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サプライチェーン強靭化への取組み(台湾との比較)


新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、中国は1月24日~1月30日までの7日間であった2020年の春節連休を大きく延長した。全国的には国務院が2月2日まで延長することを発表したが、上海市や重慶市をはじめ、広東省、浙江省、江蘇省等の地方行政府は、2月10日まで延長し企業に対して活動を休止するように指示した。特に、感染拡大の中心地となった武漢市を含む湖北省は14日までという長期間にわたり企業活動を停止させた。

ブルームバーグの算出では、2月第2週まで企業活動を停止させた14の1級行政区は2019年GDP の69%を占め、中国の経済活動は大きく停滞することとなり、これによって日本の対中貿易額も大きな影響を受けた。財務省貿易統計によれば、2020年2月の中国との貿易額は、輸出が前年同月とほぼ同程度であったのに対して輸入は前年同月比46.9%減と大きく落ち込んだ。2018年から次第に激化した米中貿易摩擦の影響から、多くの国にとってグローバルなサプライチェーンの見直しが課題となっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本のサプライチェーンの脆弱性も改めて露見させられた。

これに対して、強靭な経済構造を構築するべく令和2年(2020年)度の補正予算に計上されたのが、「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」である。
国内の生産拠点の確保を図ることでサプライチェーンの分断リスクを低減し、経済構造を強化することを目的とするこの事業には、2,200億円が計上された。補正予算にはこのほかにも、サプライチェーンに関連する事業として、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」に235億円、「サプライチェーン強靱化に資する技術開発・実証」に30億円が充てられているが、国内の生産構造強化に直接寄与するのは国内投資である。政府が想定している国内投資の管理件数は200件程度であり、単純計算で1件当たり11億円が補助されることになる。

グローバル・サプライチェーンの中枢となるために、国内の生産拠点強化に早くから取り組んでいた国の1つが台湾であり、2019年初頭から、中国に生産拠点等を進出させた企業に対して、台湾に投資を回帰させるための支援を行っている。「歓迎台商回台投資行動法案」と呼ばれるこの事業は、中国に生産拠点等の投資を2年以上行い、米中貿易摩擦の影響を受けた企業を対象としており、2021年12月までの3年間で、国内への新規投資額1兆台湾ドル(3兆5,800億円)、新規雇用創出90,000人を目指すものである。

事業開始当初、回台企業への融資のための銀行基金を200億台湾ドル(716億円)計上していたが、最初の6か月で使い切ってしまったため5,000億台湾ドル(1兆7,900億円)に拡大することになった。2019年6月時点での投資認可企業は81社であり、平均すると1社当たり2.5億台湾ドル(8.8億円)を支援したことになる。2020年4月23日までの投資認可企業は累計181社に上り、投資認可額は総額7,518億台湾ドル(2兆6.914億円)で目標の75%を、新規雇用は61,498人で目標の68%をすでに達成している。

台湾と比較した場合、事業費総額から算出した1社当たりの支援額では日本のほうが1.25倍になってはいるが、日本は補助金のため支援は投資額の1/2~3/4にとどまる。支援規模では台湾と同程度にはなり、台湾にみられるように国内回帰が進む可能性はあるだろが、台湾では融資以外にも設備を建設する土地の提供、水や電力の安定供給への支援、雇用補助金の創設、外国人労働者の受入枠拡大、税制優遇措置等幅広く企業を支援する体制を整えている。サプライチェーンの強靭化には、総合的な政策が必要だということにもなる。今回の補正予算を契機として、国内の経済構造強靭化に向けた今後の政策にも期待したい。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)
を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。


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