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ワコム Research Memo(5):新体制から1年半で、中期経営計画の達成へつながる3つの課題が浮上


■中長期成長戦略の進捗状況と今後の注目点

1. 中期経営計画と課題
ワコム<6727>は2018年4月に井出信孝氏が代表取締役社長兼CEOに就任したのを機に、同年5月に新たな中期経営計画『Wacom Chapter 2』(2019年3月期~2022年3月期)を発表し、現在取り組んでいる。その詳細は2018年6月12日付レポートや2019年6月6日付レポートに詳述したが、改めてポイントを要約すると以下のようになる。

現行中計のテーマを簡潔に言うと、“テクノロジーカンパニー”であるという原点に立ち返って成長を目指すということになる。 換言すれば「ペン入力デバイスのパイオニア企業としての矜持を持ち続けることが自身のレゾンデートルだ」ということになろう。ペン入力デバイスの市場は本格拡大期にあり、それだけに競争が年々激しくなってきている。そうしたなかでもこれまで積み重ねた技術と経験を最大限に活かして中長期的な成長を実現するためのアクションプランが『Wacom Chapter 2』ということだ。その目標の実現に向けては、1)Technology Leadership(テクノロジー・リーダーシップ)、2)Island & Ocean(アイランド&オーシャン)、3)Extreme Focus(エクストリーム・フォーカス)、の3つの全社戦略を掲げている(3つの戦略の詳細については上述の過去レポートなどを参照)。

2020年3月期第2四半期を終えた現在は、現行の経営体制及び中計がスタートして1年半が経過した状況にある。2020年3月期第2四半期決算の内容は前述の通りだが、その最大のポイントは、現体制がスタートする以前と比較して、あまり“景色”が変わっていない、すなわち、ブランド製品事業の苦戦をテクノロジーソリューション事業でカバーするという収益構造に変化が見られないということだ。

ブランド製品事業の収益力立て直しが遅れていることに関し、弊社では3つのポイントがあると考えている。すなわち、1)製品ラインアップの見直し・再構築、2)内部体制(企画・開発・生産等)の強化、3)市場創造力/先読み力の強化、の3点だ。これら3点の進捗が当初の期待値から遅れていることが現在のブランド製品事業の苦戦の原因であり、同社が解決すべき最優先課題だというのが弊社の理解だ。

一方で、これら3つのポイントについては、同社が現行中計で掲げる3つの全社戦略と対応関係にある。この点は非常に心強いポイントだと弊社では考えている。中計で取り組んでいることの深堀りで、3つのポイント(課題)は解決が図られ、中計目標の達成へつながっていくものと期待されるためだ。重要なことはスピード感で、中計の4年間の後半2年間での巻き返しのためには2020年3月期下期においてしっかりとした道筋をつける必要があると弊社では考えている。それゆえ2020年3月期下期の視点は業績数値以上に、この点に置くべきであろう。


“ユーザーファースト”の視点で製品ラインアップを再構築へ。ソフトウエアとの連携やワークフロー対応力で差別化を図る方針
2. 製品ラインアップの再構築
ブランド製品事業の中核はクリエイティブビジネスで、ここでは製品カテゴリーとしてペンタブレット製品(“板タブ”)、ディスプレイ製品、及びモバイル製品の3つを展開している(それぞれの特徴については後述の主要製品の概要の項を参照)。

現在の市場環境は、ディスプレイデバイスの低価格化が進んだことで、従来の主力カテゴリーであったペンタブレット製品からディスプレイ製品への需要シフトが進んでいる。ディスプレイ製品はペンタブレット製品に比べて、液晶パネルを使用するため原価が高く平均的な利益率はペンタブレット製品よりも低いとみられる。一方、平均的な販売単価が高いため利幅はディスプレイ製品の方が高いとみられる。

ディスプレイ製品の市場における同社の強さは依然として健在だ。大型サイズのものは価格帯が20万円~40万円前後で、ユーザーはプロフェッショナルやハイエンドアマチュアなどとなるが、このカテゴリーでは圧倒的なシェアを維持できている模様だ。他方、同社は2019年1月に16インチサイズのエントリーモデルを実売6万円台で発売したが、これも順調に販売を伸ばしている。ただしエントリーモデルの領域では、中国メーカーなどが4万円程度の製品を投入しているため、今後の販売動向には注意が必要な状況だ。

ペンタブレット製品は簡単な構成であることから、プロフェッショナル向けから入門用まで幅広いラインアップの市場となっている。その中で、プロフェッショナル向けのハイエンド市場では同社の競争優位性は保たれている模様であるが、中低価格帯の領域では価格競争に巻き込まれてシェアを落としている状況だ。

モバイル製品は入力デバイスとしてのディスプレイ製品と記憶装置が一体化したものであるが、現実の使い勝手はペン入力対応のタブレットPC(多くの場合、同社のペン・センサーシステムを搭載している点は皮肉だ)と同じで、競合関係にある。入力性能にこだわるユーザーにとっては両者の違いは明白だが、そうでない一般ユーザーにおいては、あくまで入力デバイスにとどまる同社のモバイル製品とタブレットPCとでは後者を選ぶことが多いとみられる。

忌憚なく言えば、ディスプレイ製品は成長カテゴリーである一方、ペンタブレット製品とモバイル製品は同社が競争優位性を維持するのが難しくなりつつある成熟または衰退カテゴリーであり、この現実に対応して同社がどこまで製品ラインアップの変革を進めるかが今後のポイントであることは誰の目にも明らかだ。

製品ラインアップの取捨選択においては、価格競争力や生産コストなどが選定条件としてまず頭に浮かぶが、同社はユーザーのニーズやワークフローを意識した、いわば“ユーザーファースト”の視点でラインアップの再構築に取り組んでいる。同社が第1に想定するユーザーとはプロフェッショナルやハイエンドアマチュア等とみられるが、この分野ではワークフローが大きく変化しつつある。変化の方向性は様々だが、複数・遠隔地のクリエイターとの共同作業など、“複雑化”が共通項と言えよう。これへの対応ではソフトウエアとの連携は不可欠で、同社はこの部分での対応を矢継ぎ早に発表している。直近の事例では、マンガやイラスト等の制作用ソフトウエアで強みを有する(株)セルシスとの提携(2019年10月31日付リリース)や、同じくクリエイティブ分野でのソフトウエア大手の米アドビとの提携(2019年11月5日付リリース)などがある。

同社のこうした対応は、低価格競争に陥るリスクが小さいという意味ではポジティブと考えている。しかし一方で、一部のユーザーを重視し過ぎてラインアップの取捨選択において同社が掲げる“Extreme Focus”の切り込み方が甘くなることがないかには注意が必要だ。例えば、同社が100%のシェアを獲得するサブセグメントがあったとしても、その市場が小さすぎて投資を賄えないのであれば撤退あるいは投資を縮小すべきと考えられるが、そのような判断を下していけるかどうかが今後はより厳しく問われるとみている。

現状そうした限界的な判断を迫られるまでには多少時間の余裕があると考えられるが、一方で、これまでの全方位的な製品ラインアップをどのように変更して、どういう強弱をつけていくのかというガイダンスは、投資家・市場関係者の視点からは早期に示されることが望まれる。こうしたことが今後示されるかどうかは、次に述べる内部体制の強化や市場創造力の強化といったテーマの進捗とも密接に関連すると考えられるためだ。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)



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