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人類の進化は他の脊椎動物の進化傾向と完全に逆行していた!?


なぜ地球には人類以外に知的生命体がいないのでしょうか?

イギリスのケンブリッジ大学(Cambridge)で行われた研究により、人類が属するホモ属の進化の道筋は、脊椎動物の進化とは真逆であることが示されました。

通常の進化過程では、まず共通先祖が出現し、その後種の分化によって多様性がうまれ、一通りの適応が済むと多様性が頭打ちになり、やがて絶滅する種も出てきます。

しかしホモサピエンスの属するホモ属では、多様化が進めば進むほど新たな種の増加速度が増している逆転が起きていたことが判明しました。

このようなパターンは島に生息する昆虫など極一部にしかみられない珍しいものとなっています。

さらに研究では、この属としての多様性の獲得が末期において、ホモサピエンス以外の絶滅という事態につながった可能性を示しています。

多様化が多様化の加速という異常を促し、その異常な多様化パターンの末路がホモサピエンス以外の絶滅という、さらに異常な事態を引き起こしていたのです。

ホモ属の進化過程はなぜこのような奇妙なルートを辿ってきたのでしょうか?

研究内容の詳細は2024年4月17日に『Nature Ecology & Evolution』にて「Diversity-dependent speciation and extinction in hominins(ヒトにおける多様性に依存した種分化と絶滅)」とのタイトルで公開されています。

目次

  • 多様性が多様性を加速させる真逆のパターン
  • なぜチンパンジーは生き残っているのに高い知能を持つ原人や旧人は滅んだのか?

多様性が多様性を加速させる真逆のパターン

生命の進化は、新種の誕生と絶滅が絶え間なく繰り返される過程です。

どの種が生き残り、どの種が消え去るかは予測しにくいものですが、このプロセスは完全にランダムではありません。

特にグループのレベルでは、一定のパターンが存在しています。

この進化のパターンは、次のように進行します。「まず共通の祖先が現れ、その後、その環境に適応しながら多様化が進み、やがて進化の限界に達し、多様化が頭打ちになる」という流れです。

例えば、ダーウィンが研究したフィンチの場合、共通の祖先が島に飛来した後、ナッツを割るための大きなくちばしを持つ種や、特定の昆虫を捕食するために小さなくちばしを進化させた種が出現しました。

これらの種がそれぞれの食料源に適応すると、多様化が一段落し、新たな種が現れることが少なくなります。

環境適応が一通り完了すると、例えば大きなくちばしを持つ個体の数が種内で増加するような変化が主流となり、「新種」が出現する必要性が低くなります。

このようにして、生物多様性の限界が生じ、多様化が停止します。

そして食べられなかった木の実を食べることができるようになるなどの種内変化が起きると、それまでその食料を独占していた他の種との競争が生じます。

あるいは、食料不足により雑食だった種が新たな食料源(大きなくちばしが有利な大きな木の実など)を求めるようになることもあります。

体の変化が起きなくても、主食のシフトは起こり得ます。

最終的には、これらの変化が種間の競争を激化させ、敗れた種が絶滅に向かうことがあります。

つまり「共通先祖の出現➔多様化➔多様化の限界➔種間競争の激化➔絶滅する種の増加」となるわけです。

このような種間競争による絶滅は、環境変化によるものとは異なる性質を持っています。

研究では、この進化のパターンが特に脊椎動物に普遍的であることが示されており、逸脱は主に環境の変化によってのみ説明されます。

そこで今回、ケンブリッジ大学の研究者たちは、このパターンが人類にも当てはまるかどうかを調べて見ました。

人類種の誕生と絶滅の時期。オレンジ: 化石の保存を考慮せずに推定された、公表されている化石の種分化と絶滅の日付。水色: 化石の保存率の時間ベースの変動を組み込んだベイズの枠組みで推定された種分化と絶滅の日付。濃い青: 化石保存率の系統内変動を組み込んだベイジアン枠組みで推定された種分化と絶滅の日付。
人類種の誕生と絶滅の時期。オレンジ: 化石の保存を考慮せずに推定された、公表されている化石の種分化と絶滅の日付。水色: 化石の保存率の時間ベースの変動を組み込んだベイズの枠組みで推定された種分化と絶滅の日付。濃い青: 化石保存率の系統内変動を組み込んだベイジアン枠組みで推定された種分化と絶滅の日付。 / Credit:Laura A. van Holstein &Robert A. Foley . Diversity-dependent speciation and extinction in hominins . Nature ecology & evolution (2024)

調査ではまず、人類の種の誕生時期と絶滅時期が特定され、種の多様性の増加と絶滅のパターンが調べられました。

化石記録は常に正確とは限らないため、データモデリングを使用して最も妥当な時期を予測しました。

すると人類種全体ではおおむね他の動物と同じく「共通先祖の出現➔多様化➔多様化の限界➔種間競争の激化➔絶滅する種の増加」というパターンが存在することが判明します。

人類種の系統図
人類種の系統図 / Credit:Laura A. van Holstein &Robert A. Foley . Diversity-dependent speciation and extinction in hominins . Nature ecology & evolution (2024)

