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ALS患者の“2週間に一度”の外出 「楽しみ」の裏に見えた課題


 「街中の道路には危険が本当に多いんです」。松山市に暮らす筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の井上裕子さん(54)はある日の取材中、視線入力装置を使ってこう語った。四国最大の都市、松山市の中心部でも、ヘルパーが全介助しての外出にはさまざまな危険や不便がつきまとうという。どういうことだろう。4月中旬、“2週間に一度”の外出に同行し、課題を聞いた。

 約15年前にALSの確定診断を受けた井上さんは現在、ヘルパーの介助を受けて一人暮らしをしている。全身がほとんど動かせず、言葉は視線入力装置や介助者が表情から文字を読み取る「口文字」で伝える。事業所がボランティアで埋める時間も含めて1日約22時間ヘルパーを利用。新型コロナの感染不安のために約2年間ほぼ外出できなかった時期もあり、ヘルパーが2人シフトに入れる2週間ごとの外出は何よりの楽しみだ。

 「ここはすごくガタガタしますね」。3年来のヘルパーの女性(52)は、松山市中央の道で車いすを押しながら声を上げた。「ニトリ松山店」の敷地横の狭い道から大通りに出る角には、歩道との段差の近くに側溝に蓋をする格子状のグレーチングや点字ブロックが集まっていた。井上さんは首にも力を入れることができず、振動で頭が傾けば自力で元に戻せない。また、側溝や線路の溝、砂利などには車いすの前輪がはまりやすい。座った姿勢を保てない重度障害の患者が使うリクライニング式の車いすは10キロ台の通常タイプに対して約40キロと重く、引っかかれば抜けずに時間がかかることも多いという。

 井上さんの許しを得て記者も車いすを押してみた。ハンドルを握った途端、道が思いのほか斜めに傾いていることが分かる。振動を避けようとすると傾きのため重みのある車いすが車道側に引っ張られてしまい、慌てて修正すると片腕に強い負荷がかかった。横断歩道を渡る際には段差で前輪を浮かせて慎重に車いすを操縦したが、それでも井上さんの体は不安定に揺れていた。歩道のない道では、側溝を避けると向かいから来た車との距離が近くなり、ひやりとした。不便を感じたことのない道が、急に狭く感じた。

 この日は歯医者などの用事を済ませた後、同市衣山にある和食店で食事をした。入り口には靴を脱いで上がる段差があり、車いすを持ち上げる必要があったが、店員から手助けの申し出はなく、女性のヘルパー2人で上げ下ろしをした。「手伝いがあれば『受け入れられている』と感じて食事を楽しめるが、(手伝う意思を示されないと)入店を歓迎されていない気持ちになる」といい、店員の対応は店選びの重要な要素だと井上さんは語った。

 同市の大街道周辺などでは、道路と歩道の間に段差がない道の整備が徐々に進められている。一方で、飲食店は段差や飛び石などがあって車いすで入れずに入店を諦めることも多い。障害者用の設備があっても、多目的トイレが狭く使えなかったり、車いす用の駐車スペースに乗り降りのための十分な幅がなかったりすることも多いという。

 民間事業者に障害者への「合理的配慮」を義務づけた改正障害者差別解消法は、2024年4月の施行まで1年を切った。国や自治体だけでなく、事業主にも車いす利用者用のスロープを用意するなどの可能な限りの配慮が義務化され、意識改革も重要になる。「弱者に優しい世の中にするなら、新しい物を造る時には一番の弱者に合わせてほしい。使えるトイレがないなどの理由で、行きたいところに行き、食べたいものを食べるのがかなわないのが現状」。ヘルパーの女性は切実な思いを語った。【斉藤朋恵】

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