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ISSで取れたて野菜 火星で「昆虫栽培」も!? 宇宙食の今と未来


 「まずい宇宙食なんかより自分で育てた赤カブを食べたいね」。先日取材した日本人初の宇宙飛行士で、農家に転身した秋山豊寛さん(80)の言葉だ。宇宙で野菜は食べられないのかと思いきや、秋山さんが宇宙に行ってから33年たった今はそうでもないらしい。名古屋女子大の片山直美教授(宇宙栄養学)は「新鮮でおいしい野菜作りを目指しています。これからは昆虫食も有用です」と話す。火星で20年間100人が暮らすことを目標に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと宇宙農業の研究を進めている片山教授に、最新の宇宙食事情について聞いた。【聞き手・川瀬慎一朗】

 ――宇宙食はやっぱりおいしくないのでしょうか。

 ◆以前と比べておいしくなっているし、バラエティーに富んだ飽きの来ないメニューになってきています。ただ、地球でのディナーの感覚とは異なります。

 昔はチューブに入った粉に、お湯や水を加えて飲む形のものが多くありました。しかし、だんだんとスプーンや箸など食器を用いる食事になってきています。

 ――どのように変わってきていますか。

 ◆野菜や果物などの生ものも、地上から持って行き食べられるようになってきました。

 国際宇宙ステーション(ISS)では、宇宙飛行士のお国自慢料理でパーティーも開かれています。日本からはラーメンなど楽しい食事が出ています。

 ――宇宙で求められる食事とは?

 ◆栄養バランスの良い、ビタミン、ミネラルが充足し、たんぱく質のアミノ酸スコアが優れ、しっかり筋肉が維持できる食事です。

 医食同源となるように食事内容を考える必要があります。カルシウムが骨に付き、筋肉が維持でき、血糖値が上がりすぎないように配慮ある食事が求められます。宇宙で植物を栽培する研究も進めています。

 ――どんな植物を育てているのでしょうか。

 ◆日本人宇宙飛行士の野口聡一さんが2021年、ISSでスイートバジルなどを水耕栽培しました。今はそれらの成分やDNAを解析しています。ISSバジルを使ったレシピも考案しています。

 地上で水耕栽培ができる葉菜類関係は宇宙でも栽培が可能と考えます。新鮮でおいしい野菜作りを目指しています。

 ――育てたバジルは宇宙で食べるのですか。

 ◆今はまだ自由には食べられません。(宇宙空間を飛び交う放射線である)宇宙線によりDNAが変わっている可能性があるためです。成分や遺伝子が変わらず、食べても安全に問題はないことを確認する必要があります。

 ――バジルのようなハーブを育てることにどんな意味があるのでしょうか。

 ◆バジルの香りには癒やし効果もあり、料理においても汎用(はんよう)性があります。漢方薬でもあります。今後、宇宙での医食同源、薬草確保に役立つ研究であると思います。「食べること=健康の維持」と考えています。

 ――火星や月でも栽培するのですか。

 ◆将来的に、月や火星の土壌を使って種から育てられればと考えています。さまざまな作物栽培を可能にするため、肥料の開発や土壌改良を行うことになります。

 ――秋山さんが育てているような赤カブも栽培可能なのでしょうか。

 ◆大切なのは、より汎用性のある作物を育てることです。最小限の組み合わせで、最大限の栄養素が手に入る作物の栽培が最優先されます。その後にバラエティーを求めて、赤カブなどの栽培が行われる可能性はあります。

 ――昆虫も注目されているとか。

 ◆昆虫食はFAO(国連食糧農業機関)でも提唱されたように、短時間で作れて収益が上がり、温室効果ガスの排出量が少ないので環境に優しく、動物性たんぱく質として利用価値が高い食材です。コオロギやイナゴなどバッタ類は宗教的にも禁忌とはならないため、ユニバーサルフードとして利用が可能です。

 単位収穫量が良く、費用対効果が高い「昆虫栽培」は今後、地球でも宇宙でも盛んになるでしょう。

 ――どのように食べるのですか。

 ◆殻などを取り除き、粉末にすることで、より汎用性が高まります。コオロギなどは餌によって味や香りが変化します。宇宙船の中というよりも、将来的な月基地、火星基地における本格的な「昆虫栽培」を見越しています。

 ――注目の昆虫は?

 ◆私が代表を務めるNPO法人「宇宙農業サロン」では、カイコを提唱しています。日本ではかつて、貴重なたんぱく源としてカイコのサナギを食べていました。宇宙でもカイコを育て、絹糸で服を作り、カイコのサナギをたんぱく質や脂質として利用しようと考えたわけです。粉末にして菓子にしている例もあります。

 宇宙空間で正常な繭ができるかどうかが問題で、研究を進めていきます。

 ――宇宙飛行士にとって食とは?

 ◆火星に人が行くとなると、往復で3年ほどかかります。長い間、同じメンバーが狭い船内で過ごすことになるのでリラックスできる時間が大切です。

 食事を通じて互いに交流すれば、なごやかに過ごすことができます。また、ハーブによる香りは心を落ち着かせ、自律神経をコントロールし、狭い空間でのストレス緩和、精神安定、深い眠りなどに利用できます。

 これからますます宇宙農業が必要になります。精神的な強さが宇宙飛行士に求められますが、健全な心は健全な体にやはり宿る。そのための食事です。

片山直美(かたやま・なおみ)さん

 1960年北海道函館市生まれ。岐阜大大学院農学研究科で修士号(農学)、名古屋大環境医学研究所では宇宙酔いの研究で博士号(医学)を取得。管理栄養士、調理師の資格も持つ。JAXAを中心に発足した宇宙医学や植物学、栄養学などの専門家が宇宙生活について考えるNPO法人「宇宙農業サロン」の代表。

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