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収束させた太陽光でレゴリスを溶かし月面に道路を建設するプロジェクト


将来、人類が月で生活する時、もしかしたら月面には舗装された道路が作られているかもしれません。

しかもそれは想像以上に簡単に実現できる可能性があります。

月面は、簡単に舞い上がってしまう砂塵「レゴリス」で表面を覆われています。

ドイツ・アーレン大学(Aalen University)に所属するエンジニアのフアン・カルロス・ヒネス・パロマレス氏ら研究チームは、そのレゴリスを収束させた太陽光で溶かして固めそのままアスファルトのように利用してしまおうと考えました。

そして今回の実験では、月レゴリスの模倣物をレーザーで固いタイルへと変化させることに成功しています。

研究の詳細は、2023年10月12日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次

  • 脅威となる「月面の砂塵」を固めて道路にするプロジェクト
  • レーザーで「月レゴリス模倣物」を加熱し、タイルを作ることに成功
  • 「月の道路建設プロジェクト」の研究は始まったばかり

脅威となる「月面の砂塵」を固めて道路にするプロジェクト

人類の月面での活動を阻んでいるのは砂塵です。

月の表面に堆積している砂塵「レゴリス」は、低重力環境ゆえ簡単に舞い上がってしまいます。

これが宇宙服を傷つけて重大なダメージを与えたり、精密機器を詰まらせたりするのです。

アポロ12号はサーベイヤー3号の横に着陸した
Credit:NASA_How to make roads on the Moon(2023)

実際、月着陸探査機サーベイヤー3号の損傷は、アポロ12号の着陸時に巻き上げられた砂塵によって生じました。

宇宙船が着陸したり、月面車が走ったりするたびに砂塵が舞ってしまうなら、月面開発に打ち込むことは難しいでしょう。

そこで欧州宇宙機関(ESA)のプロジェクト「PAVER:paving the road for large area sintering of regolith」では、月面に堆積している月レゴリスを加熱して固めるアイデアを研究しています。

月の道路建設プロジェクト「PAVER」
Credit:PAVER Consortium_How to make roads on the Moon(2023)

このプロジェクトチームを率いるのは、アーレン大学のパロマレス氏です。

月レゴリスは、焼結または融解によって緻密で固い構造を形成する可能性があります。

(焼結とは、固体粉末を融点よりも低い温度で加熱した時に、粉末が固まって緻密な物体になる現象のこと。融解とは、固体を加熱することで液体になる現象のこと)

つまりパロマレス氏らは、収束した太陽光やレーザー照射によってこの現象を月面で直接引き起こし、レゴリスを利用して舗装された月面道路を作ろうと考えているのです。

レーザーで「月レゴリス模倣物」を加熱し、タイルを作ることに成功

今回の実験では、このプロジェクトが可能かを確かめるために、ESAが開発した月レゴリスの模倣物「EAC-1A」が用いられました。

月レゴリスはケイ素(Si)や鉄(Fe)の酸化物などで構成されていますが、EAC-1Aは同様の構成で再現されたものです。

ちなみにケイ素の酸化物はガラスの主成分です。

レーザーで月レゴリス模倣物「EAC-1A」を溶かす
Credit:PAVER Consortium_How to make roads on the Moon(2023)

そしてチームは直径45mmのレーザーを使って、EAC-1Aの塵を約1600℃まで加熱して溶かしました。

彼らはまた、1ピースのタイルが直径約20cmの三角形になるようレーザーで描いき、それを連続して作成していきました。

完成したタイルは、上面が融解によってできた緻密なガラス状の層で構成されており、下部の融解していない境界領域では、焼結による薄い層ができていました。

三角模様にレーザー照射し、1つ1つタイルを作っていく
Credit:PAVER Consortium_How to make roads on the Moon(2023)

このタイルの強度をテストした結果、焼結した部分はコンクリートに匹敵する強度を持つと判明しました。

この結果は、本物の月レゴリスを溶かして作ったタイルが、月面の道路やロケット着陸パッドとして活躍するかもしれないことを示唆しています。

「月の道路建設プロジェクト」の研究は始まったばかり

「月の道路」を現実のものにするためには、多くの課題に取り組まなければいけません。

厚さ1.8cmの融解層
Credit:PAVER Consortium_How to make roads on the Moon(2023)

例えば、タイル表面のガラス層は、強い熱衝撃(ロケット打ち上げなど)によって破損する恐れがあります。

ガラスの破片は宇宙ミッションのリスクになるため、今後は耐熱衝撃性を研究する必要があるでしょう。

また今のところ、タイルを作るためには膨大な時間がかかります。

実際、小さなタイルを作るだけでも約1時間かかっており、10m×10mの着陸パッド(厚さ2cm)を作るためには115日かかるようです。

タイルを組み合わせて道路や着陸パッドを作る
Credit:PAVER Consortium_How to make roads on the Moon(2023)

ただこれは、実験のように小さなレーザーを照射した場合の話です。

実際に月面で本物のレゴリスを加熱するために、研究チームは月に降り注ぐ太陽光を収束させる方法を検討しています。

これは宇宙空間に巨大な集光器を設置し、太陽光を集めて目的のポイントを加熱されるという方法です。これは理科の実験で行った虫眼鏡で紙を焦がすのと似た原理です。

この方法で太陽光を集めれば実験で用いたレーザーと同レベルの強度の熱が得られ、月面で発電してレーザーを照射させるなどの手間がなくなります。

ただしそのためには、直径約2mの巨大なレンズが必要となり、これを宇宙まで運ばなければいけません。

しかも砂塵が舞い上がってしまうと上手く機能しなくなるため、この課題にも取り組む必要があります。

遠い将来、月面に道路が建設されるかも
Credit:PAVER consortium/LIQUIFER Systems Group_How to make roads on the Moon(2023)

「月の表面を加熱して固める」という今回の研究は、まだ初期段階にあるため、今後も多くの実験を重ねていく必要があるでしょう。

それでも、現段階でいくらかの成果は出ており、今後の進展にも期待できます。

遠い将来、月には滑らかでまっすぐな道路が敷かれているのかもしれません。

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参考文献

How to make roads on the Moon https://www.esa.int/Enabling_Support/Space_Engineering_Technology/How_to_make_roads_on_the_Moon Wild Experiment Shows How Lasers Could Be Used to Build Moon Roads https://www.sciencealert.com/wild-experiment-shows-how-lasers-could-be-used-to-build-moon-roads ‘Streets on the moon’: lunar dust could be ‘melted’ to make solid roads https://www.theguardian.com/science/2023/oct/12/streets-on-the-moon-lunar-dust-could-be-melted-to-make-solid-roads

元論文

Laser melting manufacturing of large elements of lunar regolith simulant for paving on the Moon https://www.nature.com/articles/s41598-023-42008-1
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