ウォール街を知るハッチの独り言 マダガスカル金融デジタル化事情(マネックス証券 岡元 兵八郎)
そのなかから今回は、同証券のチーフ・外国株コンサルタント、『ハッチ』こと岡元兵八郎氏のコラム「ウォール街を知るハッチの独り言 マダガスカル金融デジタル化事情」の内容をご紹介いたします。
前回このコラムでマダガスカル訪問について書きましたが、私が訪問してちょうど1ヶ月後のことです、たまたまタイミング良く日本のテレビ局で「マダガスカル、地球最後の秘境」という2時間半の特別番組が放送されていました。私が見たり経験したりした自然や神秘の珍獣を見せてくれ、非常に懐かしかったのですが、その番組を見ながら思い出したことがありました。地球最後の秘境というくらいの国ですから、この国は先進国ではありません。では投資の世界でいう新興国カテゴリーかというと、新興国と言えるほど進んでいる訳でもなく、次に位置するカテゴリーのフロンティアマーケットでもないのです。投資の世界でフロンティアマーケットと言われる国には一応株式市場があるのですが、この国には株式市場がありません。実はアフリカ大陸には29の国に株式市場があります。調べてみるとマダガスカルには証券市場はなく、できる気配もなさそうなのです。
世銀のデータによると、2021年のマダガスカルのGDPは146億ドル(約2兆円)とユナイティッド航空(UAL)の時価総額と同じくらいで、アップル(AAPL)の時価総額の2.6兆ドル(約350兆円)の178分の1の程度の規模のとても小さな経済です。ちなみに日本のGDPは約4.9兆ドル(約659兆円)です。
現地のガイドに聞いてみると、マダガスカルの首都のアンタナナリボのサラリーマンの月収は6,000円程度。国の首都でこのくらいですから、田舎の方に行くと明らかにそれを下回る収入です。そんな貧しい国ですから、調べてみると国民の携帯電話の保有率は34%くらいのようなのですが、モバイルバンキングを利用する人が増えているそうなのです。
1人当たりのGPDが67,000円程度の貧しい国では、国の基盤であるインフラも相応のレベルです。それは地方に行くともっと顕著となります。例えば村から村へ移動するにしてもバスによるサービスがないのです。古く壊れそうなトラックがバスに代わる交通の手段であり、そのトラックの荷台に多くの人たちが乗り混み移動しています。国民の8割が農業関係の仕事に従事していると言われているこの国では、特に地方を訪れると牛や羊などの家畜を飼育し生計を立てている家族を数多く見かけます。村には普通の商店はなく、電化製品を買おうとすれば、先ほどのトラックのバスに乗って隣町の商店まで買いに行かなければならないと言うのです。このような状況ですから、クレジットカードやプレペイドのカードを使うインフラもなければ、銀行の支店も村にはありません。
そうなると大きな買い物をするためには、現金を持ち歩かなければなりません。この国ではもっとも高額な紙幣が2万アリアリ(約808円)なのですが、田舎に来ると流通している紙幣の多くが小額紙幣であるため、現地の人が例えばテレビを買うとなるとアリアリの札束を持ってトラックに乗り隣町へ行くようなのです。そうすると田舎道を走っているとどこからともなく、多額の現金を持っている乗客がいることがわかっているかのように強盗が現れると言うのです。どうも強盗はその現金を持っている人を狙ってやってくるらしいのです。強盗はその情報をどうやって知っているのか。ガイドの話を聞いていると、どうも大きな買い物をしようとする家族がいると、大量の家畜を売ったりして、あの家庭は大金を持っているというような噂が流れるようなのです。そして、その家族が買い物をするためにトラックに乗ったという情報が携帯電話を通じて流れているのだそうです。
小さな村なのでそのような情報が伝わりやすいのでしょう。嘘のような話ですが、どの国にも悪い人たちがいるものです。そのような事件はラジオのニュースでも報道されるので、これまでのいわゆるタンス預金からモバイルバンキングでお金を保管し、携帯電話で買い物をする人が増えてきているのだそうです。実際、マダガスカル政府もテレビやラジオで、現金はモバイルバンキングを使うことを国民に奨励しているとのこと。
携帯電話を無くしたらそのお金も無くなるのではないかという私の問いに対し、ガイドの説明では、この国では国民一人一人がマイナンバーのような番号を持っており、デジタル的に保存したお金はその番号に紐付いており携帯電話を無くしてもお金は無事なのだそうです。
一見するとインフラ整備もままならないような国で、金融のデジタル化が進んでいるのは意外でもあり、納得感もあるという話でした。
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント 岡元 兵八郎
(出所:4/24配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)
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