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「君はだれ?名前はなんて言うの?」自邸の奥に謎の美女! まさかの自宅ナンパに衝撃を受ける姉と異母妹~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



「何者だ」自邸から出ていく不審車両に尋問!


突然の破談により、しばらく二条院で過ごすことになった浮舟母娘。しかし家を明けてきたのが気になる母の中将の君だけは、いったん帰ることになりました。すでに夜は明け始めています。


中将の君の乗った牛車が二条院を出ようとした時、ちょうど宮中から戻ってきた匂宮と鉢合わせ。宮は「一体誰の車だ? まだ暗い時間に慌ててここから出ていくのは」。自宅から知らない車が出て行こうとするのが見えたら、気になりますよね。


家来が早速訊きに行くと「こちらは常陸どののお車です」。それを聞いて家来たちの笑うこと笑うこと。「聞いたか、“常陸どの”だって。そりゃあ随分ご立派なこった!」


中将の君はその声を聞きながら(本当にそのとおり。田舎者だもの。笑われても仕方ない)。自分はもう諦めるしかないけれど、せめて娘の浮舟には、こんなみっともない思いはさせたくない……。母の上昇志向はいよいよと高まります。


さて、匂宮は部屋に入り「常陸どのとかいう恋人がこっそり通って来てるのかい?今そこですれ違ったが、何やらワケアリげだったよ」。宮は自分が恋愛体質なので、いつもこういう発想しかしません。


「女房の大輔の若い頃のお友達だそうですよ。なんでもそんな風にわざとこじつけて仰るのね」。中の君のちょっと怒った顔も可愛いと思いつつ、宮はその日も遅くまでのんびり過ごします。


「君、名前なんて言うの?」まさかの自宅ナンパ開始


夕方、宮が部屋を訪れると、中の君は髪を洗っている最中でした。普段なら宮の留守に済ませるのですが、当時は髪を洗うのにも吉日が決まっていて、今日を逃すとあと2か月は髪を洗えない。髪を洗うだけでも一大イベントです。


若君はお昼寝から起きないし、女房もほぼそちらに行ったきり。手持ち無沙汰になった宮がブラブラしていると、見かけない女の子が奥の方に入っていきます。


(誰だろう、新参の女房かな?)彼女の後をつけてのぞいてみると、ごちゃごちゃした物置部屋の縁側に、女の姿が。どうやらかなり身分の高い女房らしいと、宮はワクワクして近寄ります。


浮舟は二条院の秋の庭に見入っている所でした。宮が近寄って来ているとも知らず、美しく咲き乱れる秋の花々に夢中。その美しい横顔に宮は好奇心を押さえきれず、そっと衣の端をとらえ、開いていた障子を素早く占めてしまいました。ピンチ!


女は慌てて扇をかざします。その驚いて振り返った様子も可愛く、扇を持った手をそのまま捕まえて「君、名前は何ていうの? 教えて」。まさかの自宅ナンパ開始。


もう怖いやら気持ち悪いやらで、浮舟は大混乱。相手から顔をそらそうと必死です。(この男の人は誰? すごくいい匂いがするけど……これがあの薫の君というお方なの???)あろうことか、薫と間違えています。


そこへ乳母がやってきました。何だか変だと思い、近づいてみるとさあ大変。「まあ! これは一体どうしたこと、由々しきなさりようです」と騒ぎ出します。


でも主人のオレが女房に手ぇ出して何が悪い! と思っている宮にはどこ吹く風。祖父・源氏譲りの口説きテクを駆使し、甘い言葉をささやき続けながら「名前を教えてくれない限り、ずっとこのままだよ」と、そのまま抱きしめて横になってしまいました。キャー。


その様子から乳母はこの男が匂宮だとわかり、無下に引き離すことも事もできず呆然。あたりはどんどん暗くなって行きます。そこへ「格子戸を締めたら真っ暗ね。灯りもお持ちしませんで……」と女房の右近が。思わぬ伏兵登場に今度は宮が不利です。


無骨な浮舟の乳母は、取り繕いもせず「ちょっとすいません! こちらにとてもけしからん事がございまして、私はここから動けなくなっております」とSOS。


右近はなんのことかと思いながら、手探りで近づいて事態を察しました。「なるほど、これは大変。私ではなんとも申し上げられませんから、奥様(中の君)にご報告してまいります」。乳母も浮舟も、このことを中の君に知られるのはつらいですが、背に腹は代えられません。


宮は逆に居直って(驚くほど上品で可愛らしい人だ。右近の態度からしても普通の女房じゃなさそうだが……)。彼女の方は男をはねつける風もなく、とにかく死ぬほど恥ずかしがっているのだけが可憐で、宮の愛語にも情が籠もります。


