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ロシア、米国、中国、欧州連合:列強入り乱れるイタリアと『世界家族会議』(Passione)



今回は平島 幹さんのブログ『Passione』からご寄稿いただきました。


ロシア、米国、中国、欧州連合:列強入り乱れるイタリアと『世界家族会議』(Passione)



国際婦人デーの5万人デモを皮切りに、3月のローマでは女性たちに関するイベントが各地区でポジティブにパワフルに繰り広げられ、当初は女性たちをテーマにこの項をまとめるつもりでした。しかし現在、女性たち、そして彼女たちを応援する市民の大きな懸念となっている『ピロン法案』を調べるうちに、米国右派やロシアの宗教原理主義者たちが中核を担う『世界家族会議』までをたどらざるをえなくなった。そのうちローマに、『一帯一路』プロジェクトを含む中伊通商合意の覚書に調印するために中国首席が訪れ、それから1週間もせぬうちにヴェローナで『世界家族会議』が開催された3月のイタリアが、いつのまにか世界の縮図のような状況になっていることに「ええ!」と驚くことになったわけです(タイトルの写真は『ピロン法案』に反対するフェミ・デモに集まった人々)。


さて、『ピロン法案』から『世界家族会議』までを、無邪気に旅するうちに、驚きとともにあれこれの発見がありましたが、その経緯を追う前に、中国との合意を確認したイタリアの状況を、まずさらっと追ってみようと思います。


というのも中国主席イタリア訪問と『世界家族会議』は全然関係ないようでも、全体を俯瞰してみるなら、中国、米国、ロシアという列強の、イタリア、さらには欧州連合を巡る、緊張をはらむ政治・経済ストラテジーが、ぼんやりと浮かび上がってくるように思うからです。


その相関関係から、もはや絶対的に『右派連合(同盟+フォルツァ・イタリア+イタリアの同朋)』として優位に立ち、ひょっとすると政権を握る可能性があるほどの支持率を誇りながら、なぜ『同盟』が『5つ星運動』との連帯を解消しないかが、なんとなく分かってきました。ロシア、米国右派と強いつながりを持つ、海千山千の古参政党『同盟』にとっては、『5つ星』という、外交には無垢で、イデオロギーを明確に持たない勢力と連帯を保つことで、5月の欧州議会選挙を控えたイタリアの(あるいは選挙後も)諸外国外交においては、ある種のバランスを保つことができる。それに、ベルルスコーニ元首相にあれこれ口出しされるのも困りものです。


実際、G7を構成する国々において、『一帯一路』の覚書に一番乗りで調印したイタリアで、政権樹立後、ただちに北京を何回か訪問するなど、中国との外交に積極的に関わっていたのは『5つ星運動』でした。調印に関しては、このまま「中国ネオ・コロニアリズムに巻き込まれてしまうのではないか」、「アフリカ諸国やアジアの国々の例があるように、いつの間にか経済主権を奪われるのではないか」、そもそも「われわれは米国のコロニーなのか、それともロシアなのか、中国なのか」という声も、確かにあった。


わたし個人としては、中国の一党独裁と全体主義、少数民族の人々への極端な圧政、人権のコンセプトがまったく通用しない強権的な独自ルールで世界経済を牽引する有り様に、「現在のイタリアが中国と渡り合えるだろうか」と、あまり楽観的にはなれない、というのが正直なところです。が、と同時にイタリアという国は(そして欧州連合も)意外に姑息で老獪だ、とも考えています。


要するに、米国、ロシア、中国という列強を矛盾なく取り込めるのは、イタリアが『同盟』、『5つ星運動』という、まったく違う政策とキャラクターを持つ、そもそも矛盾した勢力が政権を構成しているからでもある。ちなみに中国主席が訪れた21日には、偶然なのか意図的なのか、イタリアではいつのまにかパブリックな存在となったスティーブ・バノンもローマを訪れ、シンパたちとの会合で、「中国は危険な国である」「フアーウェイの5Gは絶対に許可してはいけない」と熱弁した、と報道されました。そのバノンは、世界で一番面白く、重要なスタンスにあるのはイタリア連帯契約政府だ、と賞賛しています。


ところで、中国主席のイタリア訪問にはもともと賛否両論があったので、訪問中には盛んな議論が巻き起こるかも、と想像していましたが、懸念の声がちらほら聞かれたぐらいに終わりました。超厳戒態勢が敷かれながらも、意外と静かに厳かに、大統領府で豪華な晩餐会が開かれ、上院であるマダーマ宮殿で調印の儀式が進行した。というのも、『一帯一路』プロジェクトという国際政治に関わる件はともかく、今回の中伊の通商合意は現政府の決定的意向というより、『オリーブの木』政権あたりから民主党政権時代まで少しづつ温めた中国との関係で、ようやく商機が熟した、という空気もあるからです。イタリアの4、5倍は中国とのビジネスが盛んなドイツや英国、フランスに比べると、はるかに出遅れていました。



