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毒物学者がドラマや小説に登場する化学物質がどのように人を殺すか説明


サスペンスドラマや推理小説などのフィクションの世界では、殺人の道具として「毒物」がたびたび登場します。

食物や飲み物に混入させるだけなので、自分が犯人であることを隠したいケースで多用されるのです。

ところがそれらドラマや小説の中では、事件の影響や犯人の動機に焦点が当てられ、毒物が被害者をどのように殺すのか詳しく説明されることは稀です。

そこでアメリカ・コロラド州立大学(Colorado State University)に所属する毒物学者ブラッド・ライスフェルド氏は、フィクションに登場する危険な化学物質が体内でどのように働くのか解説しています。

目次

  • 『ブレイキング・バッド』に登場する毒物「リシン」
  • 『007/カジノ・ロワイヤル』に登場した毒物「ジゴキシン」
  • 横溝正史『八つ墓村』に登場する毒物「ストリキニーネ」

『ブレイキング・バッド』に登場する毒物「リシン」

アメリカの人気テレビドラマシリーズ『ブレイキング・バッド』では、高校の化学教師がリシン(Ricin)入りの砂糖を準備し、お茶に混入させることで、ある女性を殺害しています。

リシンには全く同じ名前のサプリメントなどで売られている「リシン(lysine)」が存在しますが、毒物の「リシン(Ricin)」とは全く異なります。

この2つは異なる由来と作用を持つため、別の名前を付ける方が適切と考えられますが、なぜか特に問題にはなっていないようです。

今回解説する毒物の「リシン(Ricin)」とは、世界中の公園や庭、野山で見られるトウゴマの種子から抽出されるタンパク質です。

トウゴマの種子
Credit:Wikipedia Commons_リシン (毒物)

非常に強力な毒物であり、これが細胞内に入ると、毎分1500個の速さでリボソーム」と呼ばれる構造を不活性化していきます。

リボゾームはタンパク質を合成するという重要な役割を担っています。

生物に活動において重要なタンパク質の設計図はDNAにありますが、DNAから直接タンパク質を合成できるわけではありません。

DNAの情報をRNAに転写し、その遺伝情報をリボゾームが翻訳することで、タンパク質が作られるのです。

リシンはこのリボゾームを不活性化させるため、当然タンパク質合成も停止。最終的には細胞が死んでしまいます。

リジンによって吐き気や腹痛が現れる。最悪死に至る場合も。
Credit:Canva

リシンの人体における致死量は体重1kgあたり0.03mgと言われています。

ドラマのように経口摂取した場合、6~12時間以内に、吐き気、嘔吐、腹痛などの初期症状が現れ、脱水症状や腎臓・肝臓の障害へと発展。

摂取量によっては36~72時間で死亡してしまいます。

リシンを用いた事件は現代でも生じており、アメリカでは2013年にオバマ大統領宛ての封書から検出されたり、日本でも2021年に、ある女性が職場の同僚だった男性の水筒にリシンを入れたとして逮捕されたりしています。

『007/カジノ・ロワイヤル』に登場した毒物「ジゴキシン」

ジェームズ・ボンドシリーズの映画『007/カジノ・ロワイヤル』では、カジノのポーカー勝負の場面で、悪役がジェームズ・ボンドのマティーニにジギタリス系の毒を盛ります。

ボンドは応急処置とAEDの電気ショックによって何とか息を吹き返していました。

ここに登場するジギタリスとは地中海を中心にアジアや北アフリカ、ヨーロッパに分布する植物です。

ジギタリス
Credit:Kurt Stüber (Wikipedia)_ジギタリス

そしてこの葉から抽出されるジゴキシンは、心臓の収縮力を強める薬として利用されています。

心臓の筋肉(心筋)が収縮するには、心筋の細胞の中にカルシウムが入らなければいけませんが、ジゴキシンは、心筋の中のカルシウム濃度を増大させることで収縮力を強くしています。

そのためこの薬は、心不全などで心臓が弱っているときに用いられます。

ところがジゴキシンを大量に摂取すると、心室細動に移行する場合があり、死に至る恐れがあります。

推定致死量は10mg以上だと考えらえています。

毒性学の父と呼ばれたパラケルスス氏は、「全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ」という格言を残しており、ジゴキシンはまさにこのケースに該当するでしょう。

横溝正史『八つ墓村』に登場する毒物「ストリキニーネ」

「スタイルズ荘の怪事件」のジャケットイラスト
Credit:John Lane(Wikipedia)_The Mysterious Affair at Styles

アガサ・クリスティーの推理小説『スタイルズ荘の怪事件』では、スタイルズ荘の女主人がストリキニーネで毒殺されます。

ストリキニーネは、インドや東南アジア、オーストラリアに分布する植物マチンの種子から得られます。

ストリキニーネは非常に毒性が強く、体内に入ると、脊髄や脳幹に多く存在する「グリシン」を遮断します。

マチンの果実
Credit:Lalithamba from India(Wikipedia)_マチン

このグリシンは通常、抑制性神経伝達物質として働いており、ニューロンの活動を遅くし、筋肉の収縮を防いでいます。

ところがストリキニーネを摂取すると、これらの機能が遮断されるため、ニューロンと筋肉の過剰な活性化がもたらされます。

結果として、激しい痛みを伴って全身の筋肉が痙攣し、最悪の場合、呼吸麻痺により死に至ります。

人体における致死量は体重1kgあたり1mgです。

既知の毒物の中でも劇的な痛みを生じさせることで知られており、その特性から文学などで描かれることが多いようです。

横溝正史の推理小説「八つ墓村」でもストリキニーネが使用されています。

同じ「毒殺」でも、化学物質によって死に至る経緯は大きく異なる
Credit:Canva

ドラマや小説に登場する毒物がどのように人を殺すか解説してきました。

フィクションの中で毒物を口にした被害者は、一様に苦しんで倒れています。

しかしその体内では、毒物の種類や量によって様々な反応が生じており、死に至る経緯は全く異なるのです。

どのように抽出され、どう作用するかは物語を読む人より作りたい人にとって重要な情報かもしれませんが、たまには毒物の中身について興味を向けてみるのも面白いかもしれません。

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参考文献

Poisons are a potent tool for murder in fiction – a toxicologist explains how some dangerous chemicals kill https://theconversation.com/poisons-are-a-potent-tool-for-murder-in-fiction-a-toxicologist-explains-how-some-dangerous-chemicals-kill-199251
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