香港がふたたび世界とつながる(2)【中国問題グローバル研究所】
制裁と戦争がもたらすもの
ごく現実的なレベルで、香港は戦争がもたらした制裁環境にさらされることとなった。李家超のような香港の指導者たちは、抗議デモの弾圧に関与したことですでに米国政府から制裁を受けており、前任者の林鄭月娥と同様、銀行口座を利用できなくなったため、給与はすべて現金で受け取ることになる。香港政府要人の大部分が依然としてこれら特別制裁の適用対象となっており、李家超およびその関係者と面会するだけでも制裁違反になりかねない、という懸念が米国企業にはあるはずだ。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシアの企業、個人およびその支援者に対して米国およびEUから膨大な制裁措置が課されることとなった。香港の金融機関が米ドル決済システムとの接続を維持しようとするなら、制裁措置に従うことが大前提となる。香港の中央銀行である香港金融管理局は銀行に対して、こうした制裁に必ずしも従う必要はないが、制裁を無視することは企業にとって自殺行為になると伝えている。米国財務省外国資産管理局(OFAC)の逆鱗に敢えて触れようとするグローバル銀行は存在しない。地元メディアによれば、ロシアのパスポート保有者は香港で銀行口座を開くことが事実上不可能であり、金融取引はすべて監視下に置かれているという。
このような環境下において香港は、制裁を受けたロシアの新興富裕層「オリガルヒ」の一人アレクセイ・モルダショフ所有とされるスーパーヨット、ノルド(Nord)号の入港を許可している。インターネットで検索したところ、問題のヨットは現在、南シナ海上を南アフリカに向けて航行中であることが分かる。しかし、多くのヨーロッパ諸国が同様のケースでそうしてきたように、香港政府が同船を拿捕するつもりはないと公式発表したことは、香港が世界規模の制裁へどのように対応するか懸念を抱かせるメッセージとなった。
香港としては、ロシアやイラン、その他の国々からの個人、企業、資産の制裁逃れに利用されるわけにはいかない。プーチンのウクライナ侵攻にあたって、中国はロシアを緊密かつ愚直に支援している。これは悲劇的なことではあるが、何ら驚くことではない。香港は今や北京の実質的管理下にあるので、その無策ぶりについては今さら驚くまでもないが、ではマカオなど別の港に寄港するよう伝えてもよかったのではないか。
なぜ制裁違反の可能性という、香港のイメージダウンにつながるような真似をするのか。こうした行動に出たことで、グローバルバンクのコンプライアンス部門は資金や投資がロシアの支援を受けた事業の隠れ蓑になっていないか、より一層厳しい監視の目を香港に向けるようになるだろう。そうなれば香港内での事業運営コストばかりか、香港企業との取引コスト増にもつながる。国際的な金融センターとしての地位回復を目指す香港にとってこれは、賢いやり方とは言えない。
香港は立ち直れるのか
何であれ、落下開始時の高さまで跳ね返りはしない。激動、変化、つまづき、市民の騒動にさらされた3年間を経て、香港がかつての役割を完全に取り戻すことは不可能だろう。とはいえ、習近平の新時代の中国において、香港が果たすべき役割がないわけでもない。
人民元の通貨管理が解除される可能性はゼロである以上、今後も香港の交換可能通貨は中国経済にとって独特の資産であり続けるだろう。中国との間で資金のやり取りを可能にした「滬港通」(ふーがんとん、上海・香港ストックコネクト)制度で大きな成功を収めており、多くの注意点はあるものの、今後も継続的に拡大させていくことだろう。中国企業の米国上場へのハードルがさらに上がることで、香港も上場先としての役割を果たせるし、他にも二国間フローや資金調達の手段は色々と考えらるだろう。しかし、今後はこれまで香港経済の至宝とされてきた金融部門でさえ、前述したような数々の逆風にさらされることになる。
香港はこれからも、アジアに打って出ようとする人や企業を惹きつけるだろう。そして、上海や北京をはるかに超えて自由を享受している香港を高く評価する本土の多くの人々を引き寄せるだろう。香港の摩天楼を見上げては観光客も地域住民もひとしく驚嘆するだろうし、人々の行き交う往来もまた、かつてとまったく同じとは言えないにせよ、活気あふれるものであり続けるはずだ。
この3年間、北京はその支配力を発揮し、この街を徹底的に打ちのめした。北京はここに自らの意志を押し付け、屈服させた。最も声高で、情熱的で、創造的才能を有する人々を投獄し、あるいは外へ追いやった。香港を待ち受けるのは苦難の道だ。この3年間で街が進む道は劇的に変わったが、街はこれからも生き残ってゆくだろう。しかし2014年香港反政府デモの際、ある香港人は中国本土人の問いかけに答えてこう言った —「人生には生き残ることより大事なものがあるのです」。
写真: ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
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