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父の暴力、夜行バスで家出 「おじさん」に拾われた


依存デイズ 生きづらさを抱えて/3

 近畿地方の梅雨入りが発表され間もない2022年6月、雨雲に覆われた空の薄暗さとは裏腹に、夕刻の大阪・梅田の居酒屋は活気に満ちていた。

 「1年は長いようで短いようで。おめでとう、ツヨシ。乾杯!」。音頭に合わせ、私も含めた数人が杯を交わした。この日の主役、ツヨシ(47)はビールをあおり、「いやぁ、1年分の味がしますわぁ」とかみしめた。

 依存症者の回復をサポートする団体「T.R.A.C.K.S LEAGUE」(トラックスリーグ)にはさまざまな症状を持つ人が集まる。その中の1人、ツヨシはギャンブルに溺れた人生を歩んできた。

 「これ、みんなから」。団体の代表として相談に乗ってきたカヲル(55)は、銀色に輝くオイルライターのジッポーをツヨシに贈った。ギャンブルを手放せて1年たったことへのお祝いだ。「うわー、ありがとうございます」。愛煙家のツヨシは喜んだ。

 仕事を始めたばかりで参加できなかった窃盗症(クレプトマニア)のヒロユキ(46)からは「おめでとうございます」とスマートフォンでメッセージが送られてきた。お祝いの言葉が並んだ色紙も贈られ、皆がツヨシの再起を祝福していた。

 「高校中退した後、家出して。着の身着のまま夜行バス乗って大阪に着いたんです。バス降りて手元に残ってたのは500円ぐらい。たばこ買うか牛丼買うか迷いましたね」

 杯を重ね、ツヨシは自身の過去を語り始めた。この日の天気のように薄暗さを帯びたエピソードだが、あけっぴろげな性格のツヨシは、乾いた口調で進める。

愛なんて感じたことない

 山陰地方の海辺の街で生まれた。幼少期から「手癖が悪かった」。小学生の時には駄菓子屋や文房具屋で頻繁に万引きをし、高学年でたばこをふかし始めた。

 中学生になる頃には父親の財布から現金をくすねるようになった。最初は500円。そのうちエスカレートして1万円、2万円と金額は増えていった。「ワル仲間」と「シンナー遊び」やマージャンもした。高校に入ると、授業をさぼって行く先がパチンコ屋に。2年で退学した。

 父親からは頻繁に暴力を受けた。灰皿で頭を殴られ、針で縫うけがをしたこともある。

 「オヤジと話すことなんてなくて、ほぼ目を合わさず生活してましたね。目が合うのは殴られる時ぐらい。愛なんて感じたことなくて、恐怖しかなかったです。いま思えば孤独でしたね」

 高校を辞めた後のある日、酔った父親に家で殴られた。「金属バットで殺したろ」。怒りのまま実際にバットを抱え、寝ずに夜を過ごした。そして生活に嫌気がさし、「もういいわ、全部捨てよ」と投げやりになった。

 貯金箱にあった8000円ほどの現金を持って家を飛び出し、あてもなく大阪行きの夜行バスに飛び乗った。所持金でぎりぎり行ける場所だった。家族には何も告げなかった。「ワル仲間とも遊んでたのも楽しいふりしてつるんでただけ。実際は楽しいこともないし、死んでもいいわと思ってました」

 大阪に着いた朝、所持金は500円。生活できるめどはなく、路上にたたずんでいた。「そこでね、ミンクのコート着て金色のブレスレット付けたおじさんに拾われて。吉本新喜劇の池乃めだかさんみたいな人(笑い)。その人のマンションに住まわしてもらって生活し始めて」

 その人が経営する喫茶店で働き始めたが、半年もたたないうちに辞めた。

 ツヨシいわく、その男性は同性愛者だった。自分に彼女ができると、それを知った男性との仲が険悪になってしまい、辞めることになった――。それが理由だった。

 ツヨシはその後もジョッキをさすりながら、ギャンブルに狂っていった経緯をつまびらかに語り続けた。(敬称略、登場人物は仮名)【巽賢司】

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