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「やっぱりお姉さまのご判断は正しかった。今からでもいい、宇治に帰りたい」結婚話は先手必勝!? 苦悩する父親に押し切られる男たち~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



実は帝の秘蔵っ子! 母を失った14歳の皇女


貴族の間でお婿さんにしたい男ナンバーワン・薫。しかしもとより結婚願望がなかった上、初めて心から愛し結ばれたいと願った大君を失い、ますます縁遠くなるばかりです。そこへ、非常に断りづらい縁談が持ち上がります。今上帝の第二皇女、女二の宮との結婚話です。


この方の母君は左大臣(以前もちらっと登場した謎の人物)の娘。優しい性格で、まだ帝が皇太子時代に後宮入りし、格別に睦まじい仲でした。そこへ源氏の娘・明石女御(今の中宮)が入内し、彼女に寵愛が集まると次第に日陰の身に。結果、中宮が皇子を大勢生む中で、この方は女二の宮お一方のみとなり、皇子を産めなかった自身の運の拙さを嘆きつつ、先日亡くなられたのでした。薫にとっては従姉妹、匂宮には異母妹に当たります。


帝は中宮との間に生まれた女一の宮をこの上なく大切にする一方で、無念のままに母女御を亡くされた、この女二の宮を大変可愛がっておられました。世間の評判こそ、姉の女一の宮に集中していますが、内々のお扱いは勝るとも劣らず。祖父・左大臣の名残の財産で経済的にも不自由なく、それほど注目はされないが趣味豊かに大切に育てられていた旨が語られます。


目立たないけど実は大切にされてきたやんごとないプリンセスといったところでしょうか。御年14歳、お姿は上品で可憐ですが、年の割にしっかりしたご性格で、おっとりとはしていますが、幼稚なところはありません。


母女御の死を大勢が悼む中、若い頃からの妃を亡くされた帝の残念さは格別です。何より母を失った娘が哀れでならず、四十九日が明けるとすぐに自分のそばへ呼び寄せ、毎日毎日お見舞いをしてあげています。


「今になってよくわかる」父と同じ悩みを抱えた帝の苦悩


亡くなった方への悲しみはつきませんが、気がかりなのは今後のこと。宮ご自身には何の問題もありませんが、母方の親族はすでに零落していて、頼りになりそうな人物がいません。帝の脳裏に蘇ったのは、かつて父・朱雀院が妹の女三の宮の身の振り方に悩んだ時のご様子でした。


(あの時の父院のお悩みが今となってはよく分かる。この子が、将来落ちぶれて不如意な暮らしをするようになったら……と思うと耐えられない。皇女は独身を通すのが通例、しばらくは反対意見もあろう。でも女三の宮を見れば、やはり源氏との結婚をしたからこその今があるといってよい。その息子、薫の中将は若いのに大変立派だし……)。


女三の宮のしまりのない性格では、独身でいると柏木どころかもっと変な男に目をつけられ、とんでもないスキャンダルになっていたかもわかりません。高貴な女性が独りでいるといろいろ問題が多いこの時代。帝はそろそろ譲位も考えているため、なんとか在位中に不安材料をなくしたいのでした。


薫なら身分、人柄、将来性の点で皇女の夫として申し分なし。たとえ他に想い人がいた所で、宮を粗略には扱うまい。スキャンダルの話も聞かないし、その点でも安心だ。まだ正式な妻は持っていなかったはずだから、他の貴族の婿に取られる前に当たってみよう」と、早速アクションを起こされます。


「これがあの方だったら……」心はずまぬ青年の胸中


季節は秋、時雨のそぼ降る時期です。帝は女二の宮を慰めるために訪れた藤壺(亡くなった母女御の殿舎)へ、薫をお召しになりました。


「ここはあいにく喪中で、音楽はできない。暇つぶしにやっぱりこれが一番だ。三番勝負しよう」と、帝は碁盤を取り寄せます。お相手をするのはいつものことなので、薫もそう思って構えていると、「実はここによい賭物があるんだが、ちょっとやそっとのことでは渡せない。何だと思う?」と意味深なお言葉。薫は意図するところが、ここの女二の宮であると悟ります。


結果は薫の2勝1敗。「悔しいなあ。とりあえず、今日のところは菊の花をひと枝許す」。仰せのままに薫は庭へ降り、美しく咲いた白菊の枝を一つ折り取って戻ります。


「世の常の垣根に匂ふ花ならば 心のままに折りてみましを」。普通の家の娘なら気ままに自分のものとできるでしょうが、こちらの姫宮さまは恐れ多くて……と謙遜します。


帝のお返しは「霜にあへず枯れにし園の菊なれど 残りの色はあせずもあるかな」。母に先立たれたこの宮だが、大変美しい娘に育っているよと、暗に女二の宮との結婚を許しを伝えます。ダイレクトじゃない言い回しをする感じが貴族的。


しかし、お許しがあったところで「じゃあ早速」とはならないのが薫の性格。(もったいないお話だが不本意だな……。結婚なんてしたくなくて、数々の縁談をスルーしてきたのに。出家した坊主が還俗したみたいになってどうするんだ)。


一方で(これが女一の宮さまだったらなあ……)。幼い頃、六条院で共に育ち、当代一の絶世の美女と名高い女一の宮だったらどんなにか、と憧れる気持ちも忘れません。しかしこれは女神様と結婚したいと言うのと同じようなもの。叶いそうもない大それた願いでしかないのでした。


先を越されて大慌て! 母と伯父から迫りくる包囲網


この話を聞いて焦ったのは夕霧です。娘の六の君との結婚について、一度フラれたとは言え、薫のことだから粘り強く交渉すればしぶしぶでも合意してくれるんじゃないかと踏んでいたのに、まさか陛下に先を越されるとは!ショック!!


