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極限まで遺伝子を削った人工細胞でも進化は可能なのか?


「生物になるために最低限必要な遺伝子は何個あればいいのでしょうか?」

この質問に答えるため、科学者たちは数年にわたる試行錯誤を経て、493個の遺伝子だけで生きることができる人工細胞「JCVI‐syn3B」を作り出しました。

しかし、これには新たな疑問が生じました。

「これほど遺伝子を削ぎ落とされた生物は、進化が可能なのでしょうか?」

米国のインディアナ大学(IU)で行われた研究では、限界までブロックを抜かれたジェンガのような遺伝子を持つ人工細胞に自然淘汰圧が加えられ、進化が強いられました。

1つでも遺伝子が変異して機能を失えば死ぬ生物に、進化は可能だったのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年7月5日に『Nature』にて掲載されました。

目次

  • 最低限何個の遺伝子があれば生物になるのか?
  • 人工細胞は自然細胞よりも早く進化できる

最低限何個の遺伝子があれば生物になるのか?

最低限何個の遺伝子があれば生物になるのか?
Credit:ポストゲノムの発生生物学 . 理研

生命の複雑さは、その生物が持つ遺伝子の数にある程度関連します。

単純な細菌などでは数千個の遺伝子しか持ちませんが、植物や動物の遺伝子数は20,000を超えることもあります。

しかし最近の研究では、数千個しかない遺伝子の中にも、生存にとって必ずしも必要がない遺伝子が多数含まれていることがわかってきました。

たとえば抗生物質を無効化する耐性遺伝子や、他の細胞と通信を行う仕組みなどは、あれば便利ですが、生存するだけならば必要ありません。

最低限何個の遺伝子があれば生物になるのか?

2016年に行われた研究では、この疑問を解明する研究が、寄生性細菌「M・ミコイデス(マイコプラズマ・ミコイデス)」をもとに行われました。

寄生性の生物は一般に、寄生生活が長くなる細胞内部の機能をどんどんパージ(捨て)てしまうようになります。

必要な栄養素は全て宿主から吸収すればよく、無駄な機能を捨てることが生き残る上での効率化になるからです。

またパージの影響は遺伝子にも及び、捨てられた機能にかかわる遺伝子も失われ、寄生生物たちの遺伝子もスリム化させていきます。

そのため研究者たちが目を付けた寄生性細菌は最低限必要な遺伝子の厳選がある程度進んでいる生物だと言えるでしょう。

寄生性の生物は一般に、寄生生活が長くなる細胞内部の機能をどんどんパージ(捨て)てしまうようになります。
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

実際M・ミコイデスも長い寄生生活のなかで多くの遺伝子を失い、総数は901個まで減っていました。

同じ細菌である大腸菌が4000個の遺伝子を持つことを考えると、その少なさがわかります。

2016年に行われた研究ではこのM・ミコイデスの持つ901個からさらに遺伝子を削り取り、生物として必要な最低限度の遺伝子が幾つなのかが調べられました。

結果、45%の遺伝子を削ることに成功。

最終的には493個の遺伝子のみを持つ人工細胞「JCVI‐syn3B」が完成しました。

人工細胞は種独自の要素が全くない、ある意味で最もピュアな生物と言えます。

また人工細胞は実験室で増殖可能な生物のうち、最小のゲノムを持つ生物となりました。

しかし遺伝子を削りに削った結果、人工細胞には生命のもう一つの側面である「進化」ができるかが疑わしくなっていました。

人工細胞に残った493個の遺伝子はどれも生物としてやっていくために最低限必要な遺伝子であり、突然変異がおきて1つでも機能が失われれば、人工細胞は死んでしまいます。

ジェンガに例えれば人工細胞「JCVI‐syn3B」は極限までブロックを抜き取られた状態にあると言えるでしょう。

ですが今回インディアナ大学の研究者たちはあえて人工細胞「JCVI‐syn3B」に対して進化実験を行ってみました。

崩壊寸前のジェンガのようなバランスでなんとか遺伝的に成り立っている人工細胞でも、ここから進化が可能なのでしょうか?

人工細胞は自然細胞よりも早く進化できる

人工細胞は自然細胞よりも早く進化できる
Credit:R. Z. Moger-Reischer . Evolution of a minimal cell . Nature (2023)

必要最低限の遺伝子しか持たない人工細胞「JCVI‐syn3B」も進化できるのか?

謎を解明するため研究者たちは人工細胞を栄養素が貧しい厳しい環境に置き300日間、2000世代に渡って培養を続けました。

(※2000世代は人間で言えば4万年に匹敵します)

結果、最小限の遺伝子しか持たなくても、元となるM・ミコイデスに見劣りしない高い変異が起きていると判明します。

また環境への適応力が2倍に増加しており、元となるM・ミコイデスに匹敵するレベルに回復していることがわかりました。

半数近い遺伝子の喪失により人工細胞の適応力は53%低下していましたが、2000世代におよぶ進化は失われていた体力を遺伝子喪失前の状態に取り戻すことに成功していたのです。

実際、進化後の人工細胞と進化前の人工細胞を同じ培養液内で生存競争をさせてみたところ、進化後の人工細胞が優勢となりました。

また同じ条件で進化させたM・ミコイデスと比較したところ、人工細胞のほうが適応度の進化速度が39%速いことが明らかになりました。

この結果は生物としてやっていける最低限(500個)の遺伝子しか持たない人工細胞も進化が可能であるだけでなく、適応力の進化速度はより速いことを示します。

画像
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

さらに2000世代による進化によって変化した遺伝子を調べたところ、いくつかは細胞表面の構造に関与しているものでした。

特に細胞分裂と形態を調節するチューブリン相同タンパク質「ftsZ」はM・ミコイデスと人工細胞の両方の進化において共通の変異が起きていたことが判明します。

一方、他の多くの変異は機能不明の遺伝子に起きていました。

DNA解析技術が進歩した現在であっても、機能が判明している遺伝子は限定的であり、多くの遺伝子の機能がわからないままになっています。

研究者たちは今後、最小限の遺伝子がどのように変化していくかを調べることで、生命の起源となる存在がどんな遺伝子を持っていたかを調べられると述べています。

また遺伝子のシンプルさに関係なく進化できるという事実を理論的、数学的に理解することは、将来の合成生物学や進化実験において最適な人工生命を創造するにあたり非常に有用となるでしょう。

さらに、どんな環境条件がどの遺伝子を変化させるかを調べることで、進化の基礎的な文法を理解できるようになるかもしれません。

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参考文献

Artificial cells demonstrate that “life finds a way”https://www.newswise.com/articles/artificial-cells-demonstrate-that-life-finds-a-way?ta=home

元論文

Evolution of a minimal cell https://www.nature.com/articles/s41586-023-06288-x
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