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ビジネスの問題解決に“禅語”が良い理由 上場企業社長から禅僧に転身した島津先生に教えてもらった!



スティーブ・ジョブズイチローに代表されるように、「禅」の影響を強く受けた実業家や一流スポーツ選手は多いですよね。スターツピタットハウスという大企業の社長職を自ら退き、独立、そして出家得度して仏門に入った島津清彦さんもそのお一人。著書『翌日の仕事に差がつく おやすみ前の5分禅』(天夢人刊)では、ビジネスパーソンの仕事の悩みやビジネスの課題を70の禅の言葉(禅語)を用いて解決する島津さんにお話を伺いました。



———大企業の社長というキャリアを捨てる決断は簡単ではないと思いますが、きっかけは何だったのでしょうか?

 

2011年の東日本大震災で自宅が被災し、大規模半壊となったんです。家が傾き、家族が自分を必要とする大変な状況にも関わらず、会社で膨大な量の仕事をこなすということが半年以上続く状態で、自分の生き方にアンバランスを感じました。会社の社長としての役割は果たせていても、家の家長としてはどうなのだろうと。地域の方とともに復旧に取り組んでいくべき時に、仕事を言い訳に参加できなかったり。

 

———思い切って退職を決断した、と。その時すでに「禅」に興味があったのですか?

 

いえ、まだ「禅」と出会う前でした。会社を退職後は、より家族と自由な時間を持ち、地域のコミュニティにも参加できるように、自分で時間を管理できる「独立」の道を選びました。スターツグループでは人事部長として6,000人の採用面接や研修などを行っていたこともありましたので、人材育成、リーダーシップ開発、組織開発など「人と組織に関するコンサルトタント」として独立したんです。そしたら周囲の人から、私の仕事の辞めっぷりや、経営哲学、人に対する哲学に「禅の精神を見た」「島津さんは禅をやってるの?」と言われ始めたんです。



———禅への気付きは、周囲の言葉からだったのですか?


そうなんです(笑)。スティーブ・ジョブズ稲盛和夫さん、禅マスターと呼ばれるNBAの名将フィル・ジャクソン、V9を達成した川上哲治監督らが禅を取り入れていたことは知っていましたが、まだ特に強い興味はなかったんです。ある時に「坐禅を組んでみよう」と誘われ気軽な気持ちで参加してみたら……居眠りしちゃって、向いていないと思いました(笑)。



でも禅に関する書籍をいろいろ読んでみたら、すべてが本質的で面白かったんです。特に「禅語」は、なぜこれを学校で教えてくれなかったのかと思うほどにとても魅力的でしたね。『翌日の仕事に差がつく おやすみ前の5分禅』では70個の禅語を紹介していますが、壁にぶつかった時、脳裏に「ポン」と浮かんでくる禅語に助けられることも多々ありますので、「日常生活の転ばぬ先の杖」だと思って知っておくことをおすすめします。心の拠り所になってくれますよ。けしてお寺で坐禅を組むことだけが禅ではなく、禅で得た知恵が、日常や現実世界の生き方の知恵としていかせるのがいいんですね。


———島津さんは、会社を経営するビジネスパーソンと、修行を続ける禅僧の二つのお顔をお持ちですが、両方を知る立場として、『翌日の仕事に差がつく おやすみ前の5分禅』の中から特に知ってほしい禅語は?



随所作主 立処皆真

ずいしょさくしゅ りっしょかいしん


どんな環境においても自らが主人公になれば、あなたのいるその場所はすべて真実となる、という意味です。組織にいると、「自分はなぜ異動になったのか」「なぜこんな仕事ばかりやらされるのか」と思うこともあるでしょう。納得がいかず、なかなか気持ちを切り替えることができないこともあるでしょう。しかしいつまでもグズグズしていても、一番損をするのは他ならぬ自分です。国や社会、家族だって同じです。「なんで日本に生まれたんだ」「なんでこの親に生まれたんだ」と不満を言ってても仕方のないこと。だったらあなたはその環境の中で主人公になって、輝いちゃってくださいという意味の禅語なんです。「随所作主 立処皆真」の精神があれば、必ず輝くチャンスはありますから。



———最近では、企業研修で禅を教える会社も増えていますよね。実際、島津さんは大手企業や官公庁を中心に禅を取り入れたコンサルティングや企業研修の講師をされていますが、企業側のニーズは何なのでしょうか?


大きくは3つあります。1つ目は「新任役員・管理職研修」。リーダーとしての教養や自分の考えの軸、心の整え方などを学ぶリーダーシップ研修の要素があります。2つ目は「メンタルヘルス」。最近は鬱に悩む方も増えていますよね。もしかしたら禅の教えによって、病院で薬をもらう前の段階で、自分の心の整え方、バランスをとる方法を知れるかもしれませんよね。3つ目は「チームビルディング」。これからはよりチームで仕事をしていく時代ですが、ハランスメントやオーバーコンプライアンスなどの問題で社内が疑心暗鬼になっていると困ります。「以心伝心」の禅語があるように、皆で坐禅をするとチームの関係性の質は確実に高まります。



———禅の根本的な精神は、ビジネスシーンだけではなくいろいろなところに浸透しているのですね。


歴史を紐解くと、日本では鎌倉時代に禅が拡大し、室町時代の茶道、枯山水に通じていきます。松尾芭蕉の俳句「古池や蛙飛びこむ水の音」は禅の境地なわけです。文学に広がり、芸術ではお能、そして武士道に広がっていきました。日本文化は室町文化と呼ばれているように、すべての人に通じるものがある。それを今の時代にあてはめると、ビジネス、スポーツ、リーダーシップや医療などに広がっているんですね。ビジネスでは、スティーブ・ジョブズが徹底的に無駄を削ぎ落とした極めてシンプルなiPhoneを開発しました。「禅」という字は、文字通り「単」純に「示」すと書きますので、まさにその通りですよね。スポーツでは、トップアスリートのメンタルケアに使われ、医療ではマインドフルネスの形に変わっていますが、あらゆるところに禅が浸透しています。禅語の極めて短い言葉には、珠玉の叡智が詰まっています。壁にぶつかったり悩んでいる人はぜひ禅語を読んでみてください。道は開けるんです。




『翌日の仕事に差がつく おやすみ前の5分禅』


著者:島津清彦

定価:本体917円+税

発行:天夢人/発売:山と溪谷社



PROFILE

島津清彦(しまづ きよひこ)

株式会社シマーズ代表取締役。1965年、東京都生まれ。元スターツピタットハウス代表取締役。元ソニー不動産取締役。 東日本大震災での被災を機に上場企業の社長というキャリアを捨て、2012年に独立起業。 その後、多くの世界一流のリーダーが禅にたどり着くことを知り、自らも出家得度して仏門入り。 経営者と禅僧という二つの顔を持ちながら、現在は官公庁、大手企業を中心に禅を生かしたコンサルティングや研修、講演、坐禅指導などを行う。 NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」、BSジャパン「日経プラス10」、『日経ビジネス』、『朝日新聞』、『毎日新聞』、『AERA』など、メディアにも多数出演。著書に『仕事に活きる禅の言葉』(サンマーク出版)がある。



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