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イヌの知力の違いはどこにある?「賢いイヌは人間と同じようにモノを特徴で認識する」


何かを認識するとき人間は「それがどこにあるか」よりも「それがどんなものか」を重視する傾向にあります。

形や色など、そのモノに属する性質を先に認識するのです。

しかし多くのイヌは人間と異なり「それがどこにあるか」を先に認識します。

例えば、あなたは毎週散歩の途中に公園の広場でいつも決まった位置に停まっているクレープのキッチンカーに立ち寄っているとしましょう。

しかしある日いつものキッチンカーが停まっている場所にチキンケバブのキッチンカーが停まっていたとしたら、あなたはそこには近づかずに広場の入口から、クレープのキッチンカーの外観と一致する車がどこに止まっているか探すはずです。

ところが、モノを場所で認識しているイヌは、いつもの場所に停まっている全く違う車に近づいていく可能性が高いのです。

そんなイヌと人間の認識の違いは経験則としてよく知られていましたが、その認識の違いを明確に示す研究は行われていませんでした。

そこで、ハンガリー、エトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)の研究グループはイヌが「モノに属する性質」と「モノがある場所」のどちらでモノを認識しているか調査しました。

その結果、多くのイヌは「モノがある場所」で認識していましたが、一部のイヌは人間と同様に「モノに属する性質」を重視した認識を行えることがわかったのです。

この研究はWiley Online Libraryに2023年11月19日付けで掲載されています。

目次

  • イヌは場所とモノどちらを認識しやすいのか
  • イヌとヒトの認識が異なる理由

イヌは場所とモノどちらを認識しやすいのか

a:位置の条件(右)、b,c:色形の条件
a:位置の条件(右)、b,c:色形の条件 / credit:Wiley Online Library

実験はおやつを与える皿の「位置」と「色形」を変えた2つの条件で行われました。

「位置」の条件では、皿をイヌに対し右か左ななめ前方に置き、特定の方向においたときのみおやつが入っている状態にします。

「色形」の条件では、色形が異なる2種類の皿のうち一方を実験者の前に置き、特定の色形の皿のみおやつが入っている状態にします。

どちらの場合でもおやつにたどりつけたら「正解」とし、それぞれの条件で規定時間以内に正解にたどりつけるようになるまでの回数を測定しました。

なお、イヌがニオイでおやつの場所を判断できないよう、不正解の皿にもおやつが擦り付けてあります。

実験対象となったイヌは全部で82匹で、ボーダーコリー、ショートヘアード・ハンガリアン・ビズラ、ウィペットなどの犬種を含んでいます。

イヌは皿の「位置」の方が覚えやすい

イヌは色形ではなく置かれてる場所で皿を認識
イヌは色形ではなく置かれてる場所で皿を認識 / credit:Pixabay

実験では、イヌが正解の皿に歩いていく時間が15秒以上かからなければ「学習した」と判断し、それまで何回の試行が必要か測定しました。

この条件で実験した結果、多くのイヌは「位置」を変えた条件の方が少ない試行回数で学習することができました。

「位置」条件の方が学習が速いという結果は犬種によらずどのイヌでも同じ傾向です。

ただし、ボーダーコリーなどの一部の犬種は、「位置」条件と「色形」条件で学習にかかる回数の差が他のイヌより小さく、「色形」条件でも学習することができていました。

これまで、イヌの認識が人間よりも「空間的条件」を重視してしまうのは視力の差が原因ではないかと考えられてきました。

しかし、一部のイヌが「色形」条件でもモノを認識できている以上、イヌと人間の認識の違いは視力によるものではない可能性があります。

このため、研究グループはイヌの視覚や認知能力に関しても調査を行い、認識の違いについて考察することにしました。

イヌとヒトの認識が異なる理由

イヌの視力を示す頭蓋指数、bの方が目が良い
イヌの視力を示す頭蓋指数、bの方が目が良い / credit:Wiley Online Library

ここでまずイヌの視覚についておさらいしておきましょう。

イヌの視力は0.2~0.3程度で人間のようにはっきりとものを見ることができません。

また、目が頭の側面についていることから見える範囲が広く、特定のものを見るのが難しいと言われています。

イヌの見える範囲は目がついている場所によるため、頭の形が違えば目の見え方が変わります。

一般的に、頭が短い犬種ほど視力がよくなることから、頭蓋骨の幅と前後の長さの比率である「頭蓋指数」でイヌの視力を表すことができるのです。

今回の研究でも各イヌの「頭蓋指数」が測定されましたが、「頭蓋指数」と学習に必要な試行回数の関係を見ると、課題の難度によって視力の影響が異なることがわかりました。

簡単な課題であれば視力が「モノの特徴」に関する認識に寄与するものの、難しい課題になると影響しなくなっていたのです。

ここでいう難しい課題とは、途中で正解の皿を入れ替える「逆転学習」を指します。

なお、視力以外の影響を調べるため、各イヌに対して上記実験に加えて記憶力、注意力、忍耐力などもテストしました。

これらの能力は認知能力と呼ばれるもので、他の情報との比較や過去の経験との関連を踏まえて情報を処理する能力を指します。

認知能力の高いイヌは記憶力に優れており、指示にも瞬時に対応できるようないわゆる「賢い」イヌです。

今回の研究ではこのような「賢い」イヌが、場所と同じくらい簡単に情報を物体に結び付ける傾向にありました。

また「賢い」イヌたちは途中で正解の皿が途中で変わってしまう逆転学習に関しても少ない試行数で適応することができました。

つまり、イヌが空間的な条件に偏った認識をしてしまうのはイヌの視覚というよりは認知能力、すなわち「賢さ」が強く関係することが示されたのです。

人間の子にも見られる「空間条件」への偏り

赤ちゃんもあるはずの場所にあるはずのものがないと泣く
赤ちゃんもあるはずの場所にあるはずのものがないと泣く / credit:フォトAC

今回の実験によって、モノを認識するとき、イヌは空間条件にこだわる傾向があるものの、賢いイヌは「空間条件」への偏りが小さいことがわかりました。

このような賢いイヌは正解が入れ替わるなど学習が難しい課題に際しても情報を整理し、さらなる学習につなげることができます。

このことから、モノの認識による空間条件への偏りは「認知能力が高くなること」で解消されると考えられます。

例えば、人間でも認知能力が低い乳幼児のうちは空間条件への偏りが生じている可能性があるのです。

実際、私も自分の子が赤ちゃんの頃を思い出してみると、いつもの場所におもちゃがないとき、視界に入る場所にそのおもちゃがあっても「見つからない」と泣くことがありました。

今回の研究の対象はイヌでしたが、認知の偏りは視力よりも認知能力の低さで起こるという事実は人間の、そしてあらゆる動物の行動にも関わる研究と言えそうです。

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参考文献

The way dogs see the world: Objects are more salient to smarter dogs
https://www.eurekalert.org/news-releases/1008355

元論文

Cognitive and sensory capacity each contribute to the canine spatial bias
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/eth.13423

ライター

いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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