中国主席が訪れた当日のIl foglio紙は、一面、裏面と、どうしても買いたくなる大判風刺画に包まれていました。「大丈夫だよ。うまくやれるから。実際、(この龍は) 僕の手から餌を食べるんだ」と、楽観的なコンテ首相が手綱をつけた龍は「ピン」と書かれた名札をつけている。これはかつてディ・マイオ副首相が中国を訪れた際、記者会見で中国主席の名字を間違えて「ミスター・ピン」と呼び、「えー!? 名前を間違えるなんて」と笑いを誘ったエピソードから。人気風刺画家、マコックス(マルコ・ダンブロジオ)の作品です。裏面は「欧州万歳、ようこそ、ミスター・ピン」と欧州連合の旗の全面写真という念の入れようでした。


イタリアが『トロイの木馬』になる、と脅した欧州連合と米国


今回イタリアー中国間で取り交わされた調印は、あくまでも『覚書』であり、法的拘束力はない、と強調されていますが、それでもトリエステ、そしてジェノバ(そしておそらくパレルモもなんらかの形で関わるのかもしれません。唯一ローマ以外に選ばれた、中国主席パレルモ訪問に関する情報は、トップシークレットだそうです)という、今は閑散としていても、歴史ある港を、ニュー・シルクロード『海路』の終着地点として中国に解放することは政治的決断でもあり、調印前には、欧州連合も米国も戦々恐々と毎日のように懸念を表明。いったんはイタリアが孤立した状況に陥ったようにも思えました。


「スリランカ、マレーシア、そしてギリシャの例があるじゃないか、イタリアも港のインフラ整備のために、中国から多額の借金を負い、返還不能に陥って、やがて実質経営権を奪われるかもしれない」そう日本でも報道されているようですが、ニューヨーク・タイムス紙もワシントン・ポスト紙も次々にイタリアの決断に釘を刺す記事を掲載しています。


アフリカ、中近東にも手が届く位置にある、地政学的な要所である欧州の玄関口、イタリアの港を確保することは、中国の『一帯一路』プロジェクトにとって、またとない好機には違いなく、イタリアにとっては欧州連合に強いられた緊縮政策以来、みるみるうちに悪化した財政状況(2019年は成長率0%、あるいはリセッションの可能性もあり)を打破するため、「メイド・イン・イタリー」ブランドを中国にガンガン輸出して起死回生を狙いたい、というところでしょうか。誰も予想できなかった安定したスピードで世界の覇者に躍り出ようとしている中国の主席を、イタリアの各メディアは「世界で最も強靭な権力を持つ人物」とも表現しました。


もちろん、イタリアを含む欧州で、「サイバーセキュリティリスクに関する情報共有」という条件つきで検討されている、ファーウェイ5G導入予定には、データの安全性に関してかなりの抵抗があり、『同盟』のマテオ・サルヴィーニは、2019年から徐々に導入予定の5Gに関して、防衛における不安を何度も示唆しています。しかし、だからといって現在の4Gデータが安全、ということではありますまい。スノーデン氏の警告も然り、各種アプリがいつの間にか個人情報を収集していることは、もはや周知の事実です。


ともあれ、中国国内で酷い抑圧にさらされ続けている少数民族の人々の『人権』に関するニュースは、最近のイタリアのマスメディアからは完全に抹殺されてしまいました。「結局世界は『人権』より『文化』より『経済』なんだね。中国という国は、満面の笑みを湛えながら、美味しいお菓子をたくさん携えて訪ねてくるんだ。イタリアが騙さていないといいけれど」と忸怩たる思いを抱える、そもそも亡命者としてイタリアへやってきて、現在は市民権を持つ少数民族の友人が話していたことをも、ここに記しておきたいと思います。


彼らはまた、昨今のイタリアの右傾化をひどく心配し、「まさかイタリアが、アフリカの難民の人々をこんなひどい目に合わせるとは思わなかった。失望したよ。僕らだって難民なんだよ。いいかい、僕らの闘いは、あくまで人権問題なんだ」と、社会に差別的な傾向が色濃くなっていることを深く憂慮しています。


さて、政治的な合意ではなく、あくまでも経済合意だということをアピールするため、ジュゼッペ・コンテ首相と中国主席立会いのもと、経済発展相及び副首相のルイジ・ディ・マイオと中国改革国家委員会(commissione nazionale per le riforme chinese)の何立峰により署名された『覚書』の項目は、全部で29項。


国家間の合意が19項目、民間企業のビジネス合意が10項目と、当初の予想よりもだいぶん少なく、そのうちの2社だけが正式な契約となっています。Cassa deposito ( 経済・ファイナンス省83%、16%を複数の銀行により拠出されたファンドで、イタリアの経済システムを管理する機関)が中国銀行と協力で『パンダボンド』を創設、中国国内のイタリア産業に資金を供給することに合意。Eni(イタリアの主要エネルギー会社)は覚書に署名、Ansaldo Energiaが、Benxi SteelとShanghai Electricと契約締結。今回の訪問の肝でもある、前述のトリエステ、ジェノバは、中国のインフラ設備投資を歓迎、いずれもふたつ返事で合意しています。


そのほかイノヴェーション、ネットビジネス、人工衛星に関して両国が協力するほか、オレンジ、畜産物の輸出、さらに考古学財の輸出入の防止、796点の中国骨董品返還合意などを確認。また、イタリアの国営放送Raiがチャイナメディアグループ、ANSA通信が新華社との協力に合意しています。今回は総額25億ユーロの調印となりましたが、今後200億ユーロのビジネス・ポテンシャリティを持つ合意となったのだそうです。


