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エスカレーターで立つか歩くか問題。「高速道路の追い越し車線ルール」で解決するか?




東南アジアに出張して、驚いたことのひとつがエスカレーターだった。訪れたのはタイの首都バンコクとシンガポール(ここは都市イコール国である)で、どちらも自動車は日本と同じ左側通行だったのに、エスカレーターはバンコクが右立ち左空け、シンガポールは左立ち右空けと逆だったのだ。日本では東京がシンガポールと同じ左立ち右空け、大阪がバンコクと同じ右立ち左空けで、ひとつの国でエスカレーターの立ち位置が違うという世界的にも珍しい国。日本国民なのでそれは知っていたし、バンコクとシンガポールはそれより離れているけれど、飛行機に乗れば2時間ほどの2都市で左右が逆転するとは思わなかった。



 



エスカレーターの片側を歩行用に空けるというマナーは、英国ロンドンの地下鉄で生まれたと言われている。英国は日本と同じように、自動車は左側通行だが、エスカレーターは右立ち左空けと、なぜか高速道路の走行車線と追越車線の関係とは逆だった。これがそのまま欧米諸国に普及し、日本ではまず1970年万博(万国博覧会)開催が決まった大阪に伝わる。シックなマルーンをまとった車両が次々に到着する阪急電鉄梅田駅に設置されたエスカレーターで、「お歩きになる方のために左側は空けてください」というアナウンスを始めたのが我が国における「歩きエスカ」の起源だそうだ。



 



その後このマナーは全国に普及していくのだが、なぜか東京をはじめ他の多くの都市は右側を空けるようになった。たしかに大阪スタイルは発祥の地ロンドンと共通だけれど、高速道路を考えれば右空けのほうが自然だ。ちなみに東京やシンガポールと同じ左立ち右空け方式なのは、ほかにオーストラリアやニュージーランドぐらいだという。こうして片側を歩く人のために空けることが常識となったと思ったら、最近になって歩きエスカ禁止を主張する国が出てきた。ロンドンでは昨年、歩かないほうが乗れる人の数は増えるという調査発表があった。日本でも最近、エスカレーターでは歩かないでくださいという呼びかけが広まっている。



 



歩くより立ったほうが前の人との間隔は詰められる。これはクルマの車間距離と同じだ。それに長いエスカレーターの場合、歩き通す人は少ない。かといって階段の用意がないことも多い。しかたなく立って乗る側に長蛇の列ができる。たしかに混雑緩和のために両側立ちは有効だ。さらに理由として挙げられているのは、両側に均等に荷重が掛かることを想定して設計されたエスカレーターに、片側に集中して乗ることでトラブルが起こりやすくなるということ。たしかに一理ある。そして安全性について言及する人も多い。ただ安全性については、エスカレーターで歩いて転ぶことを危険というのに、階段の存在を許すのは筋が通らないような気がする。



 



筆者は欧米アジア10カ国以上でエスカレーターに乗ってきた。片側は歩く人のために空けてくださいという看板を掲げる国にもいくつか遭遇した。でも多くの国で、混雑時は両側とも歩かず立ったままというシーンを多く見かけてきたのも事実だ。



 



さきほどから何度も例に挙げている高速道路は、空いているときは追い越し車線は追い越しのためだけに走る場所と決まっているけれど、渋滞したときに走行車線だけに車列が並んでいるかというと、そんなことはない。どの車線も均等にクルマが列をなしている。この原理をエスカレーターにも応用してはどうかと個人的には思っている。混雑しているときは両側ともに歩かず、東京で言えば左側さえ空いているときは右側を歩いても良いというマナーだ。立つか歩くかという二者択一にするから揉めるのではないだろうか。人間は本来、もっと臨機応変な判断ができる動物であるはずだ。



 



 


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