旅館業法とは、旅館業の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発展を図るとともに、宿泊客の需要のニーズにあわせたサービスの提供を促進し、公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的に定められた法律。


旅館業法では、旅館業を「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と、宿泊を「寝具を使用して施設を利用すること」と定義。旅館業の営業を行う場合は、原則として旅館業法に基づく営業許可を得なければならない。


旅館業法は、厚生労働省を所管とする法律であるが、実務運用の大部分は地方公共団体が定める条例や規則に委ねられているのが特徴となる。


 


旅館業の定義、4つの判断基準とは


どのような行為が「旅館業」になるのかについては、旅館業法(1948年法律第138号)において、旅館業とは、「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」であることとされ、「宿泊」とは「寝具を使用して施設(ホテル、旅館等)を利用すること」とされている。


なお、ここでいう「営業」とは、施設の提供が「社会性をもって継続反復されているもの」に該当するかどうかで判断される。


旅館業法の定義及び解釈を踏まえ、厚生労働省の資料では旅館業にあたるかを判断する4つの判断基準として、(1)宿泊料徴収の有無、(2)社会性の有無、(3)継続反復性の有無、(4)生活の本拠かどうか、を示している。


ホテル・旅館営業※
施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの。

簡易宿所営業
宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの。

下宿営業
施設を設け、1ヶ月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業のこと。

(※)改正旅館業法施行の2018年6月15日より、従来の「ホテル営業」及び「旅館営業」は「旅館・ホテル営業」として、「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの」として一本化される。


 


(1)宿泊料の徴収の有無


「宿泊料」とは、名称のいかんを問わず実質的に寝具や部屋の使用料とみなされる、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費も含まれる。


ただし、食費やテレビ使用料など必ずしも宿泊に付随しないサービスの対価は社会通念上、これらのサービス対価と考えうる額しか徴収しない場合は、旅館業には該当しない。


しかし、「宿泊料」ではなく「食事代」などの名称で料金を徴収しても、その料金が社会通念上食費の対価として考えうる額を上回っている場合は、実質的に宿泊料を徴収していると判断され、旅館業には該当することになる。


 


(2)社会性の有無


「社会性」とは、社会通念上、個人生活上の行為として行われる可能性がある範囲を超える行為を意味するもので、「社会性がある」とは、友人や知人を泊めるといった範囲を超える場合に該当することになる。


日頃から交流のある親戚や友人や知人を自宅に泊める場合に関しては、「社会性」をもった行為には当たらないため旅館業の対象にはならないが、インターネット等を通じて不特定多数の人を繰り返し泊める場合は、旅館業に該当することになる。


 


(3)継続反復性の有無


年1回(2~3日程度)のイベント開催時であり、宿泊施設の不足が見込まれることにより、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高い場合は、継続反復性がないと判断されるが、そうではない場合は「継続反復性がある」と判断され、旅館業に該当することになる。


そのため、土日のみや特定の季節のみなどのように限定した場合であっても、宿泊料を受けて人を宿泊させる行為が反復して継続される場合は、旅館業に該当することになる。


イベント民泊ガイドラインによると、(1) 年に数回程度(1回当たり 2~3 日程度)のイベント開催時であ って、(2)宿泊施設の不足が見込まれることにより、(3) 開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような場合は、「旅館業」に該当しないものとして取り扱うとしている。


 


(4)生活の本拠かどうか


使用期間が1ヶ月未満  である場合や使用期間が1ヶ月以上であっても、部屋の清掃や寝具類の提供等を施設提供者が行う場合は、旅館業に該当することになる。


そのため、1日や1週間単位で施設を貸し出す民泊やウィークリーマンションは、利用者の生活の本拠には当たらないため、旅館業法に該当する。


また、滞在期間が1ヶ月を超える場合でもあっても、施設の衛生維持管理者が営業者にある場合、当該施設は利用者の生活の本拠ではないとされ、旅館業に該当することになる。


旅館業・・・ウィークリーマンション、1泊から貸し出す民泊

不動産賃貸業・・・マンスリーマンション、シェアハウス


 


旅館業法と民泊(住宅宿泊事業法)


上記で解説した旅館業の定義及び4つの判断基準を元に、昨今利用者が急増する民泊は旅館業に該当するのかを改めて整理してみよう。


民泊サービスは、一般的にインターネットを通じて不特定多数の宿泊客を1泊から反復継続して随時募集していることから、(1)〜(4)のすべての要件を満たすため旅館業に該当することになる。


ただし、旅館業法の特例除外となる特区民泊の認定を受けた場合、または住宅宿泊事業の届出を行った場合は、旅館業法第3条1項の営業許可を受けることなく、旅館業に該当する民泊の営業を行うことができる。


なお、必要な許可を得ずに各種営業を行った場合は、罰則の対象となるため、注意が必要だ。


 