ところで、イタリア政府に「中国は危険」と口やかましく勧告し続けていたフランスですが、このあと中国主席がパリを訪れ、エアバス300機の受注が合意に至ったのちはとても静かになり、「どういうこと? イタリアがオレンジでフランスがエアバス?」というざわめきも広がった。ちなみにイタリアも、フランスも、ドイツも、中国も、今後の欧州連合と中国の通商合意は、あくまでもWin Winとなることを強調しています。いずれにしても、G7であるイタリアが覚書に調印したということは、イタリアが単独で決定したわけでなく(それ以前に各国間にいくらかの葛藤があったとしても)、巨大な経済共同体である欧州連合もまた、中国の『一帯一路』プロジェクトを了承している、と考えるのが妥当です。



イタリアは本当にトロイの木馬なのか。今のところは、その表現に疑問を感じます。


 

▶︎ヴァチカンと中国、そして大きな議論となっている『ピロン法案』


一方、『同盟』のマテオ・サルヴィーニ副首相は、今回の中国主席イタリア訪問の、調印にも、晩餐会にも参加せず、「中国が自由市場だなんて言わないでくれ」と距離を置きました。


サルヴィーニは、その後も中国との合意を牽引した『5つ星運動』を批判、攻撃していましたが、中国との合意に絶対的に反対なのであれば、断然優位な立ち位置から「連帯契約政権を解消する」、ぐらいに騒ぐはずであり、絶対反対にしては、どこか控え目で芝居がかった、いつものサルヴィーニ劇場という印象でもありました。それに今回の調印で、八面六臂の活躍をした産業発展省次官ミケーレ・ジェラーチが、かねてからサルヴィーニと深い親交がある、『同盟』寄りのエコノミストであることは覚えておきたいと思います。


加えて、今までは緩やかな歩みだったイタリアと中国が、今回急速に接近した理由のひとつとして、去年実現した、ヴァチカンと中国の国交回復も関係があるのかもしれません。


マルコ・ポーロの冒険をはじめ、イエズス会宣教師マテオ・リッチなど、そもそもカトリック教会と中国の交流には長い歴史があり、リッチと同じくイエズス会出身のミッショナーでもあるフランチェスコ教皇は、中国訪問を熱望していると言われています。カトリックにおける最高権威である教皇が、中国政府の介入を許し、教会と共同で選んだ司教を認めると譲歩、融和的な態度を鮮明にし、台湾や香港、中国本土の「隠れキリシタン」をはじめ強い批判も巻き起こりましたが、カトリック信者の世界総数とほぼ同じ人口を持つ中国との国交は、教皇が政治的剛腕を見せた大きな決断でもありました。


個人的には全体主義や管理社会はまっぴらだと考えているため、中国の強権的な恫喝志向と少数民族の人々の権利の蹂躙に関して、世界が目を瞑らずにどしどし発言できるような開放的な交流ができれば、こんなに嬉しいことはない。そういえば、かつて『5つ星運動』は、中国の少数民族弾圧を強く批難していたはずですが、今回その声は、『5つ星』内からは一言も聞かれませんでした。また、左派の論客である哲学者が「地中海では、何万という難民の人々が溺れ死んでいるというのに、全国の港を閉じたイタリアが『人権』を語る資格はない。もはやイデオロギー的には、中国となんの違いもない国になってるからね」と極めてシニカルな発言をしたことも強く印象に残っています。


国連からも警告を受ける、降って湧いたように現れた『ピロン法案』


そういうわけで、まずは中国とイタリアの関係を追いましたが、とりあえずここでは便宜上、『同盟』+バノン系欧州右派+トランプ大統領の米国 VS.『中国』としておきましょう。そしてここからは、当初の予定から驚くほど遠い場所まで連れて行かれた、懸念の『ピロン法案』について、追ってみたいと思います。


『同盟』と『5つ星運動』の連帯政府が樹立するやいなや、どこか呑気にイタリア社会に繰り広げられていたジェンダー議論に、強烈な緊張を走らせたのが「LGBTの結婚はわが国では絶対に認めない。家族というのは、男女で構成されたものだけだ」とアルカイックに言い放った、『同盟』の家族省大臣、ロレンツォ・フォンターナ、さらにはヴェローナ市議会が唐突に議決した『中絶法』廃止(法的効力はありません)、今後国会の審議が予定されている離婚を巡る『ピロン法案』でした。これまでのイタリアの社会では、女性たちの権利が充分に認知されているとは言えずとも、このような極端に現代を逸脱するような、ホモフォビアでセクシズムな価値観が法律化されそうになることはなかった。


そして『ピロン法案』の全貌が明らかになった途端、憲法学者、弁護士、心理学者、政治家たち、家族と未成年の問題に関わる機関、そしてもちろんフェミニスト・ムーブメントが猛烈に反発したわけです。この法案は『同盟』のシモーネ・ピロン上院議員を核とする議員グループ、Vita famiglia e libertà (家族生活と自由)がデザインし推進するもので、国連からも「女性と子供の権利を侵害する」として、懸念の手紙が送られてくる事態となっています。


