ラクオリア創薬 Research Memo(7):中国ZTEと合弁企業の設立など、複数の注目される動き
1. 導出候補プログラムの概況
ラクオリア創薬<4579>は2017年3月時点において、消化器疾患領域で5プログラム、疼痛領域で2プログラムのパイプラインを抱えていた。その後、2017年12月期下半期から2018年12月期初頭にかけて、いくつか注目される動きが出てきている。
前回レポート(2017年8月30日付)からこれまでに起きた最も大きな進捗は、同社と中国ZTE Coming Biotech(以下、ZTE Biotech)との合弁企業(JV)の設立だ。同社の5-HT2B拮抗薬(RQ-941)と5-HT4部分作動薬(RQ-10)はこのJVに移管され、ここからの導出先の開拓と上市を目指すことになる。
P-CABについては、前述のように、CJヘルスケアが2018年中に製造販売承認の獲得と販売開始を予定している。この動きが日本・米国・欧州の3大市場に対する導出にどうつながっていくか、大きな注目点だ。
イオンチャネル創薬の領域では、前述のように選択的ナトリウムチャネル遮断薬が2017年12月末にライセンスアウトされた。もう1つのイオンチャネル創薬に基づく化合物であるTRPM8遮断薬の開発も順調に進捗して前臨床段階に移行しており、今後の導出に期待が高まる状況となっている。
中国通信機器大手ZTEのバイオテックグループ会社と合弁企業を設立。2化合物についてライセンスアウトの加速を狙う
2. 5-HT2B拮抗薬(RQ-00310941)と5-HT4部分作動薬(RQ-00000010)
(1) ZTE Biotechとの合弁企業設立
同社は2018年1月29日、ZTE Biotechとの合弁会社(JV)設立を発表した。ZTE Biotechは中国の大手通信機器メーカーであるZTE Corporationのグループ会社だ。
この合弁企業は2018年5月に設立予定で現在準備が進められており、社名や所在地、代表者などは現時点では未定となっている。出資比率はZTE Biotechが65%、同社が35%となっている。この合弁会社は同社のRQ-941とRQ-10の共同開発を目的としている。背景には、中国での医薬品開発における規制緩和や大型投資の流れを取り込みたい同社と、事業多角化の一環で海外の臨床早期段階の化合物を導入して中国及びグローバルの製薬企業に再導出を急ぎたいZTE Biotech側の思惑が一致したことがある。
合弁会社が正式に発足後、まず初めに同社は合弁会社へRQ-941とRQ-10のライセンスアウトを行う。この導出に伴う契約一時金については、今期中にアップフロントで同社が受領する契約となっている(2018年12月期業績予想に織り込み済み)。その後、合弁会社はRQ-941とRQ-10の臨床開発を進め、中国国内の製薬メーカー並びにグローバルの製薬メーカーに対して導出を目指していく。そこで得られた契約一時金やマイルストンなどは、一旦合弁企業が受領した後、出資比率に応じて同社へ配分されることになる。
中国の医薬品開発は急激に変化しており、2015 年には中国CFDA が欧米のデータを全面的に受け入れる方針を取ったことから、中国でも欧米並みの開発体制が整ってきた。両社及び合弁会社は、RQ-941とRQ-10について早期に臨床効果を確認し臨床的なエビデンスを取得すべく臨床試験を展開していきたい考えで、今後の両剤の進捗が期待される。
(2) 5-HT2B拮抗薬(RQ-00310941)の状況
5-HT2Bは消化管ホルモンの1つであるセロトニン(5-HT)受容体の一種であり、本化合物(RQ-941)は5-HT2Bの活動を抑制することで薬効を実現するタイプのものである。内臓痛改善や消化管運動の正常化の効能が期待される。群馬大学との共同研究などにより、排便異常を抑制しつつも正常な腸には過分な影響を与えないことが示されたことから、下痢型過敏性腸症候群(IBS)への適応を狙っている。この分野はニーズが強いため、良好な試験結果が得られれば、導出・商品化の可能性は高いと同社は高い期待を抱いている。
