また、同社が開発している「ネオクロマト・プロセス」は、昇華転写により染色したポリエステル生地を新薬剤を使って脱色し、新たな図柄を印刷できるようになるため、一度のイベント・シーズンで廃棄されていた屋外広告の生地が再利用できる。こうした「アップサイクル」は、生地の生産工程から発生するCO2排出量を95%削減し、工業排水も限りなくゼロに近づけることができるため、TA市場のサステナブル産業への転換に貢献することが期待されている。
なお、2025年3月期については、ウクライナ情勢や円安を背景とする原材料価格の高止まりといった問題が依然として注目されるだろう。これに対して同社は、価格転嫁や新製品投入時の値入れ確保でカバーする方針である。また、景況感を慎重に見ているものの、SG、IP市場の安定成長、2024年3月期下期に投入する3モデルの本格寄与、のぼり等の屋外広告を再利用できる「ネオクロマト・プロセス」の欧州見本市での高評価、景気が弱いとはいえ経済規模の大きい中国への進出意欲などから、20025年3月期以降も「Mimaki V10」に沿って着実に成長することが予想される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
<SO>
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