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南青山ブランドはそんなにヤワじゃない。不動産価値で考える “児童相談所”問題




「南青山“児童相談所”問題」――大手メディアからネット民まで、この数ヶ月ひとしきり議論されていた話題なので、大方の人は飽きてきた頃かもしれない。そこを、あえて不動産価値に着目して再考してみたい。



 



 



■入るのは「児童相談所」だけではない



 



簡単にいきさつを整理してみよう。テレビ番組やネット記事などでは、「南青山の一等地に児童相談所」という書き方が多かったけれど、実際には3つの複合施設が入る。一時保護機能を持つ「児童相談所」の他に、シングルマザー家庭などの自立を促す「母子生活支援施設」、地域の子育て家庭や妊産婦の交流イベントや学習、文化活動、相談などを行う「子ども家庭支援センター」だ。全体を仮に「児童関連施設」と呼んでおこう。



 



このうち「子ども家庭支援センター」は、親子連れが集う比較的オープンな施設なのに対して、ほかの2つは閉鎖型施設と受け取られている。一時保護所は児童虐待の子どもだけでなく法に触れる行為をした少年が入る可能性があり、母子生活支援施設はDV被害の親子も対象になる。



 



港区の説明会に対する反対意見・質問を見ると、閉鎖型に対する拒絶反応が強い印象だ。「触法少年が逃げたらどうなる」「DV加害者のほうの男親が学校に子どもを連れ戻しに来たら…」と。子を持つ親としてはまっとうな心配に映るが、きわめて稀な事態への過剰反応とも思える。福祉施設の是非については、門外漢のためひとまず深入りしないでおこう。



 



 



■反対派が危惧する「土地の価値が下がる」の真偽は…



 



メディアで盛んに取り上げられたのは「ランチ単価は1600円」「ネギ1本買うにも紀ノ国屋」「DVから逃げてきたお金のない母子にはつらい」「塾通いが当たり前でレベルの高い小学校に入れるのは却って可哀想」などの物言い。あからさまな悪意を隠しながら、偏見に基づく排除の論理が垣間見えたせいか、かえって反発をくらったようだ。一連の言動に対しては、珍しく右も左も批判的な見方で一致していた。



 



「南青山5丁目の土地は商業性が高く、坪単価2000万円以上する。もっと世界に発信できる費用対効果の高い施設を作るべき」という反対派の意見も…。しかし坪単価2000万円以上というのは高層ビルもできる骨董通り沿いの土地(道路幅12m、用途地域:商業地/容積率600%)の場合。今回の施設用地は、1本裏に入った細道沿い(道路幅4m強、用途地域:第二種中高層住宅専用地域/容積率300% ※道路幅が狭いため実効容積率は約170%)。4~5階建ての中低層しか建てられない。上の路線価図から計算すると、施設用地は坪720万円程度。1000坪で72億円とピッタリ一致。


施設建設に反対しているのは、憧れの青山ブランドにステータスを求め、億単位の資金を投入して移り住んで来た一部の新住民という見方も多かった。とはいえ、露骨な反対派以外にも、「公共施設の必要性は理解できるが、何も南青山に建てなくてもいいのに」と内心忸怩たる隠れ反発派も少なからずいるかもしれない。「青山のブランドに傷がつく」「土地の価値が下がる」という危惧を共有しているのだろう。



 



反対派の感覚は、あながち的外れともいえない。こうした層をアメリカでは「NIMBY(ニンビー)」というらしい。「Not In My Back Yard(うちの裏には嫌)」の頭文字を取った言葉で、日本では「嫌悪施設」とか「迷惑施設」と呼ばれる。この反対語に、NotをYesに替えた「YIMBY」もあるという。「歓迎施設」だ。



 



かつて一世を風靡した都市づくりシミュレーションゲームのシムシティ(SimCity)は、「NIMBY」と「YIMBY」が地価に及ぼす影響を数値化して採り入れていたという(SimCity研究サイト)。住宅地における「NIMBY」の例を挙げると、原子力発電所がマイナス110、焼却炉がマイナス50など。そこそこ納得できる。一方「YIMBY」の例は、カントリークラブがプラス35、市長官邸がプラス23……。このあたりは日本人には通用しないかもしれない。



 



日本でも「嫌悪施設」は、不動産を買うか否かを判断する重要な要素として契約前に説明することが義務づけられている。法定に明確に定義されているわけではないが、専門書などでは以下のような例が解説されている。



 



1.騒音・振動の発生…交通の激しい道路、物流施設、鉄道、飛行場、工場など



2.煤煙・悪臭の発生…ゴミ焼却場、下水処理場、火葬場、工場など



3.危険を感じさせる…ガスタンク、高圧線、危険物取扱所、暴力団組事務所など



4.心理的に忌避される…墓地、葬儀場、遺体保管所、刑務所、風俗店、パチンコ店など



 



1~3は共感する人が多数派だろうが、4の不快感については、人によって感じ方、評価に差が出るのではないか。最近では、学校や神社仏閣などを嫌悪施設に挙げる人もいる。チャイムや鐘の音、イベント・祭事の喧噪などを“騒音”として気にするという。児童の歓声を“うるさい”と保育園の建設に反対する輩もいるくらいだ。



 



 



■そんなヤワな要因ではびくともしない



 



では、今回のテーマである南青山の児童関連施設が嫌悪施設に当たるのか。ある不動産ジャーナリストは、南青山“児童相談所”問題を論評した記事で「不動産業界でいう嫌悪施設になる」「この施設があることによって周辺での不動産購入を断念する人が一定割合で存在する可能性がある」と指摘している。



 



しかし、“一定割合”で不動産を買いたくない人がいたからといって、価格が下がるのだろうか。不動産価格を客観的に評価する専門家に聞いてみた。この道45年以上の老練な不動産鑑定士は「そんな柔(やわ)な要因で地価は左右されない。一部の人が嫌だといっている程度の個人的な理由では、地価はびくともしない。その人が出て行けば、青山ならすぐに別の買い手がつくだろう」と断じている。



 



青山のど真ん中には霊園がある。心理的嫌悪施設の筆頭ともいえる墓地だ。しかし、青山霊園があるから価値が下がるという人は誰もいない。むしろ、それも青山の魅力の一つだ。梅窓院、善光寺、長谷寺などの歴史ある寺院も多い。その周辺だけ地価が低いわけではない。むしろ、墓地の北側のマンションは「眺望が遮られる心配がない」と評価する人もいるくらいだ。



 



地価は、基本的には立地の利便性、景気動向、金融情勢などによって大きく左右される。現在、都心部の不動産価格はピークに達し、まもなく下降トレンドに入るかもしれない。この児童関連施設が完成する予定の2021年頃には、近隣の相場がやや下がっている可能性はある。反対派は「そら見たことか」といいそうだが、それは市況の変化による結果であって、景気が上向けばまた値上がりするだろう。



 



仮に、多少は気になる施設が近くにあったとしても、「赤坂・麻布・青山」は「3A地区」と呼ばれ、東京都心でも人気の高いエリアだ。外国人投資家のインバウンドが集中している。価格が数%でも下がればすぐに買いが入るに違いない。「嫌悪施設が建つ」と風説を流布し、安値で手放す人が出たら即買いに入るような、海千山千の不動産業者も跋扈しているかもしれない。



 



「かつて病院が嫌悪施設とされ、周辺の地価にマイナスの影響を与えたこともあった。しかし高齢社会を迎えて、病院が近いほうが便利で良いという高齢者が増え、価格が高まっている例もある。時代がかわればニーズも意識も変わる」と先の不動産鑑定士。少子化に対抗する上で、子どもを大切にする施設の存在は、将来、プラスに評価される可能性が高いのではないだろうか。


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