ところで、この『ピロン法案』がデザインされた背景は、というと、現在の離婚法では「親権を失った男性側が子供を失う精神的負担、さらに経済的な負担が大きい」とピロン一派は捉えており、両親が離婚した未成年の子供に「両親の揃った子供の権利(bi-genitorialità)」を保証するとともに、父親、母親の精神的、経済的負担を平等にする、とまことしやかな男女平等を主張。しかし統計的に見ても、離婚を巡る経済的な負担は、総じて女性の方がはるかに大きく、生活が圧迫されることが明らかになっています。つまり、『ピロン法案』はリアリティからかけ離れ、離婚を巡り女性がさらなる経済的負担を負うようにデザインされている。


近年、結婚するカップルが減少し、逆に離婚が増大傾向にある現在のイタリアでは(一方、le unioni civiliー同居して、生活をともにするが結婚という形式を取らないカップルが激増)、母親だけに未成年の子供を委ねるケースは8.9%に過ぎず、両親ともに交代で子供の育成に関わるケースが89%と、わざわざ両親の男女平等を謳う『ピロン法案』をデザインするまでもない状況でもある。また、南米を含む西側諸国では現在、Feminicidio(女性殺人)が大きな社会問題になっていますが、イタリアも例にもれず、およそ2日に1人の女性が、夫あるいはパートナーによって殺害されているという統計が出ています(女性が巻き込まれた殺人事件の犯人が夫、パートナーであるケースが82%)。つまり男女関係においては、女性が男性から暴力を受けるリスクが、予想以上に高いということです。



Non Una di Meno (『たった一人も犠牲を許さない』は、イタリア全国にネットワークを持つ、最もエネルギッシュなトランスフェミニストグループ)の11月のデモの際も、『ピロン法案』が盛んに議論されました。


では、この状況下で『ピロン法案』が具体的に謳っている内容と、危惧されるのはいったいどのようなことかを、各メディアを参考に、概要を追ってみたいと思います。


 

▶︎離婚・別居に際して、必ず調停機関のコンサルテーションを受けなければならない 


現在も裁判所に提出するための書類を作る、離婚のための調停機関は存在しますが、1回行けば、比較的容易に書類を受け取ることができるようになっています。しかし『ピロン法案』のデザインによると、調停機関への訪問は義務とされ、1回目は無料ですが、それ以降は有料となり、最大6ヶ月、離婚を巡り、未成年の子供に関する詳細を含め、コンサルを受けなければなりません。コンサル料が1回100ユーロとして、10回訪問すれば1000ユーロとなりますから、これでは離婚・別居の準備段階での経済的、時間的負担が大きすぎる、と強く批判されています。特に男性よりも統計的にも収入が低い女性にとっては大きな負担となる可能性があります。


また、離婚で大きなストレス状態にあるカップルが、何回も有料の調停機関に通わなければならない、このシステムに乗る形で、一種の離婚ビジネスが成立することも考えられる。さらに12歳以上の未成年であれば、カップルとともにそのコンサルに参加しなければならず、そもそも離婚過程のカップルは戦争状態にあるわけですから、その調停に子供を巻き込むことは、彼らにさらなる心理的ストレスを与え、トラウマになるのでは?と案じられてもいます。調停の間は別居もできないため、戦争状態のまま最大6ヶ月は両親もともに同居しなければならず、要するに『ピロン法案』は、「そう簡単には離婚も別居もさせないぞ」という、状況を作ろうとしていると考えられます。


 

▶︎子供と過ごす時間は、両親ともに平等とする 


これは日中に子供と過ごすだけでなく、夜眠っている時間も含まれ、子供が両親と過ごす時間は、父親、母親ともに同じ時間数となることを義務づけ、子供達は最低でも、父親、母親いずれとも1ヶ月に12日間(昼夜)は過ごさなければなりません。しかしDVが原因で離婚となるケースもあるわけですから、たとえパートナーや子供に暴力的な父親(母親)であったとしても、母親(父親)は無条件で子供を父親の元で過ごさせなければならないということにもなりかねません。


 

▶︎両親を持つ、子供の住居の権利 


未成年の子供は、父親、母親、いずれかの親が住む、ふたつの住居(いずれも家を所有していなければなりません)から、通い慣れた学校、病院、あるいはスポーツクラブなどに行かなくてはならず、したがって父親、母親は子供が未成年の間は、自動的に近くに住まざるをえなくなります。子供が未成年の間、離婚しなければならないほどに関係修復が困難になったカップルが近くに住むことは、心理的ストレス及びトラブルの原因になる可能性があります。


 

▶︎子供の養育費に関して、両親が平等に負担しなければならない 


基本的に離婚することで、父親、母親ともに、経済的な困窮に陥るケースが多いことは統計でも明らかですが、現状では、特に女性に経済的な負担が大きくなることことが問題になっています。一般的にイタリアの女性のサラリーは、男性より低い傾向にあり、さらに出産を挟んで失職した、あるいはパートタイムで働く女性にとっては、重い負担となる。また、子供と過ごす時間、経済的な負担を両親ともに平等にする、というこの考えは、未成年の子供には選択の意志が認められず、まるで家族の『財産』、『物』のように捉えているのでは? と強く非難されています。


 

▶︎子供がいずれかの両親の親権を認めない場合


どちらかの親が、未成年の子供を母親、あるいは父親のいずれかに会わせることを拒絶した場合、あるいは子供がいずれかの親に会うことを拒絶した場合は、司法が介入します。この項のデザインは、80年代にアメリカ人の心理学者リチャード・ガードナーが提唱した「激しい葛藤の末に離婚したカップルの子供が、いずれかの両親を拒絶するのは、片方の親が強く影響した精神疾患」という説に基づいているそうです。


