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同じワインでも値札が高いと脳の報酬系が活性化して実際美味しく感じてしまう


500円のワインと100万円のワインを見分ける自信はありますか。

この区別が想像以上に難しいことが、値札を伏せた状態でワインを試飲する過去の研究で報告されてきました。

スタンフォード大学のヒルキ・プラスマン氏(Hilke Plassmann)らの研究によると、同じワインであっても、高い値札が貼られているだけで美味しいと感じることが分かっています。

さらに高価なワインを飲んだと勘違いした人は、報酬に関連する内側眼窩前頭皮質(mOFC)の活動が大きくなることも確認されました。

もしかすると高価なワインを飲んだ時に感じる美味しさは、活性化する脳部位の興奮に騙されている可能性が考えられます。

研究の詳細は、学術誌「PNAS」にて2008年1月22日に投稿されました。

目次

  • 高いワインと安いワインはどちらが美味しいのか
  • 値段が高いワインは報酬に関連する脳部位が活性化する

高いワインと安いワインはどちらが美味しいのか

1,000円のワインと10万円のワインではどちらのほうが美味しいと思いますか。

ほとんどの人が高いワインのほうが美味しいと予想するでしょう。

では値段のラベルを伏せた状態でどちらが高いワインか当ててくださいと言われた場合はどうでしょうか。

テレビ番組の「芸能人格付けチェック」のような状況ですが、実際に値段を伏せた状態でワインの味の良さを判断できるかを調べた研究があります。

それはハートフォードシャー大学のリチャード・ワイズマン(Richard Wiseman)氏の研究で、参加者578名に値段を伏せて、安価なワインと高価なワインを飲んで当ててもらいました。

実験の結果、白ワインに関して参加者はよりワインの価格の高低を正確に判断できた確率が約53%、赤ワインに関しては約47%と偶然のレベルを下回ったのです。

実験の結果を改変。
実験の結果を改変。 / Credit: Wiseman, (2011).

つまりワインの価格の高さの判断の精度はまぐれの域を超えず、味のみから値段の高低を推測することはできないことが分かります。

この結果はワインの値段の高さを判断できる確率は50%程度でまぐれの域を超えないことから、示唆しています。

では私たちは美味しさをどのような要素から判断しているのでしょうか。

ほとんどの人が味を判断できていないとなると、「値段が高いから味が良いはず」という予測で、美味しさを感じているだけの可能性が考えられます。

そこでスタンフォード大学のヒルキ・プラスマン氏(Hilke Plassmann)らの研究は、値段のラベルだけの情報で感じる味が変わるかを検討しています。

実験に参加したのは赤ワインが好きで時々飲む大学生11名でした。

参加者はfMRIで脳の活動を測定された状態で、値段のラベルが異なるワインのサンプルを試飲してもらっています。

値段のラベルは5ドル(当時の為替レートで350円)、10ドル(700円)、35ドル(2,450円)、45ドル(3,150円)、90ドル(6,300円)の5種類がありました。

しかし実際は、参加者が口にした45ドルのワインは5ドルのワイン、10ドルのワインは90ドルのワインと同じで、値段のラベルだけに違いが設けられています。

参加者はワインを飲んだ後、その風味とどれだけ楽しんだかを評価してもらいました。

また前に飲んだワインが次の試飲になるべく影響が及ばないよう、ワインを飲むごとに口を水で濯いでいます。

値段が高いワインは報酬に関連する脳部位が活性化する

実験の結果、同じワインであっても高い値段のラベルが貼られたワインの方をよりおいしいと評価しました。

実験の結果を改変。
実験の結果を改変。 / Credit: Plassmann et al., (2008)

また値段の高いラベルのワインを飲んだ時に、報酬が得られた時に活性化する内側眼窩前頭皮質(mOFC)の活動が大きく、そして活動時間も長くなる傾向が確認されています。

実験の結果を改変。
実験の結果を改変。 / Credit: Plassmann et al., (2008)

この結果は同じワインでも値段のラベルが高いと、よりおいしいと感じており、それと同時に脳が受け取る報酬が強いことを示しています。

つまり値段が高いという事実だけで、まったく同じ味なのにも関わらず味が良いと感じてしまうのです。

研究チームは「価格の情報だけで、私たちは体験の快適さを感じる脳の領域の活動にまで影響を受ける」と述べています。

もしかすると、高価なワインを飲んだ時に感じる美味しさは、実際の質ではなく、高いお金を出して購入することで活性化する脳部位の興奮に騙されている可能性が考えられます。

しかしなぜ高価なワインに対しては脳部位の報酬系が活性化するのでしょうか。

それは高い価値があるワインを購入した、あるいは飲んだのにも関わらず、不味いと思うともったいない、あるいは不快感を感じてしまう「認知的不協和」が生じているからだと考えられています。

「認知的不協和」とは自身の思考や行動と矛盾する認知を抱えている状態を指します。

たとえば、毎日ハンバーガーなどのファストフードを食べ、不健康な生活を送っている男性がいるとします。

そんな男性がある日、テレビで「健康を維持するためには、野菜や果物などのを食べ、バランスの取れた食事をしなければ、生活習慣病になってしまう」という内容を番組で目にしたとしましょう。

そのとき、この男性には「毎日ハンバーガーを食べたい」と「生活習慣病は避けたい」という矛盾した認知が生じ、強いストレスを感じます。

そのため人は自分の行動か、認知の仕方を変化させる心理が働くのです。

ほとんどの人は行動を改善することは困難なので、認知を変えることで矛盾を解消しようとします。

例えば、「ハンバーガーには野菜が挟まってるから健康に良い」とか、「食べたいものを我慢する方が逆に身体に悪い」という考え方をすることで、ファーストフードに食事を頼る健康面の矛盾を心理的に解消しようとするのです。

同様に「高いものを買ったのに微妙だった」、という状況は認知的不協和を生みます。

そこで人は高いものに対しては、「値段が高いのだから良いものに違いない」と無意識のうちに思い込むようになっており、これが脳の報酬系の活性化と関連していると考えられるのです。

私たちの主観的な味の体験は、単純なワインの味の質だけで決定されているわけではないようです。値段や色などの視覚的情報をはじめ、個人的な思い込みや期待などさまざまな要因が絡みあって形成されます。

もしかすると、私たちは、食べているものの味が良いから美味しいと言っているわけではなく、自分が高いお金を支払った事実、あるいはこのお酒を楽しみたいという気持ちの方が、美味しさを感じる重要な要素になるのかもしれません。

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参考文献

Price tag can change the way people experience wine, study shows
https://phys.org/news/2008-01-price-tag-people-wine.html

THE PLACEBO EFFECT AND WINE
https://www.palatepress.com/the-placebo-effect-and-wine/

Baba Shiv: How a Wine’s Price Tag Affect Its Taste
https://www.gsb.stanford.edu/insights/baba-shiv-how-wines-price-tag-affect-its-taste

Expensive and inexpensive wines taste the same, research shows
https://phys.org/news/2011-04-expensive-inexpensive-wines.html

元論文

Marketing actions can modulate neural representations of experienced pleasantness
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.0706929105

Try It You’ll Like It: The Influence of Expectation, Consumption, and Revelation on Preferences for Beer
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17201787/

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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