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廃墟となった旧海軍基地を一般公開 戦跡の「持続可能な継承」に挑む


 太平洋戦争の終結から今年で78年。かつて国民を巻き込んだ戦禍の記憶をいかに継承していくか、難しさは年を追うごとに増している。キャンパる編集部はこの夏、茨城県の霞ケ浦湖畔で荒廃しかけた旧海軍基地の跡地保存に取り組む団体を取材した。【上智大・清水春喜(キャンパる編集部)、写真も】

「戦争遺跡として保存を」の訴え実る

 茨城県の土浦駅で自転車を借り、霞ケ浦のほとりを走ること2時間弱。目の前に現れたのは、同県美浦村が「大山湖畔公園」として整備を進めてきた旧海軍の航空基地の廃虚、鹿島海軍航空隊跡地。7月22日に一般公開が始まった、国内でも有数の規模の戦争遺跡だ。

 基地は水上機訓練のために開設された。終戦後は医療関係の施設として利用されたが、1997年の閉鎖後は20年間以上放置されていた。不法侵入が絶えず、庁舎や発電所など、計4棟残されていた建物は荒廃したが、2016年に同村が国から跡地約4ヘクタールを購入し、公園として整備することにした。

 そんな跡地を戦争遺跡として保存すべく立ち上がったのが、「プロジェクト茨城」という団体だ。同団体は、10年ほど前から同県笠間市の筑波海軍航空隊跡地の保存活動にも携わった実績があり、映画やドラマのロケを誘致するフィルムコミッション事業も手がけている。

 「これまで貴重な戦争遺跡がどんどん失われている現状を打開して、次の世代に戦争の記憶を継承しなくてはという思いだった」。同団体の金沢大介代表(52)は保存活動に乗り出した理由をこう説明する。鹿島航空隊跡地は当初、フットサルコートなどの整備が想定されていたが、同団体は戦争遺跡として保存し、観光資源化することが同村の発展にとって有益であると強く主張。その結果、同団体が指定管理人となって、史跡公園として整備する方向が固まった。

「観光資源化」ためらわず

 戦争遺跡の保存活動には多くの課題がある。保存や維持にかかる費用については、筑波海軍航空隊跡地保存活動のノウハウを生かし、昨年に実施したクラウドファンディングで約1000万円を確保。荒らされた庁舎の修繕活動や、見学者のための通路整備、チラシ配布を実施している。

 訪れる人をどう確保し増やすかも大事な課題だ。筑波では航空隊をモチーフとしたグッズ販売や、映画やドラマのロケ、コスプレイベント誘致などが功を奏し、県外からも多くの訪問客を受け入れるようになった。

 金沢さんは鹿島海軍航空隊跡地でもこの経験が生きると自信を見せる。幸い、鹿島航空隊跡地は、全国的にみても珍しいほど当時の施設が良い状態で残っているため、「戦争の知識の無い人でも当時を想像しやすく、親しみやすい特長がある」と金沢さんは言う。

 しかし、戦争遺跡の観光利用には否定的な意見もある。それでも金沢さんにためらいはない。そこには画廊運営を本業としている金沢さん自身の経験が強く影響している。

 地方にはかつて各地にそれぞれ多くの優れた画家がいた。なのに、人々が彼らの絵に関心を向けなくなった途端に絵の価値がなくなり、状態が悪化したものはちゅうちょなく廃棄されてしまう。そんな現実を金沢さんは目の当たりにしてきた。「美術の世界で見てきたことは戦争遺跡にも当てはまると思う。まずは知ってもらわなければ仕方がない。世の中の関心を失えば、遺跡のみならずその歴史までも失われてしまう」と強調する。

一般公開は「通過点」

 そのうえで、こうも話す。「戦争の遺物を観光に使うことに賛否があるのは理解できる。正解はないが、戦争遺跡の活用について議論が巻き起こってほしい。賛否があったとしても、結果として遺跡が残り、そこを拠点にさまざまな証言や資料、人々が集まり継承が図れるならそれでいいと思う。まずは存続するための理由が必要だ」

 展示はありのままを見せることを意識し、説明を控えめにしている。想像力を働かせて当時に思いをはせ、身近に感じてもらうことが目的だ。「一般公開は通過点に過ぎない。自分たちの役割はこの航空隊跡地を保存整備し、次の世代に継承すること。持続可能な形を作っていけたら」と金沢さんは話す。

 7月22日の一般公開初日には約300人の見学者が訪れ、保存状態のよい遺構の展示に対する感動の声が聞かれたという。記者も1時間ほどかけて敷地内を自由に見学させてもらった。約80年前にそこで多くの航空隊員がいたのだと思えてくるような生活の跡がいたるところに残っていた。戦争について考えることはあったが、どうしてもひとごとのように思えていた。実際に戦争遺跡に足を踏み入れることで本当に戦争というものが存在したのだとリアリティーをもって受け止めることができた。

 跡地は毎週土、日曜日の午前9時~午後5時に開園されている。入場料は大人800円、小中高校生300円。ガイドによるツアーは午前10時と午後2時。

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