しかしガードナーの学説は、米国アカデミア界から確固たる証明となる症例がない、という理由で却下されており、事実、子供が片方の親に会いたくない、という理由として、その親の暴力的な態度によるトラウマであることが裁判所でも多く証言されている。『ピロン法案』では、たとえば子供が父親(あるいは母親)を拒絶した場合、母親(あるいは父親)を「子供に暴力的に影響した」として法的に処罰され、子供を親元から離し、特別な施設で教育する、としています。


このように、概要だけでもかなり現実離れした『ピロン法案』ですが、なんといっても『女性殺人』が大きな社会問題となり、DVが離婚の原因となるケースも多くあるイタリアで、女性や子供への暴力、虐待を助長する可能性がある法律が審議されること自体が非常識です。


今のところ『5つ星運動』はLGBTの人々の権利を認め、『中絶禁止法』にしても『ピロン法案』にしても、「女性がいったん獲得した権利を反故にする、まるで中世を彷彿とするような法案は認めない」と宣言しており、その約束が滞りなく履行されることを願うほかありません。


「女性がキャリア志向となり、出産や家庭よりも仕事を選ぶ現代は、家族の堕落」と主張し、伝統的な父権社会を取り戻し、何より女性を家庭に押し込め、ひたすら出産させようとする(極右グループまで、女性に出産を促すキャンペーンをはじめました)、そして女性が男性に抗議すれば罰を下し、LBGTの人々の存在、そしてその権利を認めない。


このように、まるで『魔女狩り』のごとく、アンチ離婚、アンチゲイ、中絶反対を叫ぶ『同盟』のカトリック原理主義者たち、そして彼らと強い絆を持つ極右グループが、しかしいったい何を根拠にそんなことを言いはじめたのか、なぜ今になって突然、ぞろぞろと湧き出してきたのか。


彼らの主張する諸々が、極端に現実離れしていることを常々不思議に思っていましたが、ここにきて、『同盟』メンバー、ウルトラカトリック、極右グループ関係者たちがこぞって出席する、ヴェローナで開催される第13回『世界家族会議』の真相が続々と明らかになるにつれ、「えええ!そんなに大きな国際レベルの話だったの!」と仰天したわけです。ちなみにヴァチカンは、『世界家族会議』からはかなりの距離をとっており、教皇も「本質的には、(カトリックの教義として)間違っていないが、メソッドに問題がある。宗教は政治に距離をとるべき」という主旨の発言をし、逆にウルトラカトリックたちは、現在の教皇と反目していると言われています。


宗教原理主義者たち(と国際政治)の祭典『世界家族会議』


わたしが『世界家族会議』の名前をはじめて知ったのは、『同盟』と複数のウルトラカトリックのグループに、「ロシアからルーブルの雨が降り注いでいる」という、レスプレッソ誌のスクープでした。もちろん、どうしても原理主義を主張したい、というのであれば、それは個人やグループの自由であり、尊重されるべきですが、政治家たちがその動きに加担し、政治目的で多額のお金が動いているとなると、話は別です。そこで、レスプレッソ紙の記事を読んだあと、毎年世界のどこかで開催されている『世界家族会議』という集会は、実は一種の政治・経済ロビーのような役割も果たしているのかもしれないな、とは考えていた。


中国主席がイタリアを去ってからというもの、ヴェローナで『世界家族会議』が開催される日が近づくにしたがって、伝統的な男女から構成された自然(?)な形の家族しか認めないという、彼らの有り様に反対するジャーナリストや左派政治家たちが、「マスキリスト、ミソジニー、ホモフォビア、セクシズム、中世紀の集会」と形容して、『会議』を攻撃。「中世の何が問題なんだ。中世には現代よりも深い知恵があったのだ」と反論する『会議』関係者や賛同者たちと、TVの討論番組などで盛んに議論を繰り広げた。しかし双方の話がまったくかみ合わず、何か腑に落ちない、平行線のまますっきりしない議論のように感じられました。



 

▶︎だいたい『世界家族会議』とはいったい何なのか


そこでもう少し、『世界家族会議』の内容を知りたい、と考え、イタリア語や日本語ネットを逍遙していたところ、なんと、そのものズバリ。『リベラルを潰せー世界を覆う保守ネットワークの正体』(金子夏樹著/新潮新書*1 )という、日本で出版されて間もない本に出会った。Kindle版で一気に読ませていただきましたが、頭の中でモヤモヤしていた事柄が、この本のおかげで、だいぶん整理されたように思います。


*1:「リベラルを潰せ ~世界を覆う保守ネットワークの正体 (新潮新書) 」2019年1月16日『amazon.co.jp』

https://www.amazon.co.jp/dp/410610797X


『リベラルを潰せ』には、ソ連崩壊後、ロシアの社会学者アナトリー・アントノフと米国の社会学者アラン・カールソンの協力による、『世界家族会議』1997年創立の動機から、福音派などの米国宗教右派、ロシア正教を核として、米国、ロシア、欧州各国、そしてもちろんイタリアの、現在の政治における保守・右傾化の要因となった宗教思想の構造が明瞭に描かれています。


