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皮膚がんの治療と再発防止に有効!モデルナの「がんワクチン」が2025年までに利用可能か?


がんはワクチンで治療する時代になりそうです。

モデルナ社とメルク社は臨床試験中(第2b相)のmRNAがんワクチン「mRNA-4157/V940」と免疫療法薬「KEYTRUDA(R)(ペムブロリズマブ)」の併用により、黒色腫の再発または死亡リスクを3年間で44%減少させたと発表しました。

これまでmRNAがんワクチンは動物実験などでの効果が示されてきましたが、ついに治療中のヒトに対する有効性も実証されることになりました。

両社は現在、第3相の試験を準備している段階ですが、効果の強さを確信したためか、既にマサチューセッツ州に新型ワクチンのための増施設を建設中です。

モデルナのCEOであるステファン・バンセル氏は、早ければ2025年には、ワクチンの承認を得られる可能性があると述べています。

発表内容の詳細はモデルナ社のニュースページにて公開されています。

目次

  • mRNAがんワクチンはがん治療薬になる
  • mRNAがんワクチンは全てが「特注性」

mRNAがんワクチンはがん治療薬になる

黒色腫は色素生産細胞が、がん化する最も危険な皮膚がんの1つです。

致死性も皮膚がんでは際立っており、皮膚がん全体のなかで黒色腫は1%に過ぎませんが、死者の大半(80%)は黒色腫によって占められています。

アメリカでは毎年約10万人が黒色腫と診断されており、2020年には世界全体で32万5000人の新たな黒色腫の患者が発生しています。

ほくろと黒色腫の違い
ほくろと黒色腫の違い / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

5年後の生存率はリンパ節への転移が始まるステージ3で60.3%、末期とされるステージ4で16.2%と推定されています。

そのため黒色腫に対する研究も盛んであり、近年では次々に有望な研究結果が報告されるようになりました。

たとえば2021年に発表されたマウス研究では、黒色腫に炎症物質の生産を促すmRNAを打ち込んだところ、95%のマウスで腫瘍が完全に消滅したことが報告されています。

mRNA技術で95%のマウスから「がん細胞を完全消滅」させることに成功!

ただマウスなどの動物実験とヒトの臨床試験ではしばしば結果の隔たりが大きく、実用化に至らないケースが多くみられるのが現状であり、多くの人々をぬか喜びさせる結果になりました。

しかし今回、モデルナとメルクが開発したmRNAがんワクチンと免疫療法の併用は、ヒトで行われる臨床試験において、極めて有望な結果が報告されました。

新たな治療法ではまず、外科的手術によって可能な限り腫瘍の切除が行われ、場合によっては放射線など他の治療も使用されます。

次に摘出されたがん細胞に対してDNA分析が行われ、患者1人1人のがん細胞が持つ個人的な特徴が調べられます。

がん細胞だけが持つ異常なタンパク質「ネオアンチゲン」を認識できれば、がん細胞だけを殺すことが可能になります
がん細胞だけが持つ異常なタンパク質「ネオアンチゲン」を認識できれば、がん細胞だけを殺すことが可能になります / Credit:金沢先進医学センター

人間の個性がDNAによって影響を受けるように、がん細胞でも患者ごとに異なるDNAが変異してさまざまな「個性」を持っています。

新たな治療法ではまず、この患者1人1人のがん細胞の個性が特定され、どんなDNAに変異が起きて、その結果どんなネオアンチゲン(異常なタンパク質)が作られているかが推定されます。

ネオアンチゲンはがん細胞のDNA変異によって作られる異常なタンパク質の一種であり、免疫細胞が、がん細胞を識別して攻撃する際の目印として使うことが可能です。

(※ネオアンチゲンも患者固有のものであり、1人1人が異なったものになっています)

