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米中貿易戦争は米中経済戦争の緒戦 – 覇権国家交代への最後の試練(世に倦む日日)



今回はブログ『世に倦む日日』からご寄稿いただきました。


米中貿易戦争は米中経済戦争の緒戦 –覇権国家交代への最後の試練(世に倦む日日)



トランプが始めた米中貿易戦争について、私はずっと楽観的な見通しで報道を眺めていた。この政策の動機は、11月の中間選挙の情勢を有利にする一点にあり、2年前の大統領選挙時と同じように中国の不公正を訴えて派手な中国叩きを演じ、没落白人層の共感を掴んで集票することが目的だろうと踏んでいた。したがって、中間選挙が終われば収拾へと向かい、来年になれば米中首脳会談を経て元の関税率に戻るだろうと予想していた。だが、現在の状況を見ると、通商をめぐる米中関係の悪化が早期に収束する気配はなく、さらに対立が深刻にエスカレートしていて、とても年内に問題解決されるとは思えなくなった。トランプが中国からの輸入品の一部に高関税をかけ、今回のチキンレースを始めたとき、日米のマスコミはトランプに批判的な声を揃え、自分の足を拳銃で撃つ愚かな行為だと批判を並べていた。肯定的な見方は全くなく、米国の農業関係者や中国で事業している大企業や投資家や、物価が上昇して困る消費者から不満が上がり、すぐに政策を撤回するだろうと予測する報道が多かった。だが、半年経って様相はずいぶん違っている。チキンレースという言葉で問題が表象化されなくなった。



マスコミや世論からの批判が、当初予想したよりも減少し、逆に支持する声の方が多くなっている現実に気づく。トランプの思慮分別の無さに対する悪評ではなく、「暴支膺懲」の論理と感情からこの政策を語る論調が支配的になってきた。以前は、中国の対応の方に道理があり理性的だというマスコミの視線だったのが、現在はそれが変わり、中国は叩き潰されてしまえばいいという、トランプ側に与した言論の態度になっている。この貿易戦争が与える中国経済への悪影響を歓迎し、中国経済が打撃を受けることを待望する、反中感情剥き出しの解説が増えてきている。日本経済への余波の不安を語る場合でも、春の時点ではトランプの愚策を問題視していたのに、現在ではトランプに降服しない中国が悪いのだという認識になり、中国を悪者にした構図でこの問題を論じている。問題の捉え方・扱い方が変わった。半年前は、米中貿易戦争に憂慮の表情を見せ、とばっちりは迷惑だと言っていたのが、現在は戦争の一方の側に味方し、トランプ頑張れ・中国倒せとエールを送っている。日本のマスコミはこの立場にシフトしたが、おそらく米国でも同じなのだろう。トランプへの反感より中国への憎悪と不信の方が強いのだ。



おそらく、米国の中で中国脅威論が台頭し、米国の敵としての位置づけがくっきりし、そうした言説と観念の浸透が、トランプの異常で乱暴な対中関税政策を受け入れる思想環境を作っているのに違いない。民主党も同じなのだろう。悲観論に変わった私の見るところ、どうやらこの貿易戦争は貿易戦争で終わることなく、貿易戦争という範疇と水準を超えて、米中の経済戦争に発展するものと思われる。戦いは貿易戦争ではなく経済戦争だ。そしてトランプの狙いは、単に貿易戦争で中国を叩いて米国の力を誇示し米国民の溜飲を下げさせようとか、その勝利感と達成感を中間選挙の票に繋げようとか、そういう些末な思惑ではなく、米国の敵である中国経済を混乱させ弱体化させる点にこそ照準がある。長期的で本気度の高い国家戦略を仕掛けている。国家戦略としての対中経済戦争の一環としての、その緒戦の先制攻撃としての関税措置である。そのように看て取るのが正解なのではないか。嘗て、ロックフェラーセンタービルとコロンビアピクチャーズを買収し、米国の国家的脅威となった日本経済を潰すべく、プラザ合意の為替戦略で奇襲をかけ、日米構造協議の攻勢と調略で陣地を奪い、首尾よく日本経済の制圧と支配に成功した過去体験に倣って。



ゴールドマンサックスが2015年に発表したフォーキャスト*1 によれば、2030年の世界GDPランキングで、中国は27兆ドルまで拡大し、米国の22兆ドルを凌いで世界第一位になっている。27兆ドルという規模は、現在*2(2017年)の米国経済の1.4倍のサイズだ。CNNが何かの調査を紹介した数字では、2020年の時点で米国23兆ドル、中国21兆ドルと接近し、2023年の時点で両者はクロス、2024年の時点で中国が米国を抜き去るという予測になっている。この予測が最も過激だが、現状、ゴールドマンサックスの予測が常識的な線と言え、今から10年後にキャッチアップ&オーバーテイクという想定が妥当なところだろう。昨年7月、ラガルドが「10年後はIMF本部が北京に移るかもしれない」と発言*3 して注目を集めた。10年後は遠くない将来であり、一年一年とGDPの差は縮まって行く。現実に中国がGDP世界一になったら、今の金融市場は大きく変化と転換を遂げざるを得ず、最も重要な点は基軸通貨がドルから人民元に切り替わることである。世界の株式市場の中心がNY(NYSE)から上海(SSE)に移る。ちなみに、2017年の統計では、NYSEは上海の5倍の規模であり、NASDAQは深圳の2.3倍の規模である。