最近はイタリアの国営テレビのインタビューに登場するまでに市民権を得たスティーブ・バノン、以前から時々イタリアメディアに登場していた「プーチンのラスプーチン」と呼ばれる哲学者、地政学者のアレクサンドル・ドゥーギンの立ち位置も明らかになった。現在の日本を俯瞰するためにも、興味のある方にはぜひ、読んでいただきたい本です。


なにより『リベラルを潰せ』を読んで「なるほど!」と膝を打ったのは、ヴェローナの第13回『世界家族会議』にスピーカーとして登場した『同盟』のマテオ・サルヴィーニが、そもそもこの会議の常連だったということでしょうか。イタリアでは当初、「結婚しないまま、ふたりの女性それぞれに子供がいるマテオ・サルヴィーニは、男女による伝統的な家族しか認めない『世界家族会議』に、モラル的にはほとんど関係ないはずなのに、なぜ出席するのだろうか。きっとウルトラカトリックたちの『票』が欲しいからだろう」ぐらいの評価でしたが、過去からすでにこのロビーに繋がっていたわけです。


確かに『同盟』は、ジョージ・ソロスがNGOと共謀し、難民の人々を欧州に送り込んでいるという「陰謀説」をハンガリーのヴィクトール・オルバン同様にSNSなどで盛んに流し、アンチ・ソロスを訴えていました。しかしこの「陰謀説」に関して、インターポールもかなり綿密に長期に調査したそうですが、ソロスがNGOと共謀して、難民を欧州に送り込んでいるという証拠は今のところ何ひとつ見つかっていません。


さて、ソ連崩壊後、共産主義VS.資本主義という対立軸が消失して久しい現在、米国の福音派、宗教右派総動員でトランプ大統領を勝利に導いたストラテジスト、スティーブ・バノン、ロシア正教と強く繋がるロシアのストラジストと言われるアレクサンドル・ドゥーギン、そしてイタリアのウルトラカトリックたちが新たな対立軸として構成するのは、リベラルに対抗する新たな(古色蒼然とはしていますが)イデオロギーなのだそうです。


イタリアでは『リベラル』といえば、たとえばベルルスコーニ元首相を代表とするような自由経済主義(ネオ・リベラリズム)を表現するときには使われても、『思想』として女性たちやLGBTの人々、そして難民の人々の権利の保護を訴えるのは、共産主義における68年の労働者と学生の蜂起、77年の大規模な学生運動の流れを汲む『中道左派』『左派』『極左』という感じでしょうか。そういえば、もはや純粋な思想、あるいは政党としては、イタリアのどこにも存在しないにも関わらず、マテオ・サルヴィーニが事あるごとに共産主義者を目の仇にするのは、共産主義の崩壊以後、困窮と堕落に陥った「思想」への悔恨に基づく、プーチン大統領の反共姿勢に、おおいに共感しているからでしょう。


そこで、ほんの少しだけですが、リベラルに対抗するという『世界家族会議』の宗教の精神、基本的な方向性の片鱗を探るために、2017年、Il Foglio紙に掲載された、ロシアのラスプーチンと言われる哲学者のアレクサンドル・ドゥーギンのインタビューを意訳、抜粋してみようと思います。


モスクワ大学の教授でもあるドゥーギンは、2016年にはロシア正教キリル総主教を伴ってギリシャ正教の聖地アトス山を訪問する際、ウクライナ紛争の首謀者リストに名前が載っており、欧州当局から空港で足止めされた経緯もある。なお、ドゥーギンの著作『ポストモダン、無謀の自覚』、『地政学の基本』は、ロシアの軍事学校で教科書として使われているほど重要視されています。余談ですが、最近のTVのインタビューを観て驚いたのは、サルヴィーニを賞賛するドゥーギンが、ほぼ完璧なイタリア語を喋る、極めて知的な人物であったことでした。


「現代の西側諸国は、モダニズム、そしてポストモダニズムの罠にはまっている。リベラルな近代化プロジェクトは、社会、伝統的な精神性、家族、ヒューマニズムのすべてのしがらみから自由な個人主義というリベラリズムに向かい、やがてそれは個人をジェンダーから自由にし、そのうち自然な人間であることをもやめさせるだろう。今日の政治プロジェクトは、このリベラリズムプロジェクトであり、欧州の幹部たちは、このプロセスを止めることはできず、ただ継続していくに過ぎない:もっと移民を。もっとフェミニズムを。もっと開かれた社会を。開かれたジェンダーを。この路線を欧州のエリートたちが議論することも、コースを変えることもできず、時間が経てば経つほど、人々は反目するようになる。欧州には(開かれた社会)への反対者が増え、エリートたちは、彼らを悪魔呼ばわりしながら押さえつけようとする。欧州のエリートたちが目指すのは、リベラリズム・イデオロギーだ


「モスクワでは、ドナルド・トランプの勝利が『米国のトランプは、状況を少し変えながら、権力を握り、欧州は孤立した」と婉曲的な表現で、好意的に受け止められた。われわれの大統領プーチンはポストモダンなイデオロギーを共有しないために、ロシアは欧州にとって、NO1の敵でもある。われわれはイデオロギー戦争の真っ最中だが、今回は、共産主義対資本主義ではなく、政治的に正当な(と思っている)リベラルなエリートたち、グローバリズム貴族階級と、例えばロシアやトランプのようにリベラルな思想を分かち合わないものたちの闘いなのだ」