旅館業法違反の罰則とは


昨今、利用者が急増する民泊で、必要な旅館業法の許可を取得しない事例が相次いでいること受けて、旅館業の無許可営業に対する取り締まりや罰則強化が図られている。


これまでの旅館業法では無許可で旅館業を営んだ者に対して「6ヶ月以下の懲役または、3万円以下の罰金に処する」としていたが、2018年6月15日に施行される改正旅館業法では、「6ヶ月以下の懲役もしくは、100万円以下の罰金に処され、または懲役と罰金を併用」するなど厳罰化となる。


2017年12月に成立した旅館業法改正案では、旅館業を無許可で営業する者に対して、行政の取り締まり権限の強化及び罰則強化については以下の通りとなる。


旅館業の営業者への処置

・営業者に対する報告徴収/立ち入り検査

・営業者に対する業務改善命令

・営業者に対する許可取り消し/業務停止命令

・営業者に対する罰則規定

旅館業の無許可営業者への処置

・無許可営業者に対する業務停止命令

・無許可営業者に対する報告徴収/立ち入り検査

・無許可営業者に対する罰則規定

 


旅館業法政省令改正により構造設備基準が緩和


改正旅館業法により、ホテル営業及び旅館営業を統合し、営業種別として新しく旅館・ホテル営業が設けられることから、旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準などを定める旅館業法施行令や衛生管理要綱も2018年1月に改正。


これにより最低客室数や玄関帳場の設置などの構造設備要件が撤廃や緩和となった。具体的な改正内容については以下の通り。


旅館業法の改正について -厚生労働省-

旅館業における衛生等管理要領の改正 -厚生労働省-






























構造設備基準改正内容
最低客室数ホテル営業:10室、旅館営業:5室の基準を廃止
洋室の構造設備の要件の廃止洋室の構造設備の要件(寝具は洋式であること、出入口・窓に鍵をかけることができること、客室と他の客室等との境が壁造りであること)を廃止する。
客室の最低床面積1客室の最低床面積(ホテル営業:洋式客室9㎡以上、旅館営業:和式客室7㎡以上)を、7㎡以上(寝台を置く客室にあっては9㎡以上)とする。
玄関帳場(フロント)厚生労働省令で定める基準を満たす設備(映像などによる顔認証による本人確認機能等のICT設備を想定)を、玄関帳場等に代替する機能を有する設備として認める。
便所数値による規制は廃止となり、適当な数の便所を有すればよいこととする。


 


旅館業法と建築基準法、消防法


ここまでの章は旅館業法をメインに、旅館業の営業種別から構造設備基準などを説明してきたが、宿泊業を営むためには旅館業法の理解だけではなく、建築基準法や消防法の理解も必要になる。


ここからは、宿泊業を営む人が理解しておきたい建築基準法と消防法を解説していく。


建築基準法と旅館業


建築基準法とは、建物を建築するうえで最も基本となる法律で、建物の用途で建築基準が比較的緩やかな「一般建築物」と、より厳しい建築基準が課される「特殊建築物」に大別される。


旅館業法上の営業種別のうち、旅館・ホテル営業や簡易宿所営業の許可取得を行った施設は、建築基準法上は特殊建物の「ホテル又は旅館」に分類され、一般住宅よりも厳しい建築基準が課される。


なお、住宅宿泊事業の届出住宅や特区民泊の認定施設は、建築基準法上の用途は住宅扱いとなり、その形態に応じて住宅、長屋、共同住宅、または寄宿舎のいずれかとなる。


 


消防法と旅館業


消防法とは、火災を予防することにより国民の生命や身体、財産を火災から保護するとともに、火災や地震などの災害被害を軽減することなどを目的とした法律。


火災から宿泊客の安全を確保するため、ホテルや旅館などの宿泊施設は、「防火対象物」として指定されており、消防用設備などの設置、防火管理の実施など防火安全対策を守ることが義務づけられている。


旅館業法上の営業種別のうち、旅館・ホテル営業や簡易宿所営業の許可取得を行った施設は、消防法上は消防法施行令第一5項(イ)に掲げる「ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」に分類され、一般的なマンションよりも厳しい消防基準が適用されることになる。



消防法施行令別表第1 













5項(イ)旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの
5項(ロ)寄宿舎、下宿または共同住宅


 


防火対象物に係る表示制度


ホテルや旅館などには、消防用設備などの設置、防火管理の実施など防火安全対策を守ることが義務付けられているが、建築時には適法で建てられた建物が、その後の法改正などにより新しい基準に適合しなくなる場合があった。


そのような「既存不適格」が原因となったホテル火災が発生したことをきっかけに、できたのがホテルや旅館などの防火対策状況を可視化する「防火対象物に係る表示制度」だ。


本制度では、ホテル・旅館などからの申請を受けて、消防機関が審査を行い、消防法令や建築基準法による重要な建築構造などの基準に適合している場合に「表示マーク」を交付する。


なお表示マークには、「銀」と「金」の2種類があり、表示基準に適合した場合、最初は有効期限が1年間の「表示マーク(銀)」が交付され、その後3年間継続して適合していると認められると「表示マーク(金)」が交付される。


ホテルや旅館の防火安全対策が分かる 表示制度が始まります!


 


情報提供元: Airstair
記事名:「 旅館業法とは ホテル、旅館、民泊などの許可要件を徹底解説