(このババアが邪魔だなぁ)と、宮は乳母の手をつねったりしますが、乳母は怖~い顔で宮を睨みつけ、死んでも動かぬ覚悟です。大変なんだけどちょっとおかしい膠着状態が続きます。


膠着状態が一転!「残念なお知らせ」で命拾い


右近は事の次第を中の君に伝えました。「かわいそうに。あの娘の母親からもくれぐれもよろしくと頼まれているのに……。本当に宮さまの手の早いのには困ったわ。いつもの悪い病気が出たのね」


とは言え、病的な女好きの宮を止めることなど誰にも出来ません。(もう手遅れじゃないかしら)(さあ……)などと女房たちがささやきあっているのも恥ずかしく、中の君自身呆れてものも言えない。こんな事が日常茶飯事のお邸なんですね、やれやれ。


そこへ宮中から連絡が。「中宮さまにわかにご発病、只今ひどく苦しんでいらっしゃるので至急」とのこと。右近は「宮さまには残念なお知らせね。早速お伝えしましょう」と、浮舟の所へ戻ります。


宮はその知らせにも「また大げさに言って。オレを脅す気か? 具体的に誰が来たのか言え」。右近は使者の名前を出してせっつきますが、宮はこんなことで獲物を逃してなるものか! と躍起です。


こうなったら使者自身から直接説明してもらおうと右近が頑張っていると、追加の連絡が届き、関係者が続々宮中へ急いでいる様子が報じられます。(なるほど、急な発作でお苦しみになっているのか。いつも通りすぐ良くなる病気かもしれないが、こういう時に駆けつけないと、あとあと何を言われるかわからないし……)。


とにかくママに頭の上がらない匂宮はようやくギブアップ。まったく残念無念ですが、「これで終わりじゃないからね。また必ず逢おう」と捨て台詞を残して、ようやく去っていきました。


重大インシデントに衝撃…姉妹の間の絆はいかに


浮舟は汗びっしょりで、まるで怖い夢でも見た後のような気分です。乳母はそれを扇ぎながら、ため息交じりに言います。


まったく、やんごとなきお方とは言え困ったことです。華やかなお邸は人も多くて安心できませんね。


一度このような事があったからには、今後も二度三度と懸念されます。本当に危ないところでした。赤の他人のお邸でこういった出来事があったとしても、それはそれと思うほかありませんが……。


こちらは縁続きですから、絶対に間違いがあってはいけないと魔物のように睨み据えておりましたら、不気味だと思われたんでしょうねえ。宮さまがあたしの手をギュッとつねったりなさって……。そんなところは一般人と何も変わらず、逆におかしくて」。


乳母は愚痴を続けますが、浮舟はただもう何も考えられず、うつ伏して泣くばかりです。未遂に終わったとは言え、誤解を招く重大インシデントには違いありません。(こんな事になって、お姉さまはどう思われただろう)と、そのことばかり気になります。


中の君は中の君で、妹がどんなにつらい思いをしただろうと、何も知らない風を装って「私は髪を洗った後で動けないので、よかったらこちらにいらっしゃいな。そちらでは退屈でしょう」と伝えてきました。


乳母は「とても気分がお悪くて、ちょっとお熱もあるようで。いえ、どこがどう、というご病気ではありませんけど、少し良くなりましてから」。


その返答に女房たちも(やっぱり、ショックを受けていらっしゃるのねえ)。中の君は自分の多すぎる髪を乾かすのに疲れつつ(ドライヤーもない時代、広げて自然乾燥するのを待つだけ)つくづくと、自分の夫と薫のことを思いました。


(気の毒なことになったわ。薫の君がせっかく本気なのに、こんな事件があったとなれば、軽蔑なさるに違いない)。


宮は自分が軽いので、変な勘ぐりはしても、それほど細かく気にしない。逆に重く深く執着する薫は、何かあると後が厄介。遊び人とクソ真面目の差を、中の君はしっかり見抜いています。


(長い間、遠い地方をさまよって来た私の妹。こうして出会えて、本当に可愛くていい子で、大好きになれたのに……。どうしてこう、人生って上手くいかないのかしら。


薫の君のこと以外に大きな悩みもない今の私だけど、もう一つ難しい問題が増えてしまった。ふたりが上手くいって、私へ言い寄らなくなってくれたら、それだけでいいのに)。中の君の本音としては、どうしてもそう思わざるを得ません。


当の浮舟は本当に具合が悪くなってきていましたが、乳母は強いて「ここで姉上さまにお目にかからないと、かえって何事かあったように受け取られてしまいますよ。いつもどおりにお会いなさいませ。右近の君に、私から詳しく説明しておきますから」。


そんなわけで、もともと素直でおっとりした性格の浮舟は、押し出されるように中の君の前へ。気まずい出来事があった直後の姉妹の対面や、いかに。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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