しかし、私たちホモサピエンスが含まれるホモ属では、このパターンが異なります。

ホモ属では多様化がさらなる多様化を促進する現象が見られました。

研究者たちは、ホモ属の進化パターンは、種間競争が新たな種を出現させる原動力となっており、これが他の脊椎動物とは逆の現象であると述べています。

さらに、このような異常なパターンは島に生息する昆虫や植物にも見られることが分かりました。

これは、限られた環境での異常な進化が起こることが以前から知られているためです。

研究者たちは、ホモ属で「多様性が多様性を加速させる」という現象が起きた原因として、既存の種が残っている中で人類が新天地へと進出し続けたことを挙げています。

また、このような異常なパターンを単に環境変化で説明するのは難しく、テクノロジーの導入が重要な役割を果たしていると指摘しています。

テクノロジーの使用は体を進化させることなく環境に適応できるため、新種の出現を抑制するかのように見えますが、同時に新しい環境を創出し、新種が出現しやすくなる側面もあります。

特に、火の使用や狩猟採集の技術は、環境を変えずに環境へのアクセス方法を変化させることで、実質的に環境変化を引き起こしました。

これにより、ホモ属の種間競争はさらに激化し、他とは異なる新種の増加に貢献したのです。

他の人類種も火や石器の使用が可能でしたが、ホモ属ほどテクノロジーに依存していなかったため、同様の効果は見られなかった可能性があります。

しかし、このテクノロジーに依存した新種ラッシュは、ある圧倒的な種の出現によって台無しになってしまいます。

その痕跡は新種出現パターンより絶滅のパターンに現れていました。

なぜチンパンジーは生き残っているのに高い知能を持つ原人や旧人は滅んだのか?

なぜチンパンジーは生き残っているのに高い知能を持つ原人や旧人は滅んだのか?
なぜチンパンジーは生き残っているのに高い知能を持つ原人や旧人は滅んだのか? / Credit:川勝康弘

人類の進化史を辿ってみると、ホモサピエンスは過去において少なくとも5種類の他の人類と共存していた時期があったことが知られています。

DNAをもとにした解析でも、アフリカ系以外の現生人類にはネアンデルタール人やデニソワ人、さらに未知の種と考えられる第三の種の痕跡と思われる遺伝子が含まれており、人類はそれら他種と混血を進めていたことがわかります。

ただ近年の研究ではその過程がある意味で一方的であり、現生人類(ホモサピエンス)にはネアンデルタール人の遺伝子が混じり込んでいる一方で、発見されたネアンデルタール人の遺骨には、ホモサピエンスの遺伝子が全く含まれていないことが示されました。

人類においてこのようなパターンは、2つの集団で全面戦争(民族浄化に近い)が起きた場合にのみ発生します。

具体的には男性が全員殺され、女性と子供だけが生き残る場合です。

研究者たちはこの結果から、ホモサピエンスとネアンデルタール人の間の種間競争が常に穏やかなものではなく、全てでなくとも一部では、暴力的な側面を持っていた可能性があると述べています。

(※または両種の間でうまれた男性だけが遺伝的な不妊であったり、先天的に生き残れないような健康状態でしかうまれてこれなかった可能性もあります。)

ただどちらにしても、両種の間では現生人類の人種間結婚のような平穏な男女の行き来が失敗したことを示しています。

今回の研究結果もホモサピエンスによる他種への大量虐殺を証明するものではありません。

しかし研究では、ホモ属の間でみられた「多様性が多様性を加速する」という傾向が、現生人類(ホモサピエンス)の登場によって絶たれたと述べています。

通常、多様化しているグループ(属)は簡単なことでは絶滅していきません。

そのため通常、多様化はグループ全体の絶滅耐性のシグナルとなります。

しかし技術を背景に多様化していったホモ属では、圧倒的なテクノロジーを持つ種が登場することで全く異なる経路を辿ることになったと考えられます。

圧倒的なテクノロジーを持つホモサピエンスの前では、他の種は競争相手にすらならず駆逐されてしまったのでしょう。

論文においても「ホモサピエンスの極端な汎用化が、末期における種の分化を妨げた可能性がある」と述べられています。

そして結果的にホモ属では「多様化しているほど絶滅が起きやすい」という外れ値になってしまいました。

このような絶滅パターンは他のどんな生物種にもみられない、ホモ属のみにみられる唯一無二のものです。

この異常なパターンを駆動する仕組みが、ホモサピエンスのどんな性質に根差しているのかを解明することができれば、私たちは私たち自身をよりよく理解できるでしょう。

そして、その気付きは火や石器の発見と同じくらい、重大なものとなるはずです。

全ての画像を見る

参考文献

Interspecies competition led to even more forms of ancient human – defying evolutionary trends in vertebrates
https://www.cam.ac.uk/research/news/interspecies-competition-led-to-even-more-forms-of-ancient-human-defying-evolutionary-trends-in

元論文

Diversity-dependent speciation and extinction in hominins
https://doi.org/10.1038/s41559-024-02390-z

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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