*1:「2030年と2050年の世界GDPランキングと人口推移予測と日本の話」2016年9月1日『キャリアと転職・年収』

https://mohipeasuke.com/archives/659


*2:「世界の名目GDP(USドル)ランキング」2018年10月17日『世界経済のネタ帳』

http://ecodb.net/ranking/imf_ngdpd.html


*3:「IMF本部、今後10年で北京に所在地変更も=ラガルド専務理事」2017年7月25日『REUTERS』

https://jp.reuters.com/article/imf-china-lagarde-idJPKBN1A9293



ラガルドが指摘した劇的な図があり、そして、(1)国際取引の決済における標準通貨の地位に人民元が収まり、(2)各国通貨の価値基準(尺度)を示す基準通貨の地位に人民元が即く。マルクスが資本論で説明するところの「貨幣形態」となる。ドルから人民元に代わる。中国人民銀行が発行する人民元紙幣が、FRBが発行するドル紙幣の地位に置き換わる。今のドルが持つ金融経済の権威と権力を人民元が奪い取る。毎日のテレビのニュースの最後に報じられるところの、「株と為替の動きです」の為替情報が、1ドル何円ではなく、1人民元何円という表示になる。経済社会が変わる。これは大変なことで、想像を絶する革命的な事態だ。ここまで読んで、右翼は口から泡を吹き出すのではないか。簡単に言えば、今、FRBは紙を輪転機で刷るだけで価値を創造できる。価値をジェネレートしデリバーできる。その魔法の力を、今後は中国の中央銀行である中国人民銀行が専有するようになり、FRBはその力を喪失してしまうのだ。FRBが印刷したドルはただの一国の通貨でしかなくなり、日本銀行の円と同じもの(金融商品)でしかなくなる。ドルと人民元が地位をスイッチする。無論、そこまでの移行には時間がかかるだろうし、IMF本部の移転と同期かどうかは分からないが。



その将来図を想像することは、多くの米国人にとっては悪夢だろうし、人生の否定に繋がるだろうし、奈落の底に転落する破滅を意味するだろう。しかし、現実にその瞬間は迫りつつある。今年になって、「中国製造2025」というキーワードが焦点となった。「世界の工場」である中国が、さらにITやロボット、AI、バイオなどの先端分野に産業転換を図り、テクノロジーで世界の指導的地位に立ち、各分野で世界のリーディングカンパニーを輩出するという国家目標である。この野心的な挑戦が達成された暁には、現在の世界の支配者である米国企業、マイクロソフト、インテル、アップル、グーグル、などは、台頭する中国新興企業の後塵を拝し、世界の市場と業界を主導する地位から脱落してしまうことになる。開発する新製品の標準仕様を決められなくなり、中国企業に競争で勝てなくなる。日本のNECやソニーや東芝やサンヨーと同じ惨めな敗北者になってしまう。米国社会の富を稼ぎ出している源泉が、その実力と活力を失って落ちぶれ、中国から供給される商品を借金で消費するだけの二流国に成り下がってしまう。穀物と牛肉とLNGと防衛装備品を売るだけの、ロシア型の資源輸出国になる。当然、外国から人材も集まらなくなり、大学の留学生も減り、学術文化面での国際的地位も低下する。



トランプならずとも、この国家的危機に何とか手を打ち、中国経済の脅威から米国の産業と経済を救出しようと焦るのは当然の心理だろう。トランプに内在して考えれば、今ならまだ間に合うのだ。プラザ合意も日米構造協議も滅茶苦茶なものだった。理不尽きわまるもので、公平公正な競争や協議の過程を通じて決まって行ったものではない。力を背景にした強引な押しつけがあり、不平等な日米関係の前提があり、対米従属を牽引する日本支配層の策動があり、それを大衆に納得させる洗脳工作が効を奏した結果だった。その実績と成功体験を持つ米国が、中国に対しても柳の下の二匹目の泥鰌を狙うのは自然の判断だろう。ただ、言うまでもなく、日本と中国は条件が根本的に異なる。中国には対米盲従を志向する契機はなく、安全保障上の従属関係もない。中国の立場からすれば、今回のトランプの挑戦と攻撃が、GDP世界一に到達する前の最終的試練であり、基軸通貨国となる前の最後の難関ということになるだろう。「中国製造2025」を、プライムニュースに出演する反中右翼論者は鼻で笑って貶めるか、警戒を軽く念押しするプロパガンダの業務で終わりだが、中国は本気なのである。マイクロソフト、インテル、アップル、グーグルを撃ち落とす構想と路線なのだ。


経済は数字の世界である。また、経済は競争の世界である。ゴールドマンサックスが予測したところの、現在の2.4倍に拡大している2030年の中国経済の中身を埋めたならば、すなわち、マイクロソフト、インテル、アップル、グーグルを蹴落として世界のエクセレントカンパニーになっている中国企業が(数社)存在していなくてはいけないのであり、そうした「中国製造2025」の企業群の売上があって、初めてGDP27兆円の経済サイズは実現しているのである。われわれは「大国の興亡」の歴史ドラマを生で見ている。



執筆: この記事はブログ『世に倦む日日』からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2018年10月23日時点のものです。


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