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海で熟成した南三陸産ワインが評判 元ヤマハ社員、脱サラし醸造


 宮城県南三陸町の志津川湾の海中で熟成されるワインが評判を呼んでいる。東日本大震災で甚大な被害を受けた町の復興に貢献しようと、仮設の水産加工場をリノベーションした海を間近に望む「南三陸ワイナリー」が、地元の食材とのマリアージュ(好相性)を目指して醸す。経営するのは、震災を機に移住した楽器メーカーの元社員。「震災からの復旧は進んだが、にぎわいはまだ取り戻せていない。完全な復興への力になりたい」と意気込む。

 山形市出身の佐々木道彦さん(50)は横浜国立大を卒業後、ヤマハ(浜松市)に勤務。2011年3月11日の震災を受け、翌12年からがれきの撤去などの災害ボランティア活動で沿岸の被災地に何度も通った。その中で「東北のため自分にできることは何か」と考えることが増えたという。

 14年に18年間勤めたヤマハを退職し、仙台市に移住。同社での商品開発の経験を生かして職人のものづくりを支援するベンチャー企業で働いていた時、ワインと出合った。ワインをテーマにした人気漫画「神の雫(しずく)」の原作者、「亜樹直(あぎただし)」こと樹林ゆう子さん、伸さんきょうだいと「仙台ガラス」を使って日本人に合ったワイングラスを製造するプロジェクトに携わったのが転機となった。

 ワイン文化に深く触れる過程で、ワイングラスはペアで作られることが多いことに思いが至った。「人と人とが触れ合い、つながっていくコミュニケーションツールがワインだ。しかも土地柄が味に反映され、産物とも結び付きが強い。地域を盛り上げるのに最適なのでは」と、将来的にワイン造りで被災地の復興に貢献することを決意した。

 一方、南三陸町では17年春、地域おこし協力隊員らによる町独自のワイン醸造を目指すプロジェクトが始動。ブドウの植樹にはこぎ着けていたが、その先の事業化に苦戦していた。仙台市内のワイナリーなどで醸造の研修を受けていた佐々木さんはそれを知り、「ヤマハで新規事業開発を担当した経験が役立つ」と19年1月、さらに南三陸に移住して協力隊員になった。翌月には設立された会社の社長に選ばれ、本格的に醸造の研究を重ねた。

 肝心のワイナリーの場所は、町民との縁があって見つけられた。同町では多くの水産加工場が流され、震災後に仮設の加工場が整備されていた。佐々木さんが移住した頃はちょうど新しい工場が再建され始めた時期で、漁港近くの仮設の加工場を紹介してもらえた。22年10月に南三陸初のワイナリーがオープンした。

 「三陸らしさを出そう」と発想した志津川湾での海中熟成も、町民の協力が欠かせない。町の特産のカキを養殖するカキ棚などにつるした網の中で熟成を進めている。海中は年間を通じて水温が安定しているのでワインの保管に向いているのに加え「音の振動が空気中よりも速く伝わるので熟成を早め、味わいもまろやかになる」(佐々木さん)という。ボトルにはフジツボなどが付着し、雰囲気たっぷりの名物になった。

 ワインは「カキなど南三陸産の食材とのマリアージュを楽しんでもらい、新しい南三陸の食文化を創りたい」との思いから辛口が基本で、ワイナリーには地元の新鮮な食材を使った料理も楽しめるレストランを併設した。ブドウ栽培やボトルのデザインを手伝ってもらうなど「ワイナリーができたことを喜んでくれる町の皆さんも多く、助けられています」と感謝する佐々木さん。ワインはサイト(https://www.msr-wine.com/)でも購入できるが、「ぜひこの町に来て、復興に向けて頑張っている町の全てを感じてもらいたい」と来訪を呼び掛けている。【竹田直人】

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