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がん細胞を「普通の細胞」に転職させる新たな方法を開発!


殺せないなら、仲間に加えればいいようです。

米国のコールド・スプリング・ハーバー研究所(CSHL)で行われた研究により、増殖力が高い危険な肉腫細胞を、普通の筋肉細胞に変化させる技術が開発されました。

これまでがん治療は、腫瘍を手術で取り除いたり抗がん剤などでがん細胞を殺すことで「体からの排除」が行われていました。

ところが新たな方法ではがん細胞に「がん」という属性を捨ててもらい、普通の細胞として生きていく共存共栄が目指されています。

しかし、極めて強い増殖力と適応力を持つがん細胞たちに、そう簡単に「転職」してもらえるのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年8月28日に『PNAS』に掲載されました。

目次

  • がん細胞に「がん」を辞めてもらう
  • がん細胞の成長を促し「普通の細胞」に就職させる

がん細胞に「がん」を辞めてもらう

体のがん細胞と社会のマフィアを排除するには同じような手法が使えます。
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

体から腫瘍を排除するには、理論的に3つの方法が存在します。

1つ目は、外科手術などで体からがん細胞を物理的に摘出する方法。

そして2つ目は、抗がん剤などで、体内のがん細胞を全て殺害する方法です。

実際、現在のがん治療はこの2つの方法(外科手術や抗がん剤)が主流となっています。

ただこれらの方法は、がん細胞に対して行うには効果が限定的となっています。

というのも、がん細胞は殺されそうになると、普通の細胞に擬態して免疫の目を欺いたり、一時的に無毒化して攻撃から逃れるなど、殺しきるのが難しいからです。

またすい臓がんなど、外科手術で摘出すると逆に全身に転移が進んでしまう厄介ながんも存在します。

そこで近年になって着目されているのが、3つ目となる「がん細胞たちに、がんを辞めて普通の細胞に戻ってもらう方法」です。

人間社会で例えるならば、社会(体)に巣くうマフィア(がん細胞)たちに健全な職場を斡旋し、普通の社会人(普通の細胞)になってもらう方法と言えるでしょう。

マフィア構成員もがん細胞も同じく「しぶとい」性質があり、無理矢理排除しようとしても上手くいきません。

しかし普通の細胞に戻るという選択肢は、がん細胞も生存を約束され、体も健康を取り戻すことができるため、WIN‐WINの関係を築くことが可能になります。

コールド・スプリング・ハーバー研究所(CSHL)では、がん細胞を「転職」させて普通の細胞に戻す技術について6年間にわたり研究を続けており今回、肉腫細胞を筋肉細胞に変化させる試みに挑みました。

いったいどんな方法を使えば、がん細胞を転職させられるのでしょうか?

がん細胞の成長を促し「普通の細胞」に就職させる

増殖力が高いがん細胞の多くは未熟な状態にある細胞であり、成長を促す分化療法が有効な場合があります
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

どんな方法を使えば、がん細胞を普通の細胞にできるのか?

答えを得るために研究者たちは、地道な方法を実行しました。

研究ではまず「ある遺伝子を破壊すれば、がん細胞が普通の細胞に戻るはずだ」という仮説が立てられます。

これまでの研究によって、がん化は遺伝子の突然変異が原因であることが判明しています。

そのため(理論的には)がん化させる変異があるならば、逆にがん化を解除する変異も存在する可能性がありました。

そこで研究者たちは横紋筋肉腫細胞(がん細胞)の遺伝子を1つずつ破壊していき、普通の細胞に戻るかどうかを確かめる地道な作業を繰り返しました。

すると、肉腫細胞に存在する核転写因子Y(NF-Y)と呼ばれる遺伝子を破壊したところ、肉腫細胞が普通の筋肉細胞に変化することが判明しました。

また筋肉に変わった肉腫細胞たちは、がんとしての性質を全て失っていることも判明しました。

例えば普通のがん細胞はエネルギーの多くを自己増殖のために用いていますが、筋肉細胞になったことでエネルギーのほとんどを収縮することに次ぎ込み、増殖することはなくなりました。

がん細胞から筋肉細胞の変化で見た目も大きく変わりました
Credit:Martyna W. Sroka . Myo-differentiation reporter screen reveals NF-Y as an activator of PAX3–FOXO1 in rhabdomyosarcoma . PNAS (2023)

また見た目の状態も、肉腫細胞のときは球形に近い形をしていましたが、筋肉細胞になったことで紡錘形に変化し、細胞内部も収縮タンパク質(アクチンとミオシン)が豊富に存在するように変化していました。

この結果は、NF-Yを無力化することで、危険な肉腫細胞を普通の筋肉細胞に変化させられることを示しています。

ただNF-Yの本来の役割は、遺伝子の活性度を制御する「調節役」にあります。

そのため研究ではNF-Yがどんな遺伝子の調節を行っているかが追加で調査されました。

筋肉細胞に変わったことで、見た目も機能も大きく変わりました
Credit:Vakoc lab/Cold Spring Harbor Laboratory

するとNF-Yは、未熟な細胞を筋肉細胞に分化させる「PAX3‐FOXO1」と呼ばれる遺伝子を活性化させる作用があると判明します。

(※PAX3‐FOXO1は既にがん化に関連する遺伝子であることも知られていました)

そのため研究者たちは未熟な状態にあるがん細胞を分化させることが、普通の細胞へと再編成する効果になっていると述べています。

というのも、これまでの研究で無限に増殖する能力を持つ多くのがん細胞は、体内にある未熟な細胞が、がん化したものと考えられています。

たとえば白血病細胞には、細胞が特定の役割を持った状態に発達していない未分化幹細胞としての性質を持っており、細胞の成長を促す分化誘導療法が効果的に働くことが知られています。

再びマフィアで例えるならば、がん細胞(マフィア)は体内でちゃんとした役割を担う分化細胞(職業)についていない状態で、それが無分別な活動につながっていたのです。

しかし、そんな彼らに成長を促すことで、がん細胞(マフィア)から足を洗って筋肉細胞という新たな役割に変化(転職)させることができたのです。

研究者たちは今回の研究結果が、肉腫細胞以外の他の種類のがん細胞に対しても、普通の細胞に戻す方法を探索するのに役立つ可能性があると述べています。

もしかしたら未来の世界では、がんの種類に合わせて普通の細胞に変化させる、がん細胞の転職薬が開発されているかもしれません。

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参考文献

Once rhabdomyosarcoma, now muscle https://www.cshl.edu/once-rhabdomyosarcoma-now-muscle/

元論文

Myo-differentiation reporter screen reveals NF-Y as an activator of PAX3–FOXO1 in rhabdomyosarcoma https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2303859120
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