starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

子どものおもちゃを万引き 壊れた家庭 始まった負の連鎖


依存デイズ 生きづらさを抱えて/2

 「ビール、飲んでいいですか」。平日の日中、ヒロユキ(46)はファミリーレストランで向き合った私に断りを入れ、ジョッキを注文した。

 2022年春、ヒロユキが窃盗症(クレプトマニア)からの脱却を目指し九州から関西に引っ越して間もない頃だった。どこかマイペースな性格が感じられる。

 ヒロユキは幼少期から高校まで野球に打ち込んだ後、医療機関に就職した。結婚して子どもを授かり、30歳で2階建てのマイホームも得た。「夢が広がっていたというか。60歳までにはローンを返して、老後はゆっくりしたいなと」

 だが、その裏で負の連鎖の予兆は始まっていた。20代後半、デパートでサングラスを万引きし店員に見つかった。「確かその時、家建てるからお小遣いが1日500円ぐらいやったんですよ。仕事も忙しくて、帰宅が深夜0時を過ぎることもあって。買いたいもの買えないし、むなしかったのかなぁ」

 その時は逮捕されずに済んだが、数カ月後にリサイクルショップでDVDデッキを盗み、別の店で換金。その金で子どもに洋服を買った。「やった、成功した、と思いましたね」。そこから30代半ばまでカー用品店やデパート、さまざまな場所で万引きを重ねた。

 35歳の頃、自宅へ警察が来て窃盗容疑で逮捕された。その時は刑務所へ行くことはなかったが、1カ月もたたないうちに子ども用のおもちゃを万引き。逮捕され、裁判で実刑判決を受けた。

◇寂しくなると、やってしまう

 離婚し、自宅は売却した。出所後、職には困らなかったが、1年もたたないうちにスーパーで食料品を万引きし、再び服役。以降、出所後1年以内に万引きして刑務所へ、ということを繰り返した。

 盗んだのは缶ビール1本という時もあった。是が非でもその商品を欲しいわけではない。買うお金もある。バレたら捕まることも分かっている。それでも「衝動でなぜかやってしまう」。いつしかクレプトマニアに共通する症状がヒロユキにも出ていた。服役は4回を数えた。

 「今振り返ると」という前置きをし、ヒロユキは語る。「僕、おうちに帰った時とか、一人でいるとものすごく寂しくなるんですよね。そういう時にやってしまってるんですよ」

 ただ、「突き詰めれば原因は分からない」とも言う。「子どもの頃、母が統合失調症でよく夜中に家を抜け出してて。家庭が崩壊しかけたこと何回もあったんですよ。そういう生い立ちって関係あるんですかね」

 転機はSNSから始まった。22年3月ごろ、ツイッターで「万引きをやめたい」と投稿していると、それを見た「T.R.A.C.K.S LEAGUE」(トラックスリーグ)の代表、カヲル(55)から突然、メッセージが来た。

 依存症者の回復をサポートしている団体であること、悩みがあれば連絡してほしいという内容だった。

 すぐに電話で話した。「ウルトラCがある。引っ越しせんか。こっちにはうちの団体もあって仲間もおる」。そう言われ、すぐに決断した。関西に向かう1カ月後の航空券を購入した。

 家賃5万円ほどのアパート、必要な家電はカヲルが探してくれた。「被害者がおることを忘れるな」「悪さをせん1日を積み重ねていくしかない。目標を明確に持つこと」。カヲルから回復のために必要な考え方や行動を教わっていった。

 「こっちに来てトラックスの仲間がいて、孤独感がないんですよ。盗まない1日を積み重ねる、自分の経験を困っている人に伝える、という目標もできましたし。カヲルさん、マジで神っすよ、神」

 ヒロユキはそう言って、おつまみとビールのおかわりを注文した。(敬称略、登場人物は仮名)【巽賢司】

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.