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変貌した世界への到達(2)【中国問題グローバル研究所】


【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、フレイザー・ハウイー氏の考察「変貌した世界への到達(1)【中国問題グローバル研究所】』の続きとなる。

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いずれの国も最終的には、経済再開の必要性と公衆衛生や安全に対する懸念とのバランスを取る必要がある。ビジネス、学校、イベントが段階的に再開されるだろうが、全てに対応できる単一のアプローチはない。台湾や韓国が進むべき道は、イタリアや米国が進むべき道とは明らかに異なる。

その過程では検査が引き続き極めて重要な役割を果たすが、多くの国では検査率向上の実現になお苦しんでいる。このため、実態を依然明確に把握できない中で、制限をどう緩めたらよいか指導者たちは苦境に立たされている。しかし、収入を得たり外出したりする手段がないまま、何百万人を家に閉じ込め続けるのは現実的でなくなるので、何らかの折り合いが必要になるだろう。在宅勤務が容易かつ快適な解決策になる人たちもいるが、労働人口のかなりの部分には現実的ではなく、歓迎すべきことでもない。検査実施が、家族やコミュニティをロックダウンから解放する手段になり得ると提案する人もいる。しかし、新型コロナについて分かっていることがほとんどない中で、入手したデータをどう判断するのか。抗体検査の結果が陽性なら、感染から守るのに十分な免疫力が得られるのだろうか。有効な期間はどのくらいなのか。よく分かっていないのだ。すでにウイルスの検査を受けた人であれば、完全に健康と言えなくても、人ができない仕事の必要性があれば、職場に戻ることが正当化されるのだろうか。簡単な答えはない。

モバイルアプリで個人の接触の履歴をたどって追跡するという提案もある。こうした大規模な監視が理想的だと思う人もいるだろうが、これまでのところ成果は限定的だ。シンガポールでは、追跡用のアプリをダウンロードしたモバイルユーザーはわずか20%だったとメディアが報じている。このような低レベルの取り込み技術では、実効的な解決策とするために必要な範囲をカバーできない。世界にはまだ個人用の携帯電話を持っていない人が多いし、監視に必要なアプリをサポートできるスマートフォンも持っていない。このような技術は、個人のデータや監視に関するプライバシー上の懸念を数多く引き起こしている。一部の国では効果があるかもしれないが、実際にはウイルスの大流行に最も脆弱な多く国には有効ではない。

豊かな先進国では、ある程度は平常に回復することが可能と思われる。検査や社会的距離の確保継続、マスク着用、より局所的な管理と隔離措置を組み合わせることで、都市は平時に近づく状態に戻せるだろう。しかし、より大きな問題が外の世界に広がっていく。多くの国では、海外からの渡航者全員に14日間の隔離期間を設けている。国によっては、外国人の入国を全面的に禁止し、帰国する居住者しか入国できないところもある。発展途上国の多くにとってウイルスの制御が難題であることを考えると、こうした外国人に対する制限や隔離は、数ヵ月に及ぶ可能性があり、2021年どころかそれより長くなるかもしれない。各国がそれぞれの国内事情に応じて二国間協定を結ぶ可能性ももちろんある。例えば香港と韓国の間、あるいは台湾と韓国の間の隔離なしの往来の実現は、今後数ヵ月のうちに確実なように思えるが、発展途上国の多くは、新型コロナの流行を食い止められなければ、長期にわたって隔離の対象となることが容易に想像できる。もちろん、これは発展途上国に限った話ではない。感染拡大の状況を食い止めようと取り組むイタリアや米国、英国は、個別の渡航制限の対象になっている。もし感染が2020年いっぱい続くなら、渡航制限も続くだろう。

国際的な往来が再開しなければ、平常には戻らない。数年後までには、ホテル、観光、航空会社への経済的影響は致命的なものになるだろう。シンガポールの居住者の40%はシンガポール国籍を持っていない。彼らは、南アジアからの出稼ぎ労働者、フランスからの海外駐在員、インドネシアからの家庭内労働者、そして世界各地からの単純労働者や専門職だろう。シンガポールのような世界の十字路に立つ国は、往来のなくなった世界をどうしのいでいくのか。

移動や仕事がある程度正常に戻れば、経済環境は大きく変わるだろう。政府の支援は、経済の落ち込みを遅らせることは可能かもしれないが、落ち込みを止めたわけではなく、もちろん迅速な回復を保証するものでもない。蓄えは使い果たされ、Covid-19のロックダウンの直接的な影響で多くの事業が閉鎖に追い込まれてしまうだろう。原油価格の暴落は、石油業界全般にとどまらず幅広い影響を及ぼし続ける。シンガポールの燃料商社、ヒン・レオンの破滅的な先物取引により多くの銀行が数十億ドルの損失を被ることになるが、政府のCovid-19の支援策でその埋め合わせはできない。銀行セクターはさらに多くの不良債権で打撃を受けるだろう。これは中小企業か大企業かを問わない。ヴァージン・オーストラリアはすでに破産申請したが、航空会社の破綻は同社だけにとどまらないだろう。発展途上国では、渡航制限が複数年にわたると国の発展計画のスケジュールが何年も遅れるかもしれない。経済的な影響を免れる国はない。

今の世界は、2019年末や2020年初めとはまるで違う。当時は当時として先行きの経済的な課題があり、対処すべき困難な地政学的問題があった。そして中国と米国は貿易に関して一定の和解に達した。しかし、Covid-19の救命ボートが接岸しても、残してきたものは拾い上げられない。例えば中国は、国内で厳しい経済状況に直面するだけでなく、Covid-19の物語を捻じ曲げようとする不器用な試みが恐らく裏目に出るだろう。世界のサプライチェーンで中国に取って代われる国は1つもないが、中国への依存度は低下し、サプライチェーンにもっと幅を持たせるようになるだろう。中国だけに依存することを望む国は一つもない。

ただし、この時期は熟考と反省の時間でもある。騒音の減った都市を喜ばない人はいるだろうか。いつもは大気汚染に包まれている国や都市で青空が見える。世界中で人々が生きることの価値と意味を問いかけている。恐らく問題は、いつどうやって平常に戻るかではなく、私たちはかつての平常に戻りたいのか、ということだろう。世界的なロックダウンは一生に一度の経験で済むことを望みたい。未来の世代にとっては信じられない事態かもしれない。現在は危機にあり、今後も危機が続くだろう。私たちは個人として、そして社会として、この危機がもたらす機会を無駄にしたくないものだ。


写真:ロイター /アフロ

※1:https://grici.or.jp/



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