しかし、がん細胞には免疫細胞の攻撃から回避するためのある種のステルス機能が存在しており、せっかくの目印があっても、免疫だけでは上手く排除することができません。

そこでモデルナはネオアンチゲンとなる異常なタンパク質を増加させることで、がん細胞を「目立たせる」方法を考案しました。

mRNAがんワクチンは全てが「特注性」

新たな方法では、mRNAワクチンの進化したバージョンが使われます。

がん細胞では変異したDNAをもとに変異したRNAが生産され、最終的にネオアンチゲンと呼ばれる異常なタンパク質を生産します。

たとえば細胞全体を巨大なビルだとすると、DNAは全体の設計情報の記載は何十個もの大きなスパコンと言えるでしょう。

○○階の✕✕部屋の情報が欲しいというときに、大きなスパコンをいちいち現場に引っ張っていくのは現実的ではありません。

そのため細胞には、必要な部分の情報だけを写した部分写しとしてRNAを生産します。

最後に部分写しであるRNAは「現場」に運ばれ、部品となるタンパク質を生産します。

そして生産されるタンパク質の量は、部分写しであるRNAが多ければ多いほどたくさん作られる傾向があります。

がん細胞の場合、DNAそのものに変異があるため、生産されるタンパク質も異常となり、違法建築のように細胞表面にも異常な構造が現れます。

がん細胞の異常なタンパク質が沢山生産されるようになると、免疫システムはより強く異物として認識し、がん細胞のステルス能力を打ち破ることが可能になります。なおバリアはSF的なものではなくがん細胞のステルス能力を表現するためのイメージとなります。
がん細胞の異常なタンパク質が沢山生産されるようになると、免疫システムはより強く異物として認識し、がん細胞のステルス能力を打ち破ることが可能になります。なおバリアはSF的なものではなくがん細胞のステルス能力を表現するためのイメージとなります。 / Credit:川勝康弘

モデルナのがんワクチンでは、この仕組みを利用して、がん細胞の目印となるネオアンチゲン(異常なタンパク質)の設計情報を含んだmRNAを患者の体内に注射します。

このネオアンチゲンの設計情報は患者1人1人の変異DNAに対応した「個別化されたmRNA」となっており、最大限の効果を発揮するように作られています。

(※mRNAがんワクチンは患者個人にあわせた特注品であるため、他人に処方されたワクチンを接種しても効果が得られなくなっています)

すると患者の細胞ではmRNAの指示に従って、がん細胞だけが持つネオアンチゲンが大量に生産され、免疫システムに異物として認識されやすくなります。

さらにメルクが開発した免疫療法を併用して免疫細胞の認識能力を強化することで、免疫システムはネオアンチゲンを生産するがん細胞を完全に「ロックオン」することが可能になります。

(※新たなmRNAがんワクチンでは34種類のネオアンチゲンを生成するように機能します)

実際の試験ではステージ3および4の154人の黒色腫患者が集められ、mRNAがんワクチンと免疫療法の併用が行われました。

モデルナのmRNAがんワクチンは9回投与され、メルクの免疫療法薬「キイトルーダ」は3週間ごとに18回投与(最大で1年間投与)されました。

新型コロナウイルスのワクチンが2回でよかったのに比べて9回と多いのは、相手がウイルスとがん細胞の違いにあるからだと言えるでしょう。

(※ウイルスは完全な外敵ですが、がん細胞はもともとは自分の体の細胞であるため、免疫の訓練期間が長く必要なのです)

結果、免疫療法薬「キイトルーダ―」を単体で治療したのに比べて、3年間で再発と死亡リスクを44%減少させることに成功しました。

一方で、重篤な副作用は患者の14.4%で発生したことが確認され、しばしば使用の一時中断や永久中止の判断がなされました。

生命にかかわる重篤な副作用としては、免疫介在性大腸炎、免疫介在性肝炎、副腎不全、下垂体炎、甲状腺疾患などがあげら、患者の1人は免疫介在性大腸炎により死亡しました。

がんワクチンは未来の治療法になり得る

この成果は、mRNAワクチンがウイルス感染の予防薬としてだけではなく、がんの治療薬として機能することを示しています。

現在mRNAワクチンとして承認されているのは新型コロナウイルスのワクチンだけですが、将来的にはさまざまな病気に対する「治療用ワクチン」が開発されるでしょう。

モデルナとメルクは去年の7月から第3相試験を開始するだけでなく、モデルナは既にmRNAがんワクチンの製造施設をマサチューセッツ州に建設し始めています。

(※mRNAがんワクチンはFDAより画期的治療薬の称号を受けており、承認の迅速化が図られることになりました)

モデルナのCEOであるステファン・バンセル氏は、早ければ2025年には、ワクチンの承認を得られる可能性があると述べています。

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参考文献

Moderna and Merck Announce mRNA-4157/V940, an Investigational Personalized mRNA Cancer Vaccine, in Combination with KEYTRUDA(R) (pembrolizumab), Met Primary Efficacy Endpoint in Phase 2b KEYNOTE-942 Trial
https://investors.modernatx.com/news/news-details/2022/Moderna-and-Merck-Announce-mRNA-4157V940-an-Investigational-Personalized-mRNA-Cancer-Vaccine-in-Combination-with-KEYTRUDAR-pembrolizumab-Met-Primary-Efficacy-Endpoint-in-Phase-2b-KEYNOTE-942-Trial/default.aspx

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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