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熊野古道の渡し舟、迎えた限界「本当は…」 ほぼ70代以上の保存会


 世界遺産・熊野古道大辺路のルート上にあり、日置川を川舟で渡る和歌山県白浜町安居(あご)の「安居の渡し」が2023年から休止している。地元有志でつくる「安居の渡し保存会」が運航していたが、高齢化や資金難などから継続が難しくなった。迂回(うかい)路は土砂崩れのため通行止めで、古道は完全に寸断されている。観光業者や郷土史愛好家たちからは早期再開を望む声が上がっている。【竹内之浩】

資金難や高齢化

 安居の渡しは、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産である「富田坂」と「仏坂」の間にある日置川を渡る川幅約50メートルの難所。江戸時代にはあったとされ、旅人や住民が利用した。利用者の減少で1950年代に廃止されたが、2005年10月、保存会が結成されて復活。会員が船頭を務め、予約制で乗客が1人でも対応した。乗船料は保険料込みで500円。乗客にはヒノキ製の乗船手形を配っていた。22年7月、乗客の累計が1万人を突破した。

 保存会が町に対し、22年12月末限りで休止する方針を伝えたのは同年10月。保存会によると、当時の会員8人(現在7人)のうち大半が70代以上で、特に大雨に伴うダムの放流の度に、所有する2台の舟を重機で川から陸に引き上げる作業が大きな負担になっていた。

 また、7、8年前は年間600人以上あった乗客が新型コロナウイルスの影響で半減し、収入が落ち込んだ。そのため、掛け金の安い保険に替えたり、業務用の電話も料金が安い携帯電話に替えたりしたが、舟や重機の補修費などがかさみ、限界の状態だったという。

無償・自腹の現状

 一方、会員は報酬ゼロのボランティアだ。報酬どころか資金がないため、自分たちには保険を掛けず、自宅と渡し場の往復のガソリン代も自腹だった。会員の生本洋三さん(73)は「放流のサイレンが鳴れば、深夜に寝ていても駆けつけた。客が減って運営も苦しい。このままではとても続けられない」と振り返る。

 それでも踏ん張ってきたのは、客の喜ぶ姿があったからだ。「ほとんどの人が日置川の美しさに感動する。それに触れるのが生きがいだった」と語り、「本当はなくしたくない。行政から支援があれば、やめてなかったと思う」と漏らした。一般向けの渡しは休止したが、学生の教育旅行を手掛ける地元の南紀州交流公社からの依頼には今後も協力する方針という。

 こうした状況に対し、仏坂の語り部活動にも取り組む「ひきがわ歴史クラブ」の尾崎彰宏会長(76)は、「古道はつながって、初めて生きるもの。安居の渡しだけの問題ではなく、世界遺産の価値を問われる事態だ」と危機感を示す。「行政からの財政援助があれば、継続できる方法も考えられたと思う。町や県、国が再開できる手立てを考えてほしい」と訴える。

 また、南紀州交流公社の佐本真志所長(47)は「保存会が当面協力してくれるにしても、教育旅行の営業では1、2年先の提案をするので、この状態では不安が大きい」と話す。公社は体験メニューとして、渡しに乗り、仏坂を歩くトレッキングを提供している。熊野古道や世界遺産は誘客の大きな材料になるといい、「高齢化で寂れるばかりの地区なので、人を呼べる資源は残してほしい」と願っている。

町が助成金検討

 渡しの休止を受け、町は活動を継承する団体を探したが見つからなかった。そのため、負担を減らす条件を整えた上で保存会に再開を要請する方針だ。通年ではなく季節限定で運航したり、増水時の舟の移動を専門業者へ依頼したりする他、財政援助なども考えている。井澗誠町長は「保存会に甘えていた部分があった。県や地元経済団体と協力し、助成金を出したいと思っている。最優先の課題であり、秋には再開させたい」と述べる。

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