はじめに


食べると厄除になる、病気をしない、福を呼ぶ。日本各地にはこうした「食べるお守り」が数多く伝わります。祭りや民俗行事で願いを込めて食される「まじない食」にはどんなものがあるのでしょうか? これからの季節に各地で味わえるまじない食を紹介します。
Text&Photo:吉野りり花

無病息災、家内安全…。
各地で受け継がれているまじない食とは


こんにちは。旅エッセイストの吉野りり花です。
食べると御利益があるとして、神社仏閣や民俗行事のなかで受け継がれてきた食べ物。私はこういった食べ物に興味があり、「まじない食」と名づけて取材をしてきました。訪ねてみると、全国各地に多様なまじない食があり、対応する願いもさまざま。無病息災、家内安全、五穀豊穣、大漁祈願など、お守りでも定番の願い事から、財をなす、リストラよけまであるから驚きです。
神社や寺院、民俗行事で氏子や信徒の方々によって受け継がれてきたものがほとんどですが、なかには一般の方が体験できるものもあります。今回はその中から、これからの季節に訪ねて体験してみたいまじない食をご紹介します。

ふろふき大根で無病息災 
浅草・待乳山聖天の大根まつり


まずは、食べると一年健康でいられるとされる「ふろふき大根」をご紹介します。東京・浅草の待乳山聖天で毎年1月7日に行われる「大根まつり」でふるまわれるものです。
待乳山聖天では大根を「体内の毒素を中和して消化を助ける」「淡白な味わいですべての人に好まれる」として、聖天様のおはたらきを表す象徴としています。境内のあちこちに大根が描かれるのはこのためで、供物にも大根を用います。正月に奉納される大根はなんと1000本を超えることも。こうしてお供えされた大根を参詣者にふるまったことが大根まつりのはじまりです。
やわらかく煮込まれたふろふき大根には、とろーり柚子風味の味噌だれがかかり、たまらないよい香りが。湯気のあがる大根をはふはふしながらほおばると、なんとも幸せな気分になります。

住所:東京都台東区浅草7-4-1
開催日時:1月7日 法要終了後~13時30分まで
電話:03-3874-2030


春の若菜から季節のエネルギーをいただく
京都・貴船神社の若菜神事の「若菜粥」


次にご紹介するのは、恋に効くパワースポットとしても知られる京都・貴船神社の若菜神事でふるまわれる「若菜粥」です。
貴船神社では年に5回、五節句神事を行っています。神様に献じる供物のことを神饌といいますが、1月7日の若菜神事では、七草を使った若菜粥を神饌としてお供えします(写真は貴船神社/若菜神事の神饌)。また、この日は参列者も神事の最後に、若菜粥の直会に参加できます。
若菜粥をいただくことは、厳しい寒さの中でめぶいた若菜で邪気をはらい、気をとりいれることと考えられます。

貴船は平安時代に都の丑寅にあり、鬼のすみかとおそれられた場所でした。五節句行事の発祥の背景にも、鬼の伝承とある恋物語があったそうです。
詳しくは拙書『ニッポン神様ごはん~全国の神饌と信仰を訪ねて』(青弓社)にて紹介していますので、ぜひチェックしてみてくださいね。

住所:京都市左京区鞍馬貴船町180
開催日時:1月7日 ※先着30名様まで殿内参列可能 ※詳細は要問い合わせ
電話:075-741-2016


お釜の形をしたおこしで財をなす
品川海雲寺の釜起こし


最後は東京・品川にある海雲寺の「釜起こし」、財をなす御利益があるとされるまじない食です。海雲寺は鎮守として千躰三宝荒神王を祀ることから、江戸時代よりかまどの神様、台所の神様として信仰されてきました。
3月と11月の年二回行われる大祭では露店がたち、「荒神松」と「釜起こし」が販売されます。「釜起こし」はご飯を炊く羽釜の形をしたおこしで、「身上(しんしょう)起こす(おこす)、かまおこし」としてこの日だけ販売されるものです。身上とは家の財産のことで、ここから転じて、財をなす縁起物とされます。
白、茶色、ピンク色があり、ころんとかわいいフォルムの「かまおこし」は食べてしまうのがもったいないくらいです。

住所:東京都品川区南品川3-5-21
電話:03-3471-0418

おわりに


そのほか、各地のまじない食については『日本まじない食図鑑~お守りを食べ、縁起を味わう』にも多数ご紹介しています。
知られざるまじない食をたずねて、皆さんも旅に出てみませんか?

プロフィール
◆吉野りり花(よしのりりか)

日本の旅ライター/旅エッセイスト。日本の風景、ふるさとの祭りや民俗、郷土食や食文化のエッセー・コラムを書く。日本文学を専攻後、神社の助勤巫女、和文化業界誌の編集を経た経歴をいかし、民俗行事や伝統文化について執筆。著書『日本まじない食図鑑~お守りを食べ、縁起を味わう』『ニッポン神様ごはん~全国の神饌と信仰を訪ねて』(ともに青弓社刊)。「りり花」の名はlyricalから、「日本の旅を詩的に」がテーマ。

情報提供元: 旅色プラス