「リベラルのエリートたちは、欧州が移民の受け入れとジェンダーの解放で、アイデンティティを失うことを望んでいる。したがってヨーロッパは権力を失い、それを自ら認めることになり、内面の自然を認めることになるだろう。欧州は知的、文化レベルでひどく脆弱だ。わたしはこんな欧州を認めるわけにはいかない。(欧州の)思考は、可能な限りの低レベルにある。欧州はロゴスの、知性の、思想の祖国であるにも関わらず、現在は、そのカリカチュアでしかなく、スピチュアルにも、心理的にも脆弱で、それを治療するのは不可能だ。なぜならエリートたちによる政治がそれを許さないからだ。欧州はさらに矛盾し、愚かになっていく。ロシアはリベラルのエリートたちから破壊されようとしている欧州を救わなければならない


「ロシアはロシア正教という、それ自身の文明を持っており、欧州とロシアの間には似た側面がある。しかし共産主義が崩壊し、ロシアが欧州に近づこうとしたとき、われわれは欧州はすでにそれ自身ではないことを理解した。欧州はリベラルのパロディであり、デカダンスに陥ったポストモダンであり、トータルな腐敗へと向かおうとしていた。こんな西洋は目指すモデルにはならないから、われわれはロシアのアイデンティティに霊感を受け、カトリックと正教、ポストモダンと正教の間に違いを見出したのだ。われわれはローマ、ギリシャ、ビザンチンの伝統を継承し、欧州が失ってしまった、古いキリスト教のスピリットに忠誠を誓う。ロシアは現在の欧州を、より欧州的に再構築するために重要なポイントになるだろう」



リベラルなエリートを敵とみなす、反啓蒙主義のトランプ大統領やサルヴィーニ副大臣と重なる発言ですが、Il Folgio紙は、このロシアのストラテジストが、リベラルと闘うことを主張する背景にはユーラシア主義があり、現在はロシア人ではない人々の土地となっているバルト海から黒海までの旧ソ連領を再構築することだと分析しています。モスクワの野心は、欧州がそれを認め、保護する方向へと持ち込むことでもある。


つまり、ロシアと同じイデオロギーを持つ、伝統主義、政教一致、保守主義を核とする、強いリーダーによる専制傾向を持つ欧州諸国(たとえばオルバンのハンガリー)、そして政党(『同盟』や『国民戦線』)、宗教原理主義者(ウルトラカトリック)たちが欧州議会の中核へと踊り出ることができれば、その目的を果たす可能性があるということです。ドゥーギンの語る内容は、もちろん互いに尊敬し合うスティーブ・バノンに通じ、『同盟』『国民戦線』などの欧州右派政党に共有され、そういえば、どこまで信憑性があるか、は別として、「5月の欧州議会選挙では大地震が起こる」と、バノンは度々発言しています。


事実、5月の欧州議会選挙では『同盟』の著しい躍進が予想され、ある意味政治が混乱、長期の経済不振に喘ぐイタリアが、ロシア+米国右派勢の、欧州連合に食い込む突破口と見なされていることは確かです。そして『同盟』を抱く『右派連合』は、政権樹立以後行われた、北イタリアから南イタリアまで、すべての地方選で大勝している。


いずれにしても、巷間で囁かれるような軍事目的だけではなく、未来を握るAI戦略勝利のため、5Gで世界のビッグデータを収集しようとしている、と言われ、着々と『一帯一路』の完成を目指す中国主席がイタリアを訪れた1週間後のヴェローナで、伝統主義を核とする『世界家族会議』が開かれるのは、両者ともに専制的な性格があるとはいえ、未来、過去と真逆の方向を向く世界の分裂を物語る興味深い現象です。


もちろん中国は、ロシア、米国、欧州の新しいイデオロギー闘争の外にあり、まったく次元を異にしている。ロシアはといえば、欧州の分断を狙いながら、中国と強く連帯しているわけではなく、米国右派は、明らかに中国を敵視。ひょっとすると、ここにきて急速にイタリアの港、トリエステ、ジェノバを確保する合意を結んだ中国は、5月の欧州議会選挙での混乱を見越して、予防線を張ったのかもしれません。


 

▶︎大規模な抗議集会が繰り広げられたヴェローナの『世界家族会議』


ヴェローナの第13回『世界家族会議』


そういうわけで、ロミオとジュリエットの悲恋の舞台として有名なヴェローナで、『世界家族会議』が遂に開催され、会期中のヴェローナ市街に、労働組合、アムネスティ・インターナショナル、ANPI、ARCI、そしてNon Una di Menoなどのトランスフェミニストグループ、政治家が集結。主催者発表10万人15万人説も!)を集める大規模な抗議集会を開きました。その大集会に対抗して、主催者側、及び極右グループもデモを開く事態(1万人が集まっています)となり、毎年穏やかに開催されるらしい『世界家族会議』を巡り、このような賑やかな騒乱になったことは、今までに例がないのではないか。世界から『会議』に訪れた、シンプルに真摯な宗教者たち、伝統家族主義者たちは、イタリアのパワフルな抗議行動に驚いたのではないか、と思います。