一方、匂宮は中の君とサプライズ婚したものの、六の君への興味は失せていないらしく、チョロチョロ手紙を送ってきます。


(もうこうなれば匂宮でいいじゃないか。いい加減な遊び人で、誠実な夫でないのは娘にとって良くないかもしれないが、かといって身分の低いただびとと結婚させるのは絶対に嫌だ)。娘にとっていい相手かどうかより、世間体やプライドが先行する貴族の社会。あ~あ。


夕霧は再びターゲットを匂宮に戻し、妹の明石中宮に再三再四口添えを要求。「陛下ですら婿探しに苦労なさる時代です。まして臣下の娘が婚期を逃しては……」。中宮は困って、宮を呼び出してまたお説教です。


右大臣(夕霧)がお気の毒でしょう。何年も前からあなたにとお話を持ってきていたのに。いつまでものらりくらりと言い逃れるのはどうかしら。


皇子というのは、後ろ盾次第で良くも悪くも運命が決まってしまうもの。陛下も最近、ご譲位のお話をされるようになりました。もしそうなればあなたにも皇位が巡ってくるとも限らないのですよ。


一般人であればたくさんの妻を持つことは難しいけれど……右大臣だってあんなに真面目な性格で、(雲居の雁と落葉宮の)ふたりの奥方を別け隔てなく愛していらっしゃるでしょう。ましてあなたの将来を考えたら、多くの妻を持ってもいいわけだから」。


ママのお説教に宮の心は揺らぎます。(別にすごく嫌だってわけじゃないんだけど、夕霧の伯父上のあの格式張った感じが苦手なんだよ。今みたいに自由気ままに過ごせなくなると思うとしんどいよなあ。でも確かに、あの堅気な伯父貴に恨まれるようなことになると、あとあとマズイことになるかも……)。


その一方で宮のスケベ心は収まるところを知らず、以前文を送っていた紅梅大納言の連れ子、宮の御方へアプローチすることも忘れません。中の君をラブラブな一方で、他の女へのよそ見も忘れない匂宮。結局、この年はそれ以上の進展がなく暮れます。


「今からでもいい、宇治に帰りたい」危惧した未来がついに現実に


明けて新年。季節は移ろい、女二の宮も喪明け。いよいよ婚儀を先延ばしする理由はなくなりました。帝のご内意を受け、薫はついに腹をくくり、結婚を申し込みたい旨を伝えます。この辺のやり取りも人づてにほのめかしたり、ほのめかされたりする感じが日本的です。


帝は大変お喜びで、早速日取りもお決めになりました。女二の宮と結婚したがっていた貴族の男は多かったので、薫はやっかみの的になります。が、彼の心は喜びどころか鬱々としたままです。


(こうなっても大君のことが忘れられるどころか、一層悲しく思われるばかりだ。どうしてあのひととは結ばれることなく、他人のままで終わってしまったんだろう……。


たとえ卑しい身分であっても、大君に似たところのある人ならば、きっと心も動くだろうに)。相変わらず大君のことを思ってはグズグズ。もう、グズグズじゃない時を探すほうが難しい。


他方、夕霧は六の君と匂宮の婚儀を8月(旧暦)頃と決めて、逃げられないよう囲い込みを図ります。「ついに匂宮が折れた」という話は、中の君にも漏れ伝わりました。


(やっぱりだわ。浮気な方とはわかりつつも、この一年余りは一途に大切にされてきたから、今更新しい方を迎えられると聞けばやっぱり辛い。ましてやあちらは立派な大臣家のご令嬢。かたや親もいない、落ちぶれた宮家の私。いつかこんな恥ずかしい目に遭うのではと思ってきたけれど……。


宮の愛情がすっかり失せるということはないにせよ、この先どんなに辛いことが多いだろう。やっぱり、こんなことなら宇治に引きこもっていればよかった。今からでもいい、宇治に帰りたい!……でもそんな事をしても、地元の人間から出戻り女と嘲笑われるだけ。


ああ、お姉さま。お姉さまはおっとりとお優しかったけれど、芯は本当にしっかりしていらっしゃった。だからあの薫の君の熱意に押し流されることなく、清い仲のままで生涯を終えられたんだわ。もし生きていらしても、きっと出家されて身を守られたに違いない。


お姉さまのご判断は正しかったわ。お姉さまは結婚すると、こうなる未来が予測できたからこそ、あれほど頑なに結婚を拒まれたのね。ああ、お父様、お姉さま。お二人は私を、どんな軽薄な愚か者とご覧になっていらっしゃることか……)


亡き父が遺言し、姉が危惧した未来に直面する妹。しかし一人ぼっちになった彼女に選択肢はありません。そしてもう一つ、まったく初体験の苦しみが、彼女を苛みはじめていました。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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