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ホントに所得倍増できるの? 岸田政権の経済政策はどこまで期待できるのか エコノミストが分析(2)


日本株はどう動くのか?

2021年9月29日の自民党総裁選挙で岸田文雄氏(64)が新しい総裁に選ばれた。10月4日の首相指名の臨時国会で第100代の総理大臣になる。

岸田政権になると、日本経済はどう変わるのか。日本株の行方はどうなるのだろうか。私たちは暮らしに期待が持てるのだろうか。

経済シンクタンクの4人のエコノミストが分析した。

「マイルドな分配政策」に市場はひと安心

日本株への影響はどうか――。市場はすでに岸田氏の自民党総裁選勝利と、来るべき衆院選での自民党の勝利を織り込んでいるとするのは、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストだ。「自民党新総裁に岸田文雄氏~今後の日本株への影響を考える」(9月30日付)の中で、こう分析する。

「改めて岸田氏の考え方や政策を整理します。岸田氏は、成長と分配の好循環による『新しい日本型の資本主義』構築が必要であるとし、『国民を幸福にする成長戦略』と『令和版所得倍増のための分配施策』を提唱しています。成長戦略では、5Gの早期展開など地方におけるデジタル・インフラの整備や、再生可能エネルギーだけでなく原発再稼働などを含む『クリーン・エネルギー戦略』を掲げています。

分配施策では、中間層の拡大に向け、住居費・教育費の支援強化、看護や介護などの公的価格の抜本的見直しを打ち出しており、また、所得が1億円を超えると所得税負担率が低下する『1億円の壁』を打破するため、金融所得課税の見直しに取り組む考えを示しています。ただ、高所得者層向けの増税や、中低所得者層向けの巨額支援といった極端なものではないことから、比較的マイルドな分配施策といえます」

つまり、投資家たちから見れば、共産党や立憲民主党などが主張する「極端な格差是正」対策ではない点が、市場に好感を持たれているというわけだ。そして、日本株の一段高には新規好材料が必要だとして、こう続ける。

「金融政策については、物価安定の目標を2%とする現在の金融緩和を維持する方針です。財政政策については、年内に数十兆円規模の経済対策を策定すると表明しており、短期的には財政拡張を容認する模様です。また、消費税は10年程度上げることは考えないとする一方、財政再建の旗は降ろさないと明言しています。以上より、目先は景気支援型の政策が継続される見通しで、この点は株式市場にとって安心材料です。
ただ、(岸田氏が)自民党新総裁に選出され、与党が衆院選で大きく議席を減らすことはない、というところまで相場には織り込み済みとみられます。政局関連で日本株が一段と上昇するには、衆院選での与党圧勝や、目玉となる経済対策の公表など、まだ織り込まれていない目新しい好材料が必要です。また、一般に日本株にとっては長期政権が望ましいとされるため、今後は岸田新内閣の支持率や2022年7月の参院選が一層注目されると思われます」

市場は、岸田氏には政策面で安心感があり、残る課題は長期安定政権を築くことができるかどうかだというわけだ。

市場の関心は衆院選 岸田自民党は単独過半数とれるか?

とりあえず、市場の関心は年末の衆議院選挙で、「岸田自民党」が単独で過半数をとれるかどうかにかかっていると指摘するのは、野村アセットマネジメントの石黒英之シニア・ストラテジストだ。

「総裁選後の日本株と海外勢の姿勢は?」(9月29日付)の中で、こう分析する。
「衆院選は、新内閣の政策実行力を左右するとみられるだけに、自民党の獲得議席数がポイントとなります。2007年以降、直近まで7回の首相交代が起きましたが、新内閣の初回支持率は前内閣と比べいずれも上昇しており、平均で約37%ポイント高くなっています。新内閣は高い支持率で衆院選に臨むことになりそうです。また、足元の世論調査で自民党の支持率が上昇していることも考慮すれば、衆院選での自民党単独過半数の可能性は高まりつつあります。
直近10回の衆院選前後のTOPIX(東証株価指数)の動きをみると、自民党が単独過半数を獲得した局面では、衆院選後も株高基調が続く傾向となっています=グラフ1参照。日本株はすでにそうした期待を織り込んで上昇基調にありますが、実際、単独過半数確保となれば、新内閣の政策実行力を評価する形で、日本株を見直す動きが続く展開も想定されます」
グラフ1:過去の衆議院選挙前後の株価の動き(野村アセットマネジメント作成)
グラフ1:過去の衆議院選挙前後の株価の動き(野村アセットマネジメント作成)

その際、カギを握るのが海外投資家の動きだと指摘する。

「新内閣への期待だけに依存した日本株の上昇には限度があるでしょう。長期的な視点では日本株の保有比率が最も高い海外勢の動向が焦点といえます。アベノミクス相場が始まった2012年11月以降、『デフレ脱却』や『企業統治改革の進展』などに対する期待を背景に、彼らは日本株の買い姿勢を強めました。ただ、2015年を境に持ち高を減らす動きが加速し、近年は日本の企業業績が拡大しても、海外勢の日本株への投資は限定的となっています=グラフ2参照。
グラフ2:海外投資家の日本株購入の推移(野村アセットマネジメント作成)
グラフ2:海外投資家の日本株購入の推移(野村アセットマネジメント作成)
背景には先進国株と比べ、日本株のROE(自己資本利益率:稼ぐ力を表す)が相対的に低いことがあるとみられます。日本株と先進国株のROE差が縮まった2012年~2015年にかけては、収益力向上を評価した海外勢の買いが勢いづきましたが、このROE差が再度広がった近年では、その勢いはみられません。長期的な観点では、企業の収益力向上を後押しする政策が日本株の課題といえそうです。
幸いなことに日本企業は膨大な現預金(316兆円)を有しています。企業に設備投資や研究開発、株主還元を後押しするような政策により、余剰資金の有効活用が促され、日本企業の収益力が向上すれば、日本株に対する海外勢の評価が変わる可能性もあります。近年の日本株は、海外勢の期待があまり高まっていないとみられ、政策などのきっかけ次第で海外勢からの見直し買いが入りやすい環境にあるとみられます」

日本株上昇のカギを握る海外勢は、「岸田新首相のお手並み拝見」とばかりに厳しい目で見ているというわけだ。

(福田和郎)

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