翻訳センター Research Memo(3):主力の翻訳事業は4分野(特許・医薬・工業・金融)に専門特化(1)
1. 事業環境
国内の翻訳・通訳を合わせた市場規模は、翻訳センター<2483>が発表した決算説明資料によると3,000億円であり、過去5年間で年平均3.8%成長と着実に成長している。そのなかで翻訳のみの市場規模は9割前後を占め、グローバル化の流れのなかで安定成長をしている(ヒアリングベース)。産業翻訳が市場の大半を占め、医薬・金融・自動車、電機、エネルギー、IT通信、小売業などの国内企業のグローバル展開や外資系企業の日本進出が需要発生のドライバーである。産業翻訳ニーズの最近の特徴として「スピード化」「大型プロジェクト」が挙げられる。自動車、医薬品、IT業界などをはじめとして、日本企業は成長機会を求めて海外展開を加速させており、翻訳会社としても高いレベルの対応力が求められる。またAIの進展は業界に大きな変化をもたらしつつある。2016年11月にGoogle(グーグル)がリニューアルした翻訳ツールは、機械翻訳(NMT)を採用しており、それまでに比べて格段に翻訳精度が向上し、業界を驚かせた。産業翻訳の使用では現状の機械翻訳(NMT)は、分野の得手不得手があるものの、将来的にはより多くのビジネスシーンで活用されるものと予想される。
2. 翻訳事業
主力の翻訳事業は、同社本体、連結子会社のHC Langeage Solutions、(株)パナシア及びメディア総合研究所が行っている。分野特化戦略を推進しており、「特許」「医薬」「工業・ローカライゼーション」「金融・法務」の4分野に組織が分かれ、専門化している。
a) 顧客業界とサービス内容
「特許分野」の顧客は特許事務所や企業の知的財産関連部署であり、主に特許出願用の明細書など特許関連文書の翻訳サービスを提供する。近年、特許事務所からの受注に加え、企業知財関連部署の売上比率が伸びており、約4割を占めるまでになった。業種としては電機、機械、化学、製薬やバイオなどの大手メーカーが中心である。
「医薬分野」の顧客は国内外の製薬会社・医療機器会社であり、医薬品・医療機器の研究開発から承認申請、マーケティングまで、あらゆるステージで発生する文書の翻訳サービスを提供する。グローバルのトップ製薬会社は外注する翻訳会社を絞る傾向にあり、プリファードベンダー(優先調達先)になれないと取引できない場合も増えている。同社では実績と知名度を背景に、世界のトップ製薬会社の多く(世界大手の約3分の2)と取引実績があり、大手製薬会社をターゲットにプロジェクト型案件及び顧客常駐型サービスの拡大を推進している。
「工業・ローカライゼーション分野」は、自動車、電機、精密機械といった主要製造業から、エネルギー、情報・通信、IT、ゲームといった非製造業まで、幅広い産業領域を対象とする。取扱文書は、仕様書、作業手順書、取扱説明書、教育資料、Webサイトなど様々であり、1つのドキュメントから複数の言語に翻訳することも多い。
「金融・法務分野」の顧客は国内外の銀行・証券・保険会社、法律事務所及び企業の管理系部署である。金融関連では目論見書や運用報告書、法務関連では各種契約書、企業管理部署関連では決算短信や有価証券報告書、株主総会招集通知、アニュアルレポートなどのIR関連の開示資料などが代表的な文書である。近年、企業の管理系部署との取引を拡大させている。
b) 強み
同社の特長は、「組織化・システム化された営業機能・制作機能」である。これにより、要求の厳しい産業翻訳顧客に対して、バランスの良い価値(品質、スピード、コスト)を提供でき、かつ大規模プロジェクトや多言語案件にも機動的に対応できる。営業機能に関しては、
1) 専門特化によるノウハウ蓄積
2) 信頼されるコミュニケーションと顧客社内他部門への展開
3) グループネットワークを生かしたサービスの提案
などが強みとなっている。
制作機能に関しては、
1) 約3,000人の翻訳・通訳登録者
2) ICTによる登録者マッチングシステム
3) 翻訳支援ツール、機械翻訳(NMT)の活用
4) 80言語以上に対応
5) 専門特化した子会社(メディカルライティング、海外への特許出願支援など)
などが強みとなっている。営業及び制作の両機能は相互に影響し合い、好循環を生んでいる。これらの強みは、当然顧客満足にもつながっており、リピートオーダーが8割近いのもうなずける。
c) セグメント別業績推移
翻訳事業全体では2020年3月期の売上高は8,112百万円(前期比4.6%減)、営業利益は686百万円(同12.4%減)と減収減益。特許分野では主要顧客である特許事務所からの受注が好調に推移したのに加え、企業の知的財関連部署との取引も順調で過去5年間は増加トレンドが続く。医薬分野では国内外の製薬会社からの安定した受注により過去成長が続いてきたが、2020年3月期は査察案件がなかったことなどが影響し小休止。工業・ローカライゼーション分野では、2019年3月期にメディア総合研究所が連結対象に加わったことにより増加したものの2020年3月期は自動車関連、電機、電子部品業界からの受注が停滞した。金融・法務分野では、企業の管理系部署との取引の低調が影響した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
<EY>
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