「Verona, corteo per i diritti civili: condom e slogan contro gli ultrà della famiglia tradizionale」『YouTube』

https://www.youtube.com/watch?v=O3Oc4hzB7m4


※ラ・レプッブリカ紙がライブ配信した、3時間の長丁場のビデオ。ヴェローナでもローマでもイタリア全国で相変わらずパワフルなフェミ・デモ参加者はオールジェンダーで年齢問わず、主催者発表10万人(15万人?)が集まっての大抗議集会でした。ヴェローナ駅では「愛が家族を作るんだ」という粋なアナウンスもされたのだそうです。米国のヒューマンライト・キャンペーンは「米国で最も影響力のある、LGBTを排斥、憎悪を輸出するオーガニゼーション」と『世界家族会議』を定義しています。


 

さて、これまでのイタリアでは『同盟』と『世界家族会議』、そしてロシアの関係が公に語られることもなかったのですが、オフショアを通じて『同盟』や各宗教右派団体にループルが降り注いでいるらしい事実、そしてその詳細や証拠をレスプレッソ紙が報じて以来、イタリアとロシアの関係も、スティーブ・バノンとの関係も、もはや公然の事実としてオープンに語られるようになっています。また、『会議』前の3月24日号のレスプレッソ紙の特集は、『リベラルを潰せ』のテーゼを裏づけながら、イタリアの参加者を中心に、中核となる人物、国家間の相関関係と『会議』を構成する世界各国の宗教右派団体に流れるルーブルの動きを再追跡したものでした。


レスプレッソ紙によると、『世界家族会議』がアレクセイ・コモフなど、いわゆるロシアの億万長者ビジネスマンが参加する経済・政治ロビーに変遷したのは、プーチン大統領が、ロシア正教を核にした保守反動へと舵を切った2013年の翌年、2014年からだそうで、今回のヴェローナ大会には、イタリア政府から『同盟』の大臣、サルヴィーニ、フォンターナ、ブッセッティと、3人もスピーカーとして出席している。当初はイタリア政府が『協賛』するという話も持ち上がっていましたが、さすがに「非常識!」という批判の高まりを受け、直前に取り下げられました。


ちなみにウルトラカトリック団体『プロライフ』や、現在ミラノ検察がお金の出入りを巡って捜査中の『ノヴァエ・テラエ(前述の『ピロン法案』のデザインの核であるシモーネ・ピロンはこの団体の元幹部。レスプレッソ紙の報道を受けて、即刻脱退)』、そのほか諸々の原理主義団体と、先ごろファシズム生誕100周年を祝った極右グループ『フォルツァ・ヌオヴァ』や、ローマの『カーサ・パウンド』など(最近続々と、サルヴィーニのシンパである若い世代による新しい極右グループがイタリア各地に出現)が緊密な絆を持っていることは、周知の事実です。


また、レスプレッソ紙によると、ロシアとアゼルバイジャンのオフショア口座から、英国、デンマークをはじめ、ドイツ、英国に、アノニマス・ポイントを経由して、巨額の寄付(2012-2014年の間に35億ユーロ)が送金されているそうですが、受け取り口座のほとんどが未知の名義となっている。この期間、239万ユーロが『ノヴァエ・テラエ』の幹部であるミラノの政治家の口座にも振込みが確認され、現在、収賄で裁判となっています。


今回のヴェローナ大会には、ローマでもショッキングな中絶反対のポスターでキャンペーンを繰り広げたスペインの『シチズン・ゴー』、『世界家族会議』の創立者のひとりであるアラン・カールソンが設立した、『宗教と社会のためのハワード・センター』のブライアン・ブラウン、メキシコの金満家から巨万の寄付があるウルトラカトリックの『インクイェンド・メキシコ』など、世界70カ国のネットワークから多くの団体が参加。カールソンもメインスピーカーとして登壇しました。会期中、「みんな、あと、しばらくの我慢だ。1週間もすれば、きっと忘れてしまえる」という記事が新聞を飾るほど、イタリア中に騒然とした空気が流れました。したがってプロパガンダとしては大成功を収め、市民の分断は、さらに大きく広がった、ということです。


そういうわけで、3月下旬は、中国、米国(右派)、ロシアがイタリアを舞台に入り乱れ、各国の力関係が混乱。相変わらず一筋縄では未来が予測できない状況です。


ただひとつ思うのは、リベラル文化に愛想を尽かして、伝統主義だの保守主義、保護主義だのがイタリアの政治にまで台頭してきたにも関わらず、世界経済、つまり市場、金融市場は相変わらずモラルなく、国境なきグローバリズムが蔓延し、オフショアに富が集まり、「精神論、イデオロギーはどうでもいい」と言わんばかりにアナーキーでリベラルな資本主義を謳歌しているわけですから、そんな状況で、女性が選ぶ権利だの、LGBTの人々の権利だのが剥奪されそうになるなんて、たまったもんじゃありません。


さらにイタリアでは、『同盟』が推進していた「強盗など、不法に自宅の敷地内に侵入した者を射殺(!)しても罪にはならない」という、背後に武器産業が控えていそうな正当防衛法が可決したところです。


 

執筆: この記事は平島 幹さんのブログ『Passione』からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2019年4月12日時点のものです。


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