同社は、前臨床試験の評価の結果、臨床ステージに進めることが可能と判断し、2015年6月にP-I臨床試験を英国でスタートした。その後、2018年2月末までにレポート作成を含むすべての作業を完了した(当初は2017年中の完了予定だったが2018年にずれ込んだ。これが同社の決算に影響を与えたのは前述のとおり)。同社は、P-I臨床試験によりRQ-941が新しい作用機序に基づく下部消化器症状治療薬となることが十分に期待できる結果が得られたとしており、ZTE Biotechとの合弁への事業移管とも相まって、今後の導出展開に期待を高めている。
(3) 5-HT4部分作動薬(RQ-00000010)
RQ-10は胃不全麻痺、機能性胃腸症、慢性便秘などを適応症とする化合物である。セロトニン受容体の1つである5-HT4を標的とする化合物で、同じ薬理作用を持つ薬剤にモサプリド(大日本住友製薬<4506>がガスモチン®の商標で販売済み)がある。
P-CAB同様、韓国・台湾・中国・インド及び東アジア市場を対象に、韓国のCJヘルスケアに導出されていたが、2017年12月に契約を解消し、導出候補プログラムという立場にあり、ZTEとの合弁会社に中国と、日本を除くその他地域のオプション権付ライセンス契約締結が予定されている。
現在までのところ、従来から目立った進捗はない。同社は2013年5月に英国でP-I臨床試験を終了しており、RQ-10の非常に強い薬効と高い安全性が示された。その後、米国ヴァージニア・コモンウエルス大学(VCU)においてパーキンソン病患者を対象とした医師主導臨床試験が行われている。この臨床試験に対しては、2016年4月に、マイケル・J・フォックス財団パーキンソン病研究機関から3年間で総額868,000ドルの研究助成金が授与されることが決定し、2016年8月にパーキンソン病患者への投薬が開始され、単回投与の結果を受け反復投与が開始されるなど、治験は順調に進んでいる。
韓国での新薬発売が刺激となって導出展開が加速することに期待。先行するタケキャブ®は順調に増収が続く
3. カリウムイオン競合型アシッドブロッカー/P-CAB(RQ-4/tegoprazan)
P-CAB(一般名:tegoprazan)は日本、米国、欧州の3大市場については未導出であり、導出候補プログラムとなっている(それら3大市場以外については韓国CJヘルスケアに対して導出済み)。
tegoprazanについて同社は、日本でのP-I臨床試験を2015年8月に終了させている。同時期にCJヘルスケアが韓国でP-III臨床試験に着手していたため、同社はその進捗を見守りつつ、日本及びグローバルでの事業展開の可能性を探ってきた。CJヘルスケアは2017年8月に承認申請を行っており、現時点では2018年中に製造販売の承認の獲得と上市が見込まれる状況となっている。このCJへルスケアによるP-CABの上市は、同社の導出展開活動に対して大きな追い風になると弊社では期待している。
P-CABの導出展開についての弊社の考え方は、前回レポート(2017年8月30日付)で詳しく述べたところから変わっていない。P-CABにとってポジティブなポイントとしては、1)ターゲット市場の世界市場は約2兆円、国内のPPI/P-CAB市場は約2,000億円、2)P-CABで先行する武田のタケキャブ®は順調に売上げを伸長させている(2018年3月期第3四半期の売上高は前年同期比71%増の420億円)、などを挙げることができる。一方、欧米ではPPIのジェネリック品が伸長しており、日本でも同様の動きがみられることから、製薬企業にP-CABの新薬開発のモチベーションをどのように持たせていくかが導出展開における課題と言える。CJヘルスケアによるP-III臨床試験結果や新薬上市後の販売状況の援用が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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