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マクドナルドが「完全禁煙化」を選んだ合理的なワケ




飲食業界で「完全禁煙化」の動きが加速している。サイゼリヤやデニーズ、ケンタッキーフライドチキンが相次いで発表。さらに、串カツ田中は全店舗の9割にあたる160店舗を全席禁煙とした。受動喫煙対策を盛り込んだ健康増進法改正案は今国会で成立する見通しで、2020年4月施行の見込みだ。飲食店としてもこの流れに乗りたいところだろう。しかし、愛煙家からは「ちょっとやり過ぎでは?」との声もある。悩ましいところかもしれない。ここで4年前に全店禁煙に踏み切った日本マクドナルド(以下、マック)の例を振り返ってみよう。



 



 



■マックがとことん「母親」にこだわった理由



 



2014年から15年にかけて、マックは売上3割減と厳しい業績低迷のさなかにあった。そんな状況で14年8月に全店禁煙を発表したが、喫煙者の反発は強かった。多くの専門家が「喫煙者にとって安く手軽に利用できるマックは貴重な存在。利用者の大幅減は確実だ」と指摘した。業績が低迷する中、少しでも既存客を確保したいと考える企業も多い。ではなぜ、マックはあえて禁煙に踏み切ったのか。それは、「一番大切な顧客が誰か」を見極めたからだ。



 



マックの店内にいると、実にさまざまなお客さんがいることを実感する。スーツ姿のビジネスマン、主婦のグループ、のんびりくつろぐシニア客、ゲームに興じる女子高生や雑談する男子大学生。一見すると「マックの顧客=世の中すべての消費者」と思ってしまいそうだ。しかし、経営危機に瀕したマックはターゲット顧客を「母親」に絞り込んだ。15年初頭、サラ・カサノバCEOは次のように語っている。



 




“Regain brand trust through Mon’s Eye, one with the highest standard”



 



「最も高い基準を持つ母親の目線を通して、ブランドの信頼を取り戻す」




マックに来る母親は中学生・高校生の頃からマックが大好きで、放課後もマックに入り浸り、マックでバイトした人が多い。今も子連れでマックを訪れ、ママ友と世間話をする。顧客ロイヤルティ(信頼度、愛着度)は高く、顧客生涯価値、つまり顧客でいる間企業にもたらす価値も大きい。一方、「子どもたちに変なものは食べさせたくない」と考えている。最も厳しい目線を持つ母親たちの信頼を取り戻せば、マックのブランドは再生する――。経営陣はそう考えたのである。



 



 



■マックに求められていた本当の価値



 





信頼を取り戻すには、まず相手を知ることが重要だ。カサノバCEOは47都道府県を回り、彼女らと対話を重ねる中、マック本来の強みである「おいしい商品」「わかりやすい価格」「魅力的なメニュー選択肢」「快適な店舗空間・店舗体験」が求められていると確信した。逆に言えば、当時はこれらが劣化していると見なされていたわけだ。



 



そこでマックは、店舗改装や食の安全の見える化、メニュー刷新などさまざまな施策を打ち続けた。全店禁煙は、あくまでこうした施策の一つだ。子連れの母親が訪れやすい店作りのため、全店禁煙化は自然の流れだったのである。



 



必要なのは「本当のお客様は誰か?」「そのお客様はどんなニーズを持っているか?」「自分たちはそのニーズにどう応えるか?」(=バリュー・プロポジション)を考え抜き、戦略を立てること。「完全禁煙」か「喫煙OK」か決めるのはその次でいい。



 



 



■禁煙にするか、喫煙可にするかは二の次でいい



 



一方、完全禁煙化を検討する際は、社会的な変化も踏まえなければならない。JTの調査によると成人喫煙率は1965年に男性 82.3%・女性15.7%だったのが2017年は男性28.2%・女性9.0%にまで落ち込んだ。「成人男性は喫煙する」というかつての常識はもはや通用しない。いまや「受動喫煙したくない」というニーズが、「タバコを吸いたい」というニーズを大きく上回っているのだ。



 



一方、少数派となった喫煙者の「タバコを吸える場所が見つからない」という切実な悩みも新たに生まれている。富士経済の調査によれば、「居酒屋、バー、スナック」に限ると喫煙客の割合は実に53.8%と過半数を占める。



 



こうした状況を受け、20年4月施行見込みの健康増進改正法も「条件を満たした店舗は『喫煙可能』と標識で示せば、規制の対象外とする」としている。「タバコを吸いたい」というニッチなニーズに応えるのも一つの戦略である。



 



また、このタイミングで顧客層を変えるのも手だ。18年6月に全席禁煙化を決めた串カツ田中は、同月の既存店売上が前年同期比で2.9%減ったものの、来店客は2.2%増えたという。会社員や男性客が減り、家族連れが増えた。子どもや未成年は酒を注文しないため客単価は5%減ったものの、同社は「客数減少は想定内。いい結果だ」としている。



 



全店禁煙に踏み切るか? 喫煙可とするのか? あるいは分煙にするのか? これは、「自分たちはどのようなターゲット顧客に価値を提供するか?」という戦